第15話 学校


「あー......買い物も散髪もできなかったなぁ」


俺はフードコートで項垂れる。向かいには大判焼きを口いっぱいに頬張りご満悦のアッティ。ちなみに二つ買わされた。


「でも響くん。なんでそんなに時間を気にしてるんです?」


「いやそろそろ姉貴のバイトが終わるから......姉貴の友達を装って家に居座るって作戦なんよ」


「それ、帰るタイミング合わせる必要あります?」


「え?」


あれ、よくよく考えたら別に......ないな?


「唐突なTSでだいーぶ頭が混乱していたみたいですねえ、響くん」


「うるせえ」


アッティのニタリ顔が腹立つ。


「まあ、なら焦る必要は無いか。アッティ、買い物付き合ってくれ」


「りょ!」


「そんで散髪か」


「あ、響くん髪は切らなくてもいいんじゃないですかね」


「え、やだよ。重いし」


「でもその髪型がベストなんですけどねえ」


「ベスト?」


「はい!一時間近くキャラクリしてたどり着いたのですよ!響くんのその顔にはロングヘアーがベストだと!!」


「ええ......」


キラキラとした目で語るアッティ。けどこの髪は長すぎだろ。腰まであるし。つーか、この髪型だから人にじろじろ見られてるんじゃねえのか?


「とにかく、少しだけその髪型のままにしていてください!」


「......なんか怪しい」


「えっ、な......怪しくないよ?」


目を逸らすアッティ。買ってあげたソフトドリンクのリンゴジュースをストローでちゅーっと飲んだ。


「そ、それよりもっ!!」


「おおっ!?」


だん、とテーブルに手をつき顔を近づけるアッティ。びっくりするからやめろ。


「な、なんだ?」


「響くん、ずっとご実家にいるつもりですか!?」


「いや、ずっとは無理だろうな」


「ですよねですよねー。そうだと思って、もう響くんの新しく暮らせる部屋をお借りしてるんですよ」


「え!?部屋借りた!?」


「あ、ちなみに私と二人で住む感じなのですが。まあこの美しい女神と暮らせるなんて、むしろ喜ばしいことですからね!さあ喜びなさい!!」


「やかましいわ!」


けど住む場所を提供してくれるのは助かる。


「え、ちなみに家賃とかは?」


「あ、それは大丈夫。天界持ちです。響くんのサポートで使用される費用は全てこちらで持ちますから......つまり、家賃水道光熱費、食費、学費にいたるまで全て!完☆全☆無☆料♪」


「マジで!?!?」


嘘だろ!?そんなことある!?これ、詐欺とかじゃないよね......?


「いやあまあ、響くんがこうなってしまったのは実際こちらの不手際ですからね......時間は戻せませんが、できることは全てやりますよ」


「そ、そっか......」


フォローがすげえ手厚い。手厚すぎて悪い気がしてきた。いやなにも悪くないんだけど。


「と、いうわけで買い物が終わり次第、私が借りた部屋へ帰りましょう」


「あ、ああ......姉貴に連絡しないとな。いや、その前に茜か」


そうだ、茜にメッセージ送らないと。俺はLONEのアプリを開いた。


「さて、どうしよう」


「どうしようとは?」


「いや、男に戻るのに結構時間がかかるだろ。しばらく学校にも行けないだろうし......なんて伝えたらいいものか」


「なるほど。響くんの失踪理由ですか」


「え、なにそれ。失踪とか怖い」


「いや、実際失踪じゃないですか。とりあえずこういう時に多く使われるのは、海外ボランティアとかですかね」


「海外ボランティア......」


俺が、海外ボランティア?違和感すごくね?


「理由としてちょうど良いんですよ。音信不通になっても忙しかっただとか色んな理由が後付できるし。国内、例えば引っ越しだとかの理由でどこかへ行くとかだと下手したら会いに来られちゃうので......完全に連絡を絶つという事もできますが、茜ちゃんに心配かけるのは嫌なんでしょう?」


......天界を海外と捉えれば、まあ海外っちゃ海外か。うん、ある意味海外ボランティア。こいつのミスをフォローするんだから。


「まあ、な」


しかし、だとしてもどのみち心配はかけちまうな。せめていつ帰れるかを伝えられれば良いんだが。


「......ちなみに、俺が男に戻れるまでの時間は、最速で一週間とか言ってたよな?」


「はい!」


でもあれはフィクションである漫画やアニメを参考にして割り出したあんまり信用の出来ないものだ。できるだけ現実的な戻れるまでの目安を知りたい。


「えっと、聞いていいか」


「なんですか?」


ちらちらとアッティがたこ焼きの店に興味をしめしている。


「これまでにこういったパターンはあったのか?俺のように姿を変えられて、元に戻すって感じの......」


「稀にありましたねえ。ただ、それらは全て異世界での話ですが。大抵の場合はそのまま適応してくれてましたけど......あ、私じゃないですよ?やったの」


なるほど.....ほとんどが泣き寝入りか。やべえなこいつら。


「ただ、響くんの場合は現世にかえされ、このままでは色々まずいかなって感じで私が責任をとらされサポートにきました。大抵はなんとかなる可能性があれば、そのまま放置ゲー状態ですが。あ、これ口外しないでくださいね」


怖え。大抵は放置されるんか......。


「それで、その元の姿に戻ったパターンがどうしたんですか?」


「あ、ああ......それってどのくらいの期間がかかったんだ?」


「それはですねえ、異世界とこちらでは結構信仰心の質が違ってくるんであまり参考にもならない気がしますが......一年ですかね」


一年......。


「スキルだとかレベルアップだとかで信仰心が余計に消費されてますからね。かかりますよね、異世界は」


「なるほど、わかった」


「わかったんですか!」


「いや、わからんことがわかった」


「デスヨネー」


けど、とりあえずの目安は伝えておいた方が良いよな。


「......目標、一年でいくか」


「お、一年ですか」


アッティはたこ焼きをガン見していてこちらの話には興味なさそうにしていた。こいつ......と、ジト目で睨むと、それに気がついたアッティは慌てて「あ、い、いいんじゃないっすか!?」と頷いた。


「でも、まあ。私はサポートですからね......目標が一年というなら、それを目指してサポートするまでです。だから安心してください、大丈夫ですよ」


アッティはニコリと微笑んだ。


「それに私と響くんの転入手続きもできてます。学校でなら、信仰心も稼ぎやすいですからなんとかなります」



......転入?




◇◆◇◆




――ガラッ



ざわつく教室。集まる視線。眼前には見知った顔が並ぶクラスメイト。しかし、逆に皆から見る俺は全然知らない人間だ。


「うわー、美人」


「え、転校生?」


「ねね、すごくない?あの黒髪」


「モデルさんみたいだねえ」


「読モだったりして」


「......か、可愛い」


白い半袖のブラウス。首元には青のリボンがついていて、未だ履きなれない紺色のスカートが少し動くたびにひらひらと搖れて落ち着かない。アッティに丈を膝よりちょい上まで引き上げられ、脚が見てくれと言わんばかりにまるだし状態。そのせいで羞恥心が凄まじい。


(......しかし、今になってわかる)


以前、エオンに行った日に感じたあの視線は、ケンカを売ってくるといったガンつけではなく、好奇の目だったことに。


教師が黒板に名前を書き終わり、ざわめく教室を鎮める。


「はいはい、静かに。えーと、見ての通り転校生だ。親御さんの事情で今日から皆と同じクラスメイトとなる。自己紹介、いいかな?佐藤さん」


「あ、えっと......はい」


うわぁー緊張する。


「佐藤、響です。よろしくお願いします」


ぺこりとお辞儀をする。その瞬間、教室中の生徒が「おおおー!!」と騒ぎ出す。おそらく、この教室にいた男の佐藤響と同姓同名だったのもあるのだろう。


あちぃ、顔が赤くなってるのを感じる。はず......。


奥の席、ふと、一人の女子と視線が合う。


それは俺の幼馴染。俺と同じ様に赤い顔をして、目を見開く。眼鏡の可愛いアイドル志望。


大宮茜。


「はい、それじゃあ次。佐藤さんの隣の、えーと......」


「はーい!!」


しゅばっ!と手を挙げた、白髪碧眼の少女。容姿は中学生のように幼く、屈託のない笑顔は好奇心旺盛が遊園地か何かに連れて行ってもらった小学生のように輝く。


「私の名前はアトゥリエーティです!皆さん、親しみを込めてアッティと呼んで下さいね!」


うおおおー!!と盛り上がる教室。いっけんハーフにも見える美少女が現れればそりゃ盛り上がるわな。まあ、俺のほうが可愛いけど。


「アッティさんはハーフなんですかぁ!?」


唐突に男子から投げられた質問。アッティはニコリと笑って返す。



「いいえ!私は百パーセント、天界生まれの女神です!いえい♪」





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