第19話 相談


「ご、ごめんね、佐藤さん......助けてもらったお礼を言いたかったんだけど、タイミングが無くって」


「あ、うん大丈夫」


ケンカの後、茜はなんども声をかけようとしてくれていたのだが、俺とアッティの周りには必ず人が集まっていてなかなか声をかけられる状態ではなかった。


「あのさ、それとは別に話したいことがあるんだけど」


「話したいこと......わかった。私も佐藤さんにちゃんとお礼言いたかったし......えっと、掃除が終わるまで待っててもらって良い?もう少しなの」


「うん、大丈夫。......てか、暇だし私も手伝うよ」


俺は余っていた雑巾を手に取る。アッティもそれに習って雑巾を手にした。


「え?わ、悪いよ!掃除当番じゃないでしょ」


「いいのいいの」


俺とアッティはまだ来たばかりということで当番を割り振られてなかった。だからあとは帰宅するだけなのだが、こちらも茜に用がある。つーか護衛的な事もしたいし。


ただ待っているのも暇だし手伝おう。ついでに信仰心も稼げるからな。


「......ありがとう、佐藤さん」


他の掃除当番の生徒達からも礼を言われ、雑巾で拭き始める。


アッティがもくもくと掃除をこなしていく。彼女と二人暮らしをしてもう一週間は経ったが、色々な事がわかった。

女神にとって、この人間界での生活はほとんど全て経験したことのないことばかりで、なんでも楽しいらしい。


いまやっている掃除や学校での勉強、散歩、その他のこと。人間にとって面倒に思うことでも興味の対象で、なんに対しても目を輝かせる。


ただ、アッティ生来のポンコツ具合が玉にキズだが。


「アッティさん、そこもう拭いてあるよ?」


「うぇ!?マジですか!?」


「うん、あははは!」


まあ、それは愛嬌でカバーしてるからさして問題にはならなそうだが。


......しかし、こないだの電子レンジに殻付き生卵ぶちこんでゆで卵を作ろうとしたのにはだいぶ焦った。聞けばあいつ電子レンジはなんでもできるし焼けると思っていたからな。なんならそれだけで全ての料理が作れるとすら思っていたし。おそるべし天界生まれの女神。


まあ、でもアッティは女神の中でも人間界の事にかなり関心のある方らしいからな。これでもまだいい方なんだろう。知識の偏りがすごいけども。


やがて掃除の時間が終わり、掃除用具をみんなで片付け始める。


「ふぃー、楽しかったぁ」


「ふふ、アッティさん偉いですね」


「そう?それじゃ茜ちゃんも偉いですね」


なでなでと茜の頭を撫でるアッティ。


「あ、ありがとう、ございます」


「にへへ」


にっこりと笑うアッティ。


「じゃあ交代です!私も撫でてください、茜ちゃん!」


「あ、う、うん.....よぉし、よぉし......なーでなで、なーでなで......」


アッティの頭をやさしい手つきで撫でる茜。そのアッティ様はまるで撫でられ気持ちよくなって目を細めている猫ちゃんだった。ギャラリーが何とも言えない表情でそれを眺めている。これがアッティがよく言っている尊いってやつなのだろうか......。


「あ、え、えっと......さ、佐藤さんも?」


おずおずと首をかしげこちらを見る茜。控えめに手をこちらに向け、撫でる?と聞くように頬を赤らめ視線を向けてくる。

小さな手。爪には薄っすらラメがついていて、より可愛らしい。


「あ、い、いや俺は大丈夫かな」


流石にこの注目集まる場で撫でられるのは......決して嫌というわけじゃないんだが、恥ずかしくて溶けちまう。

茜はきょとんとしたあと、小さく微笑む。


「そっか、うん.......わかった」


......うう、う。嫌じゃないんだよ、嫌じゃ。



掃除の時間が終わり、茜とともに裏庭の公園へと移動した。ほとんどの生徒が部活動に所属しており、このタイミングだと裏庭には生徒が少ない。

まあ、だからこそここに来たわけだけど。ちなみに家の学校はサッカーと美術部が強くて有名らしい。よくは知らないけど。


「えっと、あの......佐藤さん。助けてくれて、ありがとうございました」


ぺこりと頭を下げる茜。さらりと流れる亜麻色の髪が光を反射してキラキラと輝く。髪の手入れちゃんとしてるんだな......女になってから、この長い髪を手入れし始めてその大変さがしみじみとわかる。

ぶっちゃけ面倒だからやりたくないんだけど、アッティがキレだすので仕方なくやってる。未だに切らせてくれないし。


「あ、いや別に。......そんなに気にしなくていいよ」


俺がそういうと茜はにこりと微笑む。


「けれど、まさか佐藤さんとアッティさんにまた会えるとは思いませんでした。前にお会いした時にはこの学校に転入することが決まってたんですか?」


「えっと、まあ......同じ学校だったんだね、大宮さん」


「はい。また会えて本当に嬉しいです。あの後、連絡先を聞いて置かなかった事を後悔して......またエオンに探しにいったりしたんですよ」


「え、マジで?」


「マジです」


こくこくと頷く茜。


「んま、また出会えて良かったですね、茜ちゃんも響くんも」


アッティが紙パックジュースを飲みながら笑う。


「ん?」


俺はふと気になりアッティに詰め寄る。


「それ、どうしたの?」


「え」


ぴたりと動きを止めるアッティ。


「それ、自販機で買ったのか?」


「あー......ま、まあ」


「アッティ、お小遣いこの間買ったエロゲで使い切ってたよな」


「ぎ、ぎくぅ!!」


「初回限定版は今しかねえって、残りの小遣いプラス俺の金も借りたよな?......つーことはそのジュースを買った金」


「あ、あー......えへへ、飲む?響くんも」


実はアッティは金遣いが荒い。女神だからというのもあり、そこらへんの感覚が鈍く、実は彼女には天界から支給された金を四日で使い切りかけていた前科がある。

なので、危機感を持った俺はアッティと話し合いをし、天界からの支給金を管理することにしていた。


食費やら水道光熱費、生活する上で必要な額を姉貴に聞きながら計算し、その余りをアッティの趣味に使えるようお小遣いとして渡していたのだが......。


「それ、天界から支給されたばかりの金だよな。お前のお小遣いで買ったジュースじゃねえよな?」


「ひ、ひぃ......でもでも!後でその分引けばよくないですか!?」


「おめーが勝手に使い込んだってーのが問題なんだよ!」


個人的に、え?使っても後で返せば問題ないやん?って意識はわりとヤバいと思う。そういう意識の甘さから借金を重ね負のスパイラルに陥るタイプは多い。実体験としてうちの親戚がそのタイプで金を借りにきた事があって、そんとき会話をしたらまさにそんな感じだった。


(アッティにそんなふうになって欲しくないからな......ちゃんと叱っとかないと)


そもそも天界からの支給は普通に俺のライフラインでもあるんだからな。そうでなくてもちゃんと管理しないと。ん?......てか、よくよく考えたらあれってぶっちゃけアッティのお小遣い代なんて含まれてないんだよな?......いや、けど使える金がないとかちょっと可哀想だしなぁ......うーむ。


「はあ、今回だけだぞ。今度からはちゃんと天界から支給された金は手を付けないで一旦渡せよ」


「は、はい!スミマセンでしたぁーッ!!」


ビシッと敬礼をするアッティ。


「て、天界......?エロゲ......」


(ギクゥ!?)


「って、あ、冗談か、ふふっ」


(あ.....良かった)


茜が少し戸惑いながら笑った。


あっぶねえー、茜いるの忘れてたわ!



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