第21話 弱み


「......へ?」


アイドルに、なんだって?今、なんて言ったの?


「あ、あれ?聞こえてない?えっと、佐藤響さん、私とアイドルしましょう!......だめ、ですか?」


「俺が、アイドル?」


「響くん顔、顔」


アッティがちょいちょいと二の腕をつつく。やべ、アホっぽい顔になってた。いや、けどアイドルって......マジでか?


「俺がアイドルなんて、それ本気で言ってるの?」


「本気ですよ。私、佐藤さんと......アッティさんと三人なら絶対上手くいく気がするんです」


茜とアッティ、そして.......俺。確かにアッティは愛嬌もあるし、小さくなったとは言え容姿も神がかっている。けど、俺は。


「難しいな、それは......」


その時アッティが不思議そうな顔でこう言った。


「え、なんでですか響くん!テレビとか観ていつも言ってるじゃないですか、『え、見た目だけでいうならこのアイドルより俺のが可愛くね?』って.....実は結構自信あるのでは?」


やめろおおおお!?なに、おま......そんなナルシストみたいな、それは人にいっちゃダメなやつでしょう!!やめて!?陰でイキっちゃうイタいやつってイメージついちゃったじゃんんんおれええええ!!


俺は「信じらんねえ!なに暴露してんだコイツ!?」という表情でアッティをガン見した。口をぱくぱくさせる俺。まるでまな板の鯉みたいだ。

しかしアッティは俺の視線に気が付かずにペラペラと続ける。


「いやあ、私も思っていたんですよね、響くんもアイドルすればかなり良い線いくんじゃないかって!」


「ですよねですよね!私も佐藤さんと始めて会ったときからずっと思ってて!!」


「ちょ、待って!無理だ無理無理!!人前で歌うんだろ!?俺には無理!!」


この女の姿で大勢に注目されるとか無理過ぎる!今朝の自己紹介でもかなりキツかったのに!


「え、でも可愛い自分を見てほしいんですよね?昨日も『明日、髪結んだほうが良いのかな?』って気にしてたじゃないすか」


!?て、てめえ、アッティこのやろう!!


「え、ホントに?佐藤さん可愛いなぁ、ふふ」


「ね!可愛いでしょう?それに一昨日は私がお風呂入ってる間、鏡の前で一人髪を結んだりしてポーズ決めてましたからね!おさげやツインテール、ポニテにしてそのあまりの可愛さに、一人でにまにまと微笑んでいたんですよう」


「いやなんで知ってるの!?お風呂入ってたんじゃないの!?」


「はっはっは!私がお風呂場へ入る直前、響くんの挙動が不自然だったのでね。入った振りして戻って観察してましたよ。あとスマホの履歴で女性の髪型調べまくってるの私知ってますよ、響くん」


「やめろおおおお!!もうそれ以上は勘弁してくれえええ!!!」


頭を抱えて崩れ落ちる俺。なんだこの唐突に開始された羞恥プレイは......茜の笑顔が辛い。恥ずい。消えたい。つーか人のスマホ見るなよ.....マナー違反だろ。


茜がしゃがみ込み俺の肩をぽんぽんと軽く叩く。


「でも、私、本当に佐藤さんアイドルになれると思うんだ。これはお世辞でもなんでもなくて、本心でそう思う。多分......私なんかよりも、すごいアイドルになれると思う」


俺は顔をあげた。


「そんなことない。大宮さんは、誰よりもすごいアイドルになると俺は思ってる」


「!」


「あの日、君がアイドルになると宣言した日から......そう、俺は大宮茜さんのファンなんだ。だから、そういう言葉はあまり言わないでほしい」


「......そっか、ごめん」


悲しそうな表情。言い方が不味かったかな。けど、茜の自分の価値を低くみるのは悪い癖になりかねない......ちゃんと伝えないと。例えこれが俺をその気にさせるためのお世辞であっても。


「それでどうするんですか、響くん。アイドルの話は」


「......いや、どうするもこうするも、そもそも俺とアッティはただの学生だろ。事務所にも所属してないし、アイドルだなんて無理だ」


「マジですか!?えっと......あ、そうだ!じゃあ、茜さんの事務所に入れてもらうのは......!?」


いやすげえな、アッティ。度胸が良いというかなんというか、その図々しさに舌を巻くわ。女神だからなのかもしれんけど。


「え、私も事務所に所属なんてしてないよ?」


「「え?」」


「ご、ごめんね。そういうことまだしてないんだ」


困り顔の茜。そりゃそうか。これまでずっと茜とは一緒にいたが、どこかの芸能事務所に所属しているとかそんな素振りは一切無かった。


「え、じゃあどうするんですか茜ちゃん」


「えーと、笑わないで聞いてほしいんだけど......」


「はい」


「スクールアイドルって知ってる?」


「......部活でやるってことか」


「うん、できたらなんだけど」


「スクールアイドルってなんなんですか?」


「えっとね、スクールアイドルというのは学校の部活動でアイドル活動をしている人達の事をいうんだよ。数年くらい前からスクールアイドルは数を増やし始めていて、今では大きな大会も開かれる程なんだ」


「そうなんですか!すげえー!!大会ということは......そこで成功すれば信仰心がたんまり入るのでは」


「信仰心?は、わからないけど、賞金もでたりして結構すごい盛り上がりになるんだ」


「賞金!?」


信仰心よか反応良いな。賞金。


「大会によってまちまちなんだけどね。ど、どうかな佐藤さん......一緒にやってくれないかな」


祈るような目で見つめてくる茜。そりゃメンバーならより近い場所でサポートができるし、色々な面でフォローしやすい。けど、俺は......。


「難しい、かも」


「......せめて、理由を聞かせてもらっても」


理由、はある。明確な理由、そしてアイドルとして致命的な理由が一つだけ。


「もしかして、音痴なのを気にしているんですか?響くん」


うーん。ふつーに言っちゃうんだね、アッティくん。


「そ、そうだよ......俺は歌が下手だ」


歌が下手なんて......ダンスが下手よりも致命的だろう。茜の脚を引っ張るわけにはいかない。だから、俺にアイドルは無理だ。


「ううん、そんな事無いよ」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る