第23話 生徒会
――三階、生徒会室。
「ああスクールアイドルか......無理だな」
生徒会長がそう言いながら渋い顔をした。
「なんでですかーっ!」
叫ぶアッティ。
膳は急げと俺と茜、アッティの三人はスクールアイドル部を作るべく、その権限を持つであろう生徒へお願いに来ていた。
突然の来訪で、会長も忙しそうに仕事をしていることから追い返されるかと思いきや普通に部屋に入れてくれて話をきいてくれた。
部屋の中には年季の入ったソファーが二つ。テーブルを挟んで向かい合わせに置かれており、生徒メンバーらしき女性が一人横になっていた(寝てるのか......?)
更にその奥に黒の立派な机があり、その席に座っているのがこの学校では誰もが知る生徒会長、三年生、沖田時雄だ。そして右横にはいかにも書記って感じの眼鏡黒髪の女子生徒が立っている。
(......つーか始めて生徒会室なんて入ったな。意外と物が少ない)
――少しの沈黙の後、生徒会長はアッティに聞き返した。
「......なんでというのは?」
「別に部活動を作るくらい許可してくれても良くないですか?」
「いや良くはないな。新たな部を作るにはそれ相応の条件がある。お前たちはそれを満たしているのか?」
「条件、って?」
「まず一つ、部員数。最低でも五人が必要......五人いるのか?」
「いません!」
きっぱりと言い放つアッティ。
「......そうか。そして二つ、顧問。だれか観てくれる先生はいるのか?」
「いません!!」
「そうか。そして最後だが......これから部を作ったとしても活動費を割り当てる事ができない」
「な......!?」
驚き固まるアッティ。金の事になると目の色が変わるなこの女神は。
けど、そりゃそうだろう。実績もなにもない部にあてがわれる部費は少ないと聞く。ましてやこの学校には力の入っているサッカー、美術部があるんだからな。そちらを手厚くしたいに決まっている。よって俺達に渡せる金は無い。
「か、活動費の方はいりません。こちらでなんとかしますので......」
茜が声をあげた。
「ほう。だが、他は?顧問も部員もいないのだろう?なら無理だな」
ぐぬぬ、となっている茜とアッティ。しかし、助け舟は思わぬところから来た。
「ふぁー、あ......んむぅ。あのさぁ、キミたち。先ずは同好会から始めたらぁ?」
むくりと起きたソファーの生徒。まだ眠たそうに目を擦りながら彼女はそう言った。
「同好会?」
「そそ、どーこー会よっ」
小麦色の肌、銀髪のサイドテール。はだけた胸元のリボンがだらりと垂れ、桜色の下着が垣間見える。
生徒会長の横にいた書記が「姫子」と彼女の名を呼んだ。
「んー、なに?文香ぁ」
「余計な口は挟まないで。あなたはそのまま寝てなさい」
「でもさでもさ、後輩ちゃんが困ってんでしょう。ならお助けしなきゃっしょ?なぁ、キミたちー?」
ひらひらと手を揺らす。
「あの、えっと......あなたは?」
「ん?あたし?あたしは生徒会計の木村姫子、二年だよん♪」
「え、二年?」
驚きつい口にしてしまう。
「そそ、あたし優秀だからねい。スカウティングされて、生徒会入りしたんよ。ちなみにあたしだけ二年だよぅ」
いえい♪とピースする木村先輩。長い犬歯がなんだかちょっとセクシーだな。
「ま、んな話はどーでもいーとして。同好会なら顧問だけ居りゃ人数は三人でも大丈夫なんよ。だから、そこからはじめては如何かにゃ?ちなみに顧問はあたしがみつけてやんよ」
にやりと笑う木村先輩。茜は戸惑いながら聞いた。
「......同好会はやりたいです。けど、なんでそこまでしてくれるんですか?」
そりゃそうだ。木村先輩がここまでしてくれる理由がみあたらない。
「あたしは会計だからねー。ぶっちゃけ学校にとってメリットがあるかどうかで動く。キミたちがやろうとしているスクールアイドルってのは万一あたれば学校に莫大な利益が出る。それこそ全国的なアイドルなんて生まれた日にゃすげーことになるっしょ?」
人差し指を立てくるくると円を描く。
「倍率低いクジも当たる時は当たる。けど買わなきゃ当たるもんもあたんねえ......あんたらは自分らで部費をまかなうといった。だからコスパが良いから買っただけ。理由、おーけー?」
なるほど、そういう事か。
「かいちょー!どうっすか?認めてあげましょーよ」
生徒会長は何故か目を見開き木村先輩をみていた。それは隣の書記も同じでなにかに驚いているかのようだった。
生徒会長は眼鏡のずれを指でなおし、頷く。
「お前がそういうのなら、いいだろう。ただし、木村がいった通り顧問をつけることが最低条件だ」
アッティが「やったーーー!!!」と両手を上げ歓喜する。茜も目を潤ませ喜んでいるようだった。
ふとソファーの木村先輩と俺は目が合う。
「にひひっ、良かったね♡」
可愛らしくウィンクする木村先輩。おおう......つーか、この人もかなり綺麗な顔してるなぁ。
◇◆◇◆
騒がしい一年三人組が帰り、生徒会室に静寂が戻る。
「いやはや、可愛らしい三人組だったなぁー」
いや静寂ではないか。賑やかなのが一人起きてしまったからな。
「姫子、あなた......あの子達がホントにスクールアイドルで成功すると?」
俺が聞きたかった事を書記は質問した。
「さあ、どうかなぁ。わかんないねえ。スクールアイドルで成功するって、いうほど簡単じゃないしねえ〜......どうなることやら」
首を傾げる姫子。けれど俺の胸は高鳴ったままだ。おそらく書記も同じ気持ちだろう。
「......だが、お前の博打は必ず当たる。あいつらに将来性を感じたのか?」
木村の勘は当たる。昔からそうだ。こと金銭が関する物事には嗅覚が効くし外したことが無い。だからこそ俺は彼女を会計という座に就かせた。
あの一年三人は......それほど木村に何かを感じさせるモノがあったのか。
「さあ、どーでしょう」
木村姫子は無邪気に笑った。
「けど、あたしはすっごく楽しみだよ。こんなにわくわくするのは久しぶりだぁ♪」
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