第27話 顧問


次の日の放課後。俺と茜、アッティは木村先輩に連れられある職員室のある先生の元へ来ていた。顧問を引き受けてくれる先生というのはこの人の事だろう。


「連れてきたよ、おねーちゃん」


「やあ、キミたち」


右手を小さくあげ微笑む茶髪のショートボブの先生。白衣を纏う彼女はこれでも英語担当の先生だ。


って、おねーちゃん?


「え、木村先生って、先輩のお姉さんだったんですか!?」


茜が驚く。


「そだよー。スクールアイドルならおねーちゃんが適任かなって思ってさ」


いや、でも確かに。見比べると顔立ちが似ている。姉妹揃って美形なんだなぁ。


「話は聞いている。スクールアイドル、やりたいんだって?」


「はい」「はい!」「はーいっ!」


俺、茜、アッティが返事をする。


「おっ、元気いいねえ。よし、それじゃあさっそくだけど、これからキミたちの実力を測ろうか。場所を変えよう」


え、実力を測る?マジで?表情が固まる俺。それに気がついたのか、木村先輩がポンポンと肩を叩いた。


「あっはっは!大丈夫だよ、別にそれみて顧問やるかどうか決めるってわけじゃないから。おねーちゃんは単純にキミたちの力をみときたいだけなんだよ!だから緊張しないでしないで♪」


「あ、はい」


けど......そうは言っても俺の歌声はやばいぞ。こんなの聴かれたらいくら試験じゃないとはいえ、脱退を強いられかねない気がする。

でも、神力は無いし......やるしかないのか。


「それじゃあ先ずはダンスでも見てみようか」


......せ、セーフ!!



◆◇◆◇



そんなこんなで体育館へと移動した俺達。体育館ではバレー部やバドミントン部、卓球部が活動しており、その中に突然入って来た俺達に自然と注目が集まる。


だいたい五十人くらいだろうか。多くの生徒の視線が集まっているのを感じる。


うおお、緊張する......空いてる教室とかじゃ駄目だったのかな。


「さてさて、それじゃあ時間も勿体無いしちゃちゃっと見ますか!簡単なステップからいくね。姫子の動きをみててね」


先輩の?あ、だから彼女もジャージに着替えてたのか。先生が手拍子を始めた。


「ほいじゃいくよぉ」


そういうと木村先輩は軽やかにステップを踏む。キュッとソールの音が鳴り、リズムよく脚を運ぶ。


「上手い」


俺は思わず呟いた。


「うん」「おお」


と茜とアッティも驚いた様子で先輩の動きに見入っていた。特別複雑でもない簡単な動き。けれどどこか優雅で人の目を引くようなステップだった。


「と、まあこんな感じ!」


おおーと皆が拍手する。


「さてそれじゃあ、アッティさん!やれるかな?」


先生がアッティを指名した。あ、これ指名制なのか。


「はーい!」


元気な挨拶と共に前へ出たアッティ。先生が再び手拍子をする。


「お」「すごい」


俺と茜は驚いた。彼女は完璧に先輩の動きをトレースをしてみせたのだ。さすがは女神......やるな。


「はい、ストップ!アッティさんダンスは経験者なの?」


「いえ、初めてです」


「ええっ、すごいわね!リズム感が良いのかしら。オッケーよ!」


「......ありがとうございます」


戻って来るアッティ。けど.....あれ?どうしたんだろう。いつもの彼女なら「いえーい!さっすがパーフェクトヴィーナス!!」とか言ってテンションバカみてえに上げるのに、妙に大人しい。


「......アッティ?どうした?気分でも悪いのか」


珍しく彼女は浮かなそうな顔をしていた。せっかく褒められたというのに。


「いえ、大丈夫。気にしないでください」


「?」


こんなアッティは初めて見た。もしかして疲れたのか?普段運動とかしてねえしな。


そして順番が周る。


「はい、それじゃあ大宮さん!前へ」


「は、はいっ」


びくりと震える茜。緊張してるんだろうな。


「茜さん、リラックス」


「う、うん、ありがとう響さん!」


引きつった笑みを浮かべ彼女は前に出た。そういや茜って運動苦手だったよな......アイドル志望だしダンスの練習はしていると思うけど。実際どうなんだろう?

先生の手拍子がリズムを刻みだした。


「それじゃあどーぞ!」


茜がステップを踏む......かと思いきや、これは。


「えっと」「むむっ」


茜のステップは......ステップでは無かった。ダンダン、と踏む地団駄のような、足踏み。しかし体全体の動きをみればカクカクとしたロボットのような印象を受ける。


壊れかけのモ◯ルスーツか......?


ガクガクブルブル、ガクガクブルブルと緊張による震えも激しくなってくる。


しかし足踏みは力強く、ダンダン、ダダーンッと大きな音を立てている。


次第に茜の顔が羞恥心で赤く染まってきた。はやく終わって欲しいのだろうか、動きが加速し最早手拍子とは全然合っていない。


(さ、三倍......!?)


俺は隣のアッティを横目で見てみる。


「......ッ、ふっ」


彼女も流石に笑ってはいけないと思ったのか、顔を赤くしてぷるぷると堪えていた。あ、こいつもちゃんと空気とか読めたんだ......いや、成長したのかも。人間界での生活で空気を読むことを覚えたのかもしれない。


「よ、よし、オッケー!大宮さん、とりあえずいいよ」


「は、はいっ、ありがとうございますぅ」


しょんぼりする茜。そうか、あの緊張の仕方は自分がダンス駄目だって知っていたから。

体育館にいる部活動の生徒達からくすくすと笑い声が聞こえてくる。俺とアッティは背を向けていたからわからなかったけど、多分茜はそれをモロに目の当たりにしていたはず......さぞ恥ずかしかっただろう。


「頑張ったな」


「......え」


俺は茜の頭を撫でた。いつもの癖。けど、いつもとは違う。


こんな大勢の前で、めちゃくちゃ恥ずかしかったはずだ。なのに途中で逃げたりしなかった。


茜は――


小学生の頃、授業で当てられたときうつむき黙って許されるのを待っていた。約二十人のクラスメイトの視線。茜は最後まで答えられず、顔を上げなかった。


中学生の頃は、選ばれた劇の主役をどうしても私には出来ないと本番三日前に交代してもらった。あの時の震えた声、丸まった背中と伏せた顔。


他にも数え切れないほど、そういった場面はあった。


けど、さっきは違った......違ったんだ。


茜、俯いて無かった。


ちゃんと前を見ていた。


(.....本気で、アイドルやりたいんだな)


.....俺も頑張らないと。


「さて、次は佐藤」


「はい」


俺は前へ出た。



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