第28話 実力
「......」
「......」
「......」
木村先生によるアイドル適正診断を終え、俺、茜、アッティは学校近くのカフェに居た。
結果からいうと俺が総合的に最下位。運動神経には自信がありダンスならなんとかなるかと思いきや、現実はそれほど甘くは無かった。
そこに加えての歌の下手さ。オワタ\(^o^)/
俺の白い魂が口から出てふよふよと漂っている。
ちなみに左隣に座る茜も歌はめちゃくちゃ褒められていたが、ダンスがそれを帳消し......いや、それどころかマイナスにまでなっていたらしく、俺と同様に白目を剥いて口から魂を出していた。
彼女の評価はD、俺はE。
(どーすんだよこれ......)
「お二人共!なーにを意気消沈してるんですか!ちょーっと評価が低かっただけで!」
アッティが俺の背中をぱしぱし叩く。
「お、お前は良いよな......A評価貰えたんだし」
「わはは、は......すごーい」
茜の首がかくんかくんと人形のように振らさる。余程ショックだったんだろうな。綺麗な顔に影が落ちてホラー漫画みたいになっとる。
そんな茜の顔にギョッとするアッティ。
「そ、それはそうですが。でも先生はポテンシャルを感じるって言っていたじゃないですか」
「まあ、確かにな」
これはあくまで現時点での評価だ。そう先生は言っていた。つまりこれから伸びるかどうかは俺達次第。......頑張るしかないって事だ。
「茜さん」
「ふえっ.....!?」
ハッとする茜。俺はハンカチをだして茜のよだれを拭く。結構メンタル弱いんだよなぁ、この子。
「ご、ごめん、ありがとう......響さん」
恥ずかしそうに慌てる茜。よし、正気に戻った。
「ううん。......茜さん、先生に言われたこと覚えてる?」
「あ、うん。かろうじて」
あ、かろうじてなんだ。
「茜さんの評価の時、先生は言ってたよ。ダンスさえしっかりこなせればAになれるって」
「そ、そうだね......」
「茜さんの課題はそれだけ。だから、頑張ろう。俺も一緒に頑張るからさ」
ぱちくりと瞬きをした茜。彼女は少し驚いた顔で頷く。
「う、うん......わかった、がんばる」
「うん」
茜はダンスだけ。ならまだなんとかなる。最悪、俺の神力で彼女の身体強化を施してって奥の手も。
「さて、そろそろ出よっか。家まで送るよ」
「あ、私行くところがあるので、大丈夫です」
「そう?」
店を出て茜と別れる。彼女の後ろ姿を見送り、俺達も夕食の買い出しへとスーパーへ向かって歩き出す。
「茜、落ち込んでたな」
「ですねえ......まあ、なんとなく気持ちはわかります」
「わかるの?」
少し不思議だった。あれだけ普通にダンスも歌もこなせていたアッティに出来ない人間の気持ちがわかるのかと。
「多分、落ち込んでいたのはダンスが下手だからではないですよ」
「?、どういうことだ?」
「あれはおそらく、応援してくれてる人の前で不甲斐ない姿を見せて失望されているのではないかという不安です。......だからさっき響くんが一緒に頑張ろうって言った時、目に生気が戻った」
「!」
確かに。それまで様子がおかしかったのに、そのあたりで正気に戻っていた気がする。
「それより問題なのは、響くんですねえ」
「げっ......いや、俺はほら、神力で」
「いや、それですよ。さっき、茜さんのダンスの件も神力でなんとかしようと思ってませんでした?」
「え」
「はあ、やっぱり」
「え、エスパーかよ......なんでわかった?」
「もう結構一緒にいますからね。それくらいわかります」
「マジか」
「茜ちゃん、アイドルになりたいんですよね。なら神力なんて使ってなんとかしようとするのは無しです」
「それは.....どうして?」
「昨日いったじゃないですか。努力している人間の輝きは美しく魅力的だと」
「それはそうだけど。でもやっぱりアッティはわかってないよ」
「何がです?」
「出来ない人間の気持ちが」
「!」
「もしそれでアイドルになるという夢が叶わなかったら?努力して努力して、その後に成功という結果が無かったら?」
どれだけ魅力的でも、どれだけ実力があったとても、結果が残せなければ意味が無い。
「それは......」
「俺は、茜の未来を守れるならこの力を使う」
◆◇◆◇
「おねーちゃん」
「わ!びっくりした」
職員室、おねーちゃんは一人机で仕事をしていた。
「まだお仕事してんの」
「まあね」
PCを見てみるとスクールアイドルメンバーのデータを打ち込んでいるようだった。
「ごめんね、おねーちゃん。仕事、ただでさえ忙しいのに」
「ん?なぁに?らしくないわね。そんなの気にしないで良いわ。ウチの学校でスクールアイドルを作る......私の夢だったしね」
「それは、おねーちゃんがここの学生だったときの話でしょ。それとこれとは別でしょ」
「ふふっ、別じゃないわ」
「そなの?」
「だってあの頃と同じ。私、わくわくしてるもの」
「わくわく......自分はもうやれないのに?」
「姫子は推しっている?」
「推し?漫画とかゲームのキャラクターにならいるね。それがなに?」
「アイドルでも漫画のキャラクターでも、推しが活躍すればわくわくしたりどきどきするじゃない。別にそれは自分じゃないけど、応援したくなる......そんな感覚ね」
「ふーん?」
「それより姫子はいいの?」
「なにが?」
「あの子達とアイドル目指さなくて」
......私も一度は夢を見たことがある。けれど、才能が無い。努力するという才能が。熱量が。
「私もおねーちゃんと同じだよ。あの子達の夢を推してるの」
才能はあるのだろう。自慢じゃないけど私は昔からなんでもできた。歌やダンス、ゲーム、勉強、色々。
勝ち続ける内に好きなものに対する熱が冷めていく。
だから、私達姉妹が好きだったアイドルはやらないほうがいいと私は自分の中で結論づけ、挑戦しようともしなかった。
好きなものは目指すより、見ている方が楽しい。
「そんなことより、おねーちゃん!あの子達すごいね」
「ええ、すごいわね。アッティさんはすでにアイドルとしてほとんど完成されているし、大宮さんと佐藤さんは光るものがある......これからどう伸びていくか楽しみね」
『アトゥリエーティ』
《総合》A
ビジュアル A
歌唱力 A
ダンス A
表現力 D
運動能力 A
『大宮茜』
《総合》D
ビジュアル A
歌唱力 S
ダンス F
表現力 F
運動能力 F
『佐藤響』
《総合》E
ビジュアル A
歌唱力 G
ダンス C
表現力 F
運動能力 S
◆◇◆◇
「響くん」
「ん?」
買い物の帰り。アッティが公園の前で立ち止まった。
「どうしたんだ?」
「あれ、茜ちゃんです」
「え?」
アッティの視線の先。薄暗くなりはじめ、外灯が明かりをつけているその下に茜がいた。
「ステップの練習ですね」
「ああ」
ぎくしゃくと不器用に足を運ぶ。なにも知らない人がみればダンスの練習だなんてわかるはずもない、謎の動き。
「......ちょっと進歩してませんか」
「たしかに」
体育館で見た時より、それっぽくなりつつあった。
はあはあ、と息を切らし、時折スマホをみてまたステップを踏む。多分、ダンスの基礎の動画でもみているんだろう。
今まで見たこともないような茜の真剣な眼差しに、俺は思わず息を呑む。
「茜ちゃんて意外と負けず嫌いなんですよね」
「え?」
「適正診断でずっと悔しそうな顔をしていました。歌の時も、あれだけ上手に歌えていたのに。ずっと」
「......気が付かなかった」
「私が思うに、そういうところも彼女の魅力なんだと思いますよ」
アッティが微笑む。
「ただ歌が上手いダンスが上手い......その結果だけがあっても駄目なんだと思います。そこに至るため、紆余曲折の過程で得た物にこそ、人の心を打つ何かがあるんじゃないでしょうか」
「......過程で得た物にこそ、人の心を打つ何かが」
多少マシになったとはいえ、まだ全然ダメだ。
ダメなのに、何故かあの姿に惹きつけられてしまう。
「さっきの話ですが.....多分、それが無いと結果には届かないんだと私は思います」
こちらにも気が付かずに必死に体を動かす茜。
たしかに彼女の姿は俺の心を動かしていた。
心臓を、想いを......。
それは熱なのか焦燥感なのか、明確な理由はわからない。
でも、外灯の光に照らされている茜の姿はまるでステージ上のアイドルのようで、俺の胸を震わせる。
『――努力している人間の輝きは美しく魅力的』
アッティの言葉が脳裏で繰り返された。
「......俺も、輝けるのかな」
「えっ......?」
口をついて出た言葉。
唐突な言葉にぽかんとするアッティ。
別にアイドルになりたいと思ったわけじゃない。
「なれますよ、響くんなら。みんなと一緒に」
そうだ。アイドルになりたいとは思わない。
......けど、どうしようもなく、まるで憧れにも似たような感情を抱いてしまう。
茜という小さなアイドルの、あの輝く姿に。
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