第22話 申請
「いや、待って。大宮さん俺の歌の上手さなんて知らないでしょ?」
いわれて一瞬ぽかんとする茜。
「え、まあ、それはそうですが......でも、音痴ではない気がします。やりましょう、アイドル」
むむむ、めっちゃ食い下がるな。
「響くん。茜ちゃんがここまで言ってくれてるんです。試しにでも一度だけ挑戦してみても良いんじゃないですか」
「いや、一度って言ったって」
「響くん言いましたよ。出来ることはやるって」
「ああ、出来ることはな。けど、これは出来ない事だ」
「やって見てもいないのに出来ないだなんてどうしてわかるんですか?」
ぐぬ、なんでアッティまで......ああ、そうか。俺が直接アイドルをやれば信仰心が溜まりやすいんだ。だからこんなにもコイツはしつこいのか。
けど、欲をかいて失敗すれば意味がない。俺は俺の出来なさを知っている。明らかな危険のある道を回避しようとして何が悪い。
「どうしてもこうしても、昔言われたことがあるんだよ。小学校の時に......だから歌だけは無理だ」
俯く俺。そうだ、俺にだって怖いものはある。あの時の皆の目は、怖かった。
無言になる俺。その時、アッティが俺にこう耳打ちをした。
「あのあの、響くん。.....それ、ぶっちゃけ神力つかえばなんとかなりますよ」
「は?神力をつかう?」
「はい!響くんの身体能力を強化すればなんとか。感覚器官も質が向上しますし、歌もなんとかなるかと」
「.....マジか」
「マジですマジです。それに一時的な強化であれば、そこまで神力も消費しなくてすみますし、なにより稼げる信仰心からすれば十分に元はとれるかと」
茜は始終、「?」といった表情で俺とアッティがこそこそと話しているのを見守っていた。やべえ、いつまでも俺とアッティの会話で茜をおいてけぼりにしておくわけにはいかない。
(とりあえず......一度よく考えてから答えをだすか)
「あの、佐藤さん」
「あ、ごめん.....」
痺れを切らしたのか茜が口を開く。
「アイドルやりましょう」
にこりと彼女は微笑んだ。
「歌が下手でも大丈夫。想いは、ダンスやトーク......他の事でもちゃんと伝えられるから」
頬を指先でかく茜。
「えっと.....私もね、運動が苦手でさ、ダンス下手なんだよね。だから、苦手なものがあるどうしで一緒に頑張れたらとも思うの.....ダメかな」
彼女は真剣な眼差しで俺を見る。
「佐藤さんにはずっと隣で、私を支えて欲しい。私は、佐藤さんを支えるから」
その熱が心に伝わる。
これに応えなきゃ漢じゃないと思った。
――隣で、茜を.....支える。
「......わかった。やるよ」
「「!」」
「でもほんとうに無理だと思ったら辞める。大宮さんに迷惑だけはかけたくないから」
神力でどれだけ俺の音痴がマシになるのかもわからない。だから無理だとわかったら、すぐに辞める。
「ま、最悪口パクでどうにかできますよ」
アッティが笑う。しかし、茜がジト目で彼女をみてこういう。
「えー、いやだなぁ。ちゃんと歌は生で歌って欲しいけど」
「え、アイドルってみんな口パクなんじゃ!?」
「アッティさんそれ色んな人に怒られるよ」
勿論、口パクのアイドルだっているはずだし茜も知っている。けど、茜はそれを許さない。
(......だから、歌の音痴な俺なんかが居ると、いつか邪魔な存在になる。茜がどう思うかではなく、観ているファンにとって)
......だが、出来ることならなんでもすると俺は言った。言ってしまったからには挑戦はする。ケンカでもなんでも今まで逃げたことなんか無いし、これからも逃げるなんてしたくない。
「わかった。やってみるよ......頑張ってみる。だから、茜も立派なアイドルになってくれ」
茜の驚いたような表情。アッティがまたちょいちょいと突いてくる。
「?」
「てえてえ」
「なにが!?」
「なんでもないっす、へへ」
にたにたと笑うアッティ。絶妙に不快なその笑みはなんなんだ。
「えっと、それじゃあよろしくお願いします、佐藤さん」
「うん、大宮さん」
差し出された彼女の手を取る。小さな手は力強く、その想いの固さが現れていた。眼鏡の奥の目に宿る熱と共に、俺の中の何かに伝播した気がした。
そこにアッティの手が重なる。
「私もまぜてくれるんですよね」
「もちろん、というかお願いします。アッティさん」
「あい!」
アッティのキャラクターとビジュアルは大きな武器になる。このグループは二人の伸び次第で運命が決まるといってもいいだろう。
「ところで、響ちゃん茜ちゃん」
「「?」」
「我々は今日からこうして仲間となったわけですが、それに伴い一つ提案があるのです」
「提案?」
「なんですか?」
「名前の呼び方......決めません?」
「芸名的なことか?」
「あ、いえ違います」
「違うんだ」
「お二人共、ちょっと距離感ありますよね。名前の呼び方が」
「あー」「......」
苗字呼びってことか?
「我々は仲間です!もっともっと仲を深め、チームとしての一体感を堕すべきなんです!そうは思いませんか!?」
「い、一理ありますね......ふむ」
頷いた茜。
「わかりました。では......響さん」
「!」
なんだろう。妙にむずむずする。男の時も響って呼ばれていたが、違う恥ずかしさがある。アッティがジト目で詰め寄る。
「響、さん......さん?」
「こ、これでひとまずは許してください!」
「さん、かぁ」
「アッティさんだって、くん付けじゃないですか」
「あ、そっか。じゃあ仕方ないか」
「いや、なんで上から?」
「はい次は響くん」
「......茜さん」
「は、はい」
あの......そのもじもじするのやめてもろて。アッティがにたにたと微笑む。楽しんでやがるな。
「えっと、それはそうとこれからどうするんだ?まだ部活動自体はできてないんだろ?」
「はい。なのでスクールアイドル部を作るところからですね」
「となれば、あれですね。生徒会長の元へと向かいましょうか!」
アッティがグッと親指を立てた。え、これから?
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