第24話 帰宅
生徒会室を後にし、赤にの広がる廊下を歩く。
相変わらず校舎内にいても遠くからは運動部の声が聞こえてくる。
そして俺はいつも思う。どこからあんなモチベーションが生まれるのだろう。たった数度の試合の為に多くの時間を浪費して苦しい練習をする......そんなの俺には無理だなと。
「わーいわーい!!スクールアイドルですよー、茜さん!!」
「ね、やったね!アッティさん!」
キャッキャとご機嫌な様子で俺の前を歩いている二人。正直この二人の気持ちもあんまわかんない。
アイドルになる......そのためには練習をして、外の奴らの様に貴重な時間の大部分を浪費するんだろう。
俺は茜がアイドルとして輝けるように努力はするが、アイドルになりたいというその気持ちがわからない。
「どうかしましたか?響くん、そんな浮かない顔して」
「え?あ、いや......」
「大丈夫だよ、響さん。歌のこと心配してるんでしょう?みんなで練習して上手になろう!」
「......そうだな」
茜をアイドルにするため、俺が男に戻るため。とにかく、その二つの目的の為にやれることをやる。ただ、それだけだ。
ふと窓硝子に映る自分が目に入った。
長い黒髪、鋭い目つき――。
(......アイドル)
いつか、俺にもその気持ちがわかる日がくるのだろうか。
◆◇◆◇
「本当に歌がアレなんですね、響くん」
「......」
アッティと二人食器を洗いながら話す。あの後、現時点での実力を測るためとりあえずカラオケに行った。そこで判明したのが茜が異様に歌が上手いという事実。実は独学でボイトレをしていて、家にあるカラオケで練習していたらしい。
「でも、茜はめちゃくちゃ上手かったな」
「ですねえ!びっくりしちゃいましたよー!」
「ああ......俺もびっくりした。今まで知らなかったから」
「あれ?ずっと茜ちゃんと一緒だったんじゃないんですか?」
「そりゃ、ずっとべったりって訳じゃなかったからな。にしても、そんな素振りは少しも見せなかったから......驚いたよ」
「ふうむ。もしかしたら遠慮していたのかもしれませんね」
「遠慮?」
「ほら、初めてあった時に言っていたじゃないですか。アイドルになりたいなんて言えなかったって。歌を練習していたなんて知れれば、感づかれるとか思っていたのでは?」
「ああ、だから遠慮」
また俺の知らない事がわかった。この体になって良かったと思えることの一つだな、これは。
色んな事をあいつに我慢させていたのがわかる。
「でもでも、これからはスクールアイドルとして思いっきり歌えるので問題ないですよね」
「だな」
そうだ。これからは俺に遠慮なく、茜は思い切り活動ができる。
「はい、ラスト皿一枚」
「あい」
アッティに皿の泡を流し手渡す。それを布巾でふき、戸棚に収納した。
「いつもすみませんねえ、響くん。いつも食事を作ってもらっちゃってて」
「いいよ。出前やらコンビニ弁当ばかりだと金が尽きちゃうからな。あと体に悪いし。それはそうとアッティお風呂入ってくるから、明日の弁当用の冷凍食品すきなの選んどいて」
「はーい!」
にっこにこで手を挙げるアッティ。この無邪気な笑顔......下手すりゃ中学生どころか小学生にみえるな。
俺とアッティが借りて住む部屋はいわゆる3LDKというやつで、二人それぞれに個室がある。
基本互いの部屋に勝手に入らない事と取り決めをしているのだが、アッティが致命的に朝が弱く毎朝起こしているので必然的に俺はアッティの部屋に勝手に入らざる得なかったりする。
あとは定期的に部屋の掃除をしに入ったりも。すぐ散らかしてそのままだからなあいつ。この間なんて食べかけの弁当を忘れて放置してたからな......虫でもわいたらマジで最悪だから勝手に部屋に入ってる。
(あれ?料理もダメ、掃除もダメ、洗濯もダメ......ダ女神すぎねえか、この女神)
下着と寝巻きのジャージ、Tシャツを手に取りつつアッティの酷さを再確認し俺は眉を潜めた。
風呂場へと移動し、浴室の扉を開く。服を脱いで下着を外し俺は両手を天に突き上げた。
「んんん〜〜〜っ......ふぅ」
この体になってから本当に身にしみて思うことがある。それは胸は他人のを見るだけで十分だということ。
なんでかっつーと......これ、マジで重いんだよな。首や肩が物凄く凝る。ぶっちゃけ自分の胸になんて興奮もしなけりゃ嬉しくもないしな......むしろ下着が窮屈で辛いしデメリットまである。
いや、下着はちゃんとサイズの合うものを選んでいるんだよ。けど、最近またちょっとキツくなってる気がする......マジで勘弁してくれ。
ザァーと豪雨のようなシャワーで体を流す。今日一日の疲れを汗と共に落とすように。そして俺は髪を洗うために椅子に腰掛けた。
(えーとまずは髪を洗って、トリートメントして......)
――ガラッ。
「え?」
浴室の扉が急に開く。見ればタオルでタオルで体を巻いたアッティがいた。
「ちょ、アッティ!?」
「あ、丁度良かったです」
「なにが!?」
「え、いつも私が響くんの体洗ってあげてるじゃないですか。女の子の体洗い方がよくわからないからって」
「いや、それはもう覚えたからいいって昨日言っただろ......!?」
「まあまあ、遠慮しないでくださいよ。いつもお世話になってますからね、私のできることならお力になります!さあ、座って座って」
「ちょ、ちょっと」
「へっへっへ、暴れんなよお嬢ちゃん」
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