第20話 お誘い
くすくすと笑う茜。
「ふたりともやっぱり、前にあったときと同じ。相変わらず仲が良いんだね」
「えへへ、そーなのです!もはや響くんとは最強のコンビと言っても過言じゃないですよ!な?相方!」
「誰が相方だ!お前とお笑いコンビ組んだ覚えはねえ」
「あははは、ホント面白いね二人共!笑いすぎてお腹痛いよ!」
体をくの字に曲げ腹を抱えて笑う茜。人見知りで恥ずかしがり屋な彼女が、人前でこんな風に笑う事は珍しい。これもアッティのおかげか。
「あのね、私二人になにかお礼がしたいんだ。何か食べたいものとかある?」
食事をごちそうしてくれるのだろうか。少しでも食費を浮かせられればかなり助かる。だが、それよりも......。
「えー、どーしよっかぁ響くん?ピザとかラーメンとか、お寿司とかどうかなぁ?」
よだれを垂らしながらちらちらと茜を見るアッティ。いやお寿司とか遠慮の欠片もねえな。多分食べたいものを片っ端から言ってるだけだろうけど。
茜はにこにこしながら俺に視線を向ける。佐藤さんは何が良い?と言うかのように。
「アッティ、違うだろ。俺等の目的を考えろ」
「目的.....はっ!」
カッ!と目を見開くアッティ。
ようやく理解したようだな。
「焼き肉ですね!?」
「うん、違うよ?」
駄目だかも。食べ物しか頭にないかも、この女神。
「えっと、茜さんは......あの日のこと覚えてるかな」
「あの日のこと」
「アイドルになりたいって言ってこと」
エオンで出会ったとき、彼女は俺にそう言った。あの日の言葉はまだ熱を失ってはいないか、その確認をする。
「うん、勿論......覚えてる。あれから私、頑張ってるよ」
そう言って彼女は微笑む。
「あ、そっか!」
アッティが手のひらをぽんと打つ。どうやら俺達の目的を思い出したらしい。
俺とアッティの二人で立てた作戦。それは茜がアイドルになるのを手助けし、信仰心を得るというもの。
茜がアイドルとして成功すれば、彼女のファンからも信仰心を僅かながら得ることができる。さらに人気がでて有名になればそれはより多くの信仰心になり、ひいては俺が元に戻る時間が大幅に短縮される。
茜が首を傾げる。
「あのさ、大宮さん。俺達、君がアイドルになりたいって話してくれたあの日、なんていうか......すげえなって思って、感動したんだよ」
言葉が拙い。けど、俺は元々思いを口にするのが苦手だ。だから、想いを......あの時感じたままにこの熱を伝える。
「すごく胸が熱くなって、大宮さんは本気で頑張りたいんだって、知った。だから、俺達に手伝わせてくれないかな」
信仰心だけが目的じゃない。茜の、アイドルとしての成功を俺は心から願っている。茜がアイドルとして活躍する未来を。そして、それは俺が男に戻れる道にも繋がっている。
だから俺は、茜の傍らで色んな障害から彼女の未来を守っていきたい。
「嬉しい、です」
ぽつりとそう言った。
「ずっと思っていました。いきなりあんな突拍子のない.....アイドルになりたいだなんて私の話に、真剣に付き合ってくれて......佐藤さんとアッティさんのお陰で勇気づけられて決心ができたんです。応援してくれるのは、すごく嬉しい」
俺はホッと胸をなでおろす。これでアイドル活動に協力することができる。これからも彼女の側に居続けることができると。
「.....あの、私からもお願いがあります」
「お願い?なに?出来ることならなんでもするよ」
「......えっと、その」
突然茜が落ち着き無く体を揺らし始めた。視線が定まらず、目が合わない。
「ど、どうしたの?言いにくいことなのか?」
「あー、えっと......まあ、はい」
言いにくいこと。活動を応援するにあたっての取り決めだとか、そういうことか?
それとも活動費関係?しかし天界からの支給からそれを捻出するのもまずい気がする。バイトでも始めるかな。
「あの、なんでも言ってくれていいよ。大抵の事はなんとかするし、頑張るから......いうだけ言ってみて」
「そ、そうですか......?なら、遠慮なく」
ふと妙に笑顔なアッティが気になった。まるでそれが何かを知っているかのような。
「えっと、じゃあ言っちゃいますね。.....佐藤さん」
「あ、ああ」
斜陽に照らされた茜の髪が美しい。
胸元で握りしめた両手、強い意志の垣間見える瞳。
微かに風に揺れるスカート。
すべてがドラマチックに見える。
そこで気がつく。まるで告白するようなシチュエーションだな、と。
(......この緊張感は)
ドッドッドッと胸奥の心臓が鳴り出す。
これから何をお願いされるのか、全くわからない。
その様子から、活動費や活動の取り決めなどではない、別の何かだと言うことだけは察する事ができる。
そう、別の......覚悟のいる話だ。
茜の瞳に宿る力強さと、表情のこわばりを見れば、勇気を振り絞ろうとしているのがわかる。
それがわかるからこそ、こちらにも緊張が伝播する。
(なんだこれ、胸の高鳴りがおさまらない......)
まるで数年前にあった不良の抗争......デケー戦争を止めに行く直前のような、緊張感だな。
これからただならぬことが起る、気がする。
少なくとも、俺と茜にとっては。
「......さ、さ、佐藤さんっ!!」
「はい!!」
二度目のやり取り。けど一度目とは違って勢いがあった――来る!!
真っ直ぐ、目を合わせ彼女はお願いを口にした。
「佐藤響さん、私と一緒に......アイドルになってくれませんか!」
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