第13話 通話
姿を、戻す.......?
「え、戻せるの?」
「戻せます。まあ、神力量的に三分くらいの短時間ですが」
「三分か」
「ですです。ちなみに、それにはかなりの神力が消費されます。そしてそれがどのくらい消費量かというと、ここまでの稼ぎがパァになるくらいです。全て消滅。なので響くん次第って感じなのですが......どうします」
「やってくれ」
ノータイムだった。それで茜の不安が少しでも取り除けるなら、なんだって良い。そんな気分だった。
俺もあの真っ直ぐなアイドルの歌に熱されたのかもしれない。
「りょ!ではとりあえずトイレへ参りましょうか」
「え、トイレ?」
「そのまま男の姿に戻したらどうなるかわかりませんか?」
俺は想像する。胸が大きいとはいえ、小柄な少女の姿。それが一気に男の体格へと変わればどうなるか。そうか、このままいけば可愛らしいワンピースを着た変態が誕生する事になるのか!!......いや、それどころか下手すれば服がやぶれ女性物の下着を着けた犯罪者が誕生してしまう......!?
「トイレでどうするの?」
想像つくが一応聞いてみた。
「そらぁ、個室で全裸になるしか無いじゃない?」
無いじゃない?じゃねえよ!簡単に言いやがる。
「なんですかその顔......男のブラジャーが吹き飛ぶとこ見たいんですか?パンツが伸びる様をみたいんですか?」
「ぜったいに嫌」
顔が一瞬で真っ赤になる。想像しただけで死ねる。
「でしょう?なら全裸しか無いじゃない。行きますよ。茜ちゃんからの着信も切れちゃったし、早くこっちからかけ直さないと」
「た、確かに」
茜......不安になってるよな。俺とアッティはトイレへと急いで向かう。
「はい、つきましたー!奥の個室入ってください。私、となりの個室で神力操作しますんで、全裸になったら合図ください」
「え?ああ、わかった......」
俺は言われたままワンピースを脱ぐ。トイレの中とはいえ、服を全て脱ぐってのは抵抗あるな......。
「......脱いだ」
「オッケーです。では、男へ戻しますよ。三秒まーえ......ニ、一」
奇妙な光景だった。裸になった俺の体がどこからか発生してきた煙のような霧のような物に包まれる。これ火災報知器とか鳴らないよな?
そんな心配はいらなかったようで、すぐに霧が消えてそこには全裸の男の体.....つまりは元の俺の姿が現れた。
「あーっ、あーっ......男だ」
声を出して確認してみた。声色も間違いなく以前の俺のもの。
「早くしたほうが良いですよ、響くん。残り二分三十秒です」
「やべ」
俺は茜の携帯にコールした。しかし中々出ない。
(......どうした、茜)
もしかしてこの間で熱が冷めてしまったのか。
「残り二分です」
駄目か......?と、思ったその時。
『ひ、響くん』
「茜!」
繋がった!
『響くん、あの』
「どうした」
『えっとね、私......』
やはり言いづらいのか、中々その先の言葉が出てこない。茜のペースで、タイミングでアイドルになりたいと打ち明けてもらいたい。けれど、俺の方にもリミットが迫っている.....ここは俺から誘導してあげた方が良いか。
「あのな、茜」
『わ、私!』
すうっ、と大きく息を吸い込む音がした。
『アイドルになりたいの』
弱々しい、震えた声。けれど、その声には俺の心を震わせる熱があった。
『ずっと、ずっと、私の事守ってくれてたのに、勝手なこと言ってごめんね......でも、後悔したくなくて、だから.....その』
茜の言葉が虚ろいでいく。俺は彼女のその覚悟が消えてしまう前にと言葉を返した。
「うん。......そっか。わかった、頑張れ」
多分、そろそろまずい。
『呆れたよね、こんな私が......アイドルだなんて』
茜は、不安で仕方ないんだ。アイドルになりたいと打ち明けるために今日俺を買い物という名目でここへ誘った。なのに俺は来なかった......当日でのキャンセル。ドタキャンのようなものだ。
元々ネガティブ思考よりの茜だ。すべてを悪い方向に考えてしまっているのだろう。でも、俺はそれでも。
「呆れてなんかいない。俺は、茜ならアイドルになれると思ってる」
『本当に......?』
「本当だ。茜をずっと側でみてきた俺が保証する。茜はアイドルになれる、アイドルとしての魅力がある。そうだ、だから......俺が、茜のファン一号になるよ」
『私の、ファン』
「ああ。だからさ......俺が自慢できるような、立派なアイドルになれよ、茜」
――コンコン、と扉をノックされた。もう終了間近ということだろう。
「!、悪い、ちょっと時間が無い。切るぞ」
『......え?響く、』
通話を切った。悪い、茜。あとでLONEでメッセージ送るから。
けど、少しでも直接話せて良かった。言いたいことは伝えられたろうし、多少茜の不安も消せた......ように思える。
――コンコン、と再び扉がノックされた。
「アッティ、もう話は終わったよ」
俺はそう扉越しに返事をした。すると向こうからも返事がくる。
「や、やっぱり!?男の人の声......!!!なんで女子トイレに、男が――」
ア ッ テ ィ の 声 じ ゃ ね え !!?
(嘘だろ!?誰だ!?えええっ!?)
その時、扉がゆっくりと開き始めた。
.....え、あれ、俺......鍵――
一瞬で過ぎった記憶。
あ、鍵......締めてねえ。
(やべえええええ!!!鍵締めてなかったああああ!!!)
迂闊過ぎる!やべえ、もうこれアッティの事ポンコツなんて言えないレベルじゃん!!やばい、やばい、やばすぎる!!
全裸の男が女子トイレでスマホで通話してるとか、見られたら人生が終わっ
――扉が完全に開ききった。
「......」
「......」
扉を開け現れたのは清掃係のおばさんだった。おそらく清掃のタイミングだったのだろう。
俺は開けられる瞬間、ここだけはヤバい!と反射的に手で股間を隠したが、どうみてもこれは完全にアウトである。そこだけを隠せばセーフ
えっと......
どうみてもただの変態です。ありがとうございました(^o^)
清掃のおばさんは一瞬情報が処理できなかったのか真顔で固まり、しかしすぐにそれが青ざめた顔に変わる。そして「ぎゃああああーーーー!?」と高らかに悲鳴をあげながら爆速で目の前から立ち去った。はわわわ、ガチでヤバい。
(け、警備員をッ、よばれるッ!!)
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