第16話 接触
「佐藤さん!」
休み時間。そう言って沢山のクラスメイトが俺の席へと寄ってくる。窓側の奥の席が元の俺の席で、空いていたのでそこが俺の席になる。その隣にアッティの席が用意され、その隣に茜の席。
三人が後ろに並ぶ感じで位置していた。
茜がちらちらとこちらをみて話したそうにしているが、休み時間のたびに俺とアッティの周りに集まり質問攻めをくらっていて、彼女と話す隙がない。
「ねーねー、佐藤さんすごく可愛いけど、モデルさんかなにかなん?」
「い、いや、モデルではないかな」
「じゃあ芸能人?」
「芸能人でもないよ」
「うっそー、このグラビアの人よりも全然綺麗だけどなぁ」
男子が雑誌のグラビア写真を見せてくる。
「あはは、は」
ふと誤魔化すように愛想笑いをする自分に驚く。
(.....気まずい、かも)
今までこういった感じにちやほやされた経験が無かったからか、どうしていいかわからない。
それに対して俺よりも人間関係の経験が無いアッティの方はというと。
「あはは、アッティさんホントに面白ーい」
「え、え、本当にわからないんですって!」
「知らないなら、こんど実際にパフェ食べに行こうよ」
「マジで!?食べたいです!!パフェ食べたーいッ!!!」
なんか普通に楽しそうだった。こいつ、コミュ力強すぎるだろ。なんで普通にクラスにとけ込めてるんだよ......って、そうか。こいつは異世界へ幾人もの人間を転生させる仕事をしていた。だから人と接する能力が高いのかも。
自己紹介の女神ボケ(ボケではない)で掴みも抜群だったしな......。
対する俺はというと、これまで友達と呼べる人は一人もおらず、話す相手は家族か茜かケンカ相手くらい。
それが急にこんな状況になったら、そりゃどうしていいかわからなくなるのは必然か.......。
愛想笑いしすぎて表情筋が、つりそう。
「あ、あの」
「どうしたの佐藤さん」
「ちょ、ちょっとトイレに」
「あたし案内してあげるよ」
「いや、先生に教えてもらったから大丈夫......」
半ば逃げるように教室を出る俺。扉を後ろ手に閉め、「はあ」と溜め息をついた。
廊下の硝子に俺の姿が映っている。
(......いや、まあこんなのが転入してきたら構いたくはなるか)
自分でいうのもあれだが、改めてみると確かにモデルかなんかやってそうなツラだよな。
「あ、あの」
「?」
突然声をかけられた。見ると隣のクラスの男子生徒。名前もわからないけど......なんの用だ?
よく見ると汗がすごい。顔も赤く、握った拳が微かに震えていた。
「え、だ、大丈夫?」
俺が聞くと、「ハイ!!」と大きな声で返事をした。び、びっくりしたぁ。
するとその時、俺はあることに気がつく。彼の後ろの方、階段から顔を出してこちらを見ている三人の男子生徒がいることに。
「......?」
あいつらは何やってんだ?不思議に思いつつも、俺は目の前にいる男子生徒に視線を戻す。
「顔、赤いけど......熱あるんじゃ。保健室いったほうがよくない?」
「いえ!!大丈夫です!!」
ええっ、大丈夫じゃないでしょう。
「あの!!」
「!?、は、はいっ!?」
より一層気合の入った一言にびくりと体を震わせ身構えた。
「佐藤、響さん!!はじめて見たときから、すごくお綺麗なかただと思っておりました!!あな、あなたがっ、好きですっ!!!お、お、お......お付き合い、くださいませんかっ!!」
......は?
ぶわっ、と俺の顔に彼の熱が移ったかのように赤くなる。
(え......え?なんて言ったの、今......)
冷静になれ、俺。いま、好きとか聞こえなかった?気のせいか?いや、間違いなく好きって言ったような......でも誰が誰を?俺のことを彼が好きってこと?そんなわけないよね?だって、今日登校初日だし面識もないはずだぞ......聞き間違えたか?
だってあり得ないでしょ。
そうだよ、そんなことあるはず無い。
「佐藤響さん!好きです!!」
いやはっきり言ってるー!!
「あ、え、あ......その」
だ、駄目だ混乱してきた!ケンカで奇襲されてもこんなにパニックになることなんて一度もなかったのに!!
「おい、待て」
反対方向から、さらに声がした。見れば一人の長身の男がこちらへ向かって歩いてくる。
金髪、ピアス、いわゆるイケメンと呼ばれるこの学校一の美青年。
三年、
身長189、体重76。
「......こいつが、あいつと同じ名前を持つ、佐藤響......」
俺と幾度となく拳を交わした、ケンカ相手。
(やっぱり、威圧感が半端ねえ......)
目の前まで来て奴は見下ろしてくる。ジッと俺の目を真っ直ぐに。
今までは少し見上げるだけで目があったのに、今の身長だとこの立ち位置では、ほとんど真上に顔をあげなきゃ目が合わない。
「......へえ」
?、なんだ......目つきがいつもと、違う?
(何と言うか、いつもは好戦的な感じで......)
そう混乱していると、不意に顔がぐんと近づいてきた。さらさらとした奴の前髪が俺の頬を撫でる。......え、いやこれ近。
(――はっ、ゼロ距離の頭突きか!!?)
しかし、額ではなく触れたのは鼻先......そして――
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