第8話 不安


女神アトゥリエーティことアッティ。俺をトラック事故に巻き込まれ命を落とした人間......と、TS化させてしまった女神。彼女はその件で処罰され、女神の力である神力を殆ど奪われ人間界へと落とされたらしい。


そんな彼女には天界へと帰る為の条件が二つ提示された。


①人間界で神力を集める。

②その集めた神力で俺の体を元に戻す。


この二つを満たす事で、天界へと帰ることが許されるらしい。


しかしこの神力を貯めるのには時間がかかるようで、俺の体を元に戻すのに約十二年ほどかかるのだという。ありえんくない?


「......なるほど、それでアッティはここに居るのか」


しょんぼりしながらアッティが頷く。いや、十二年は長すぎだろ!と追求したら色々説明してくれた。


「はい。あなたの私生活をサポートするために天界からの現金での支給もあって......なので、元の姿に戻るまで暮らしていく場所もご用意できてます」


「いや、にしたって十二年はちょっと」


「す、スミマセン。ですよね、時間概念のズレを失念していました。人間の十二年と女神の十二年では全然違いますよね......」


女神のアッティ的には十二年は割と短いと感じていたらしい。しかも本来は十八年かかるとこを「頑張って十二年でやります!」と短めに言った事で喜んでもらえると思っていたようで、それが人の人生を目茶苦茶にしてしまうレベルの時間なんだが?というと目ン玉落ちるんじゃないかってくらい驚いていた。


ちなみにこの女神、今は落ち込んでいる雰囲気になっているが、おそらくあまり反省はしていない気がする。

そもそも最初の十八年かかると言ったのは、あれは十二年という時間を納得させる為に嘘だった。


よくある交渉術で、相手に要求を通すための心理的誘導。


まず大きな要求を提示し、その後に本命である先に提示したよりも小さい要求を出す。すると人は「......まあ、それなら(さっきの要求よりはまだ良いか)」という心理になり相手に本命である要求を通しやすくなるのだ。


なんでわかったかって?焦ったアッティが勢いで口に出してしまったからだ。「え!?せっかく漫画で勉強したのに!!うーん、やっぱ百年→十二年とかじゃないとお得感無いかぁ〜!」などと言っていた。そういう問題じゃねーんだわ。


「でも、ま!悩んでいても仕方ありませんね!ポジティブにいきましょう!」


なんかイラッとくるな......けど、まあそうか。アッティの言う通りだ。悩んでいても時間が無駄に消費されるばかり。

俺はお茶の蓋を開けようと手にかけている彼女に聞いた。


「なあ」


「はい?」


「具体的にその神力っていうのはどうやって稼ぐんだ?」


「あ、その説明をせねばですね。神力を得るには、まず人々からの信仰心を集めなければなりません」


「信仰心?」


「そうです。と、いっても感謝の気持ちだとか敬う気持ちだとかですね。それが私の力で神力へと変換できるんですよ」


「なるほど。要するに、ボランティアとか人助けをして感謝されれば信仰心が得られて神力が稼げるのか」


「ですです。......あ、ちなみに女神である私が得られる信仰心と人間である響くんが得られる信仰心には差があります」


「そうなのか?」


「はい。私より響くんの方が転生者スキルにより多く信仰心が得られるようになっているのです」


「転生者スキル!?」


「そうそう、TSプランに加入させたあとキャラクリしてそのあと私が女神がつけられる隠しスキルまで付与は完了してたんですよね。あとはあなたのチートスキル選びが終わり次第異世界へしゅっ......転生させることで終わりだったんですよ」


いま、しゅっ......って言ったけど、出荷とかじゃないよな?


「あと一歩で転生させられてたのか」


「惜しかったです」


「え?」


「あ、いえ。危ないところでした」


口を手で塞ぎニコリと微笑むアッティ。こいつもしかして異世界へ転送できていれば全部隠蔽できたのに、とか思ってない?


「ちなみにアッティと俺で得られるその信仰心の差ってどのくらいだ?」


「えっとですねえ、例えばこのペットボトルが空でそこに落ちているとしましょうか。これを拾ってゴミ箱へ分別し捨てる......すると私には10P信仰心が入ります」


「え、人に見られてないけど信仰心って入るのか?」


「あ、そーですよ。なので常日頃から良いことをするよう心がけておくのをオススメします。ちなみに悪いこと、例えば暴力を振るうとマイナスですのでお気をつけください」


「......ああ、そうなんだ」


もうケンカできないなこれ。


「で、話を戻しますと、私が10P得られるのに対して、響くんが同じことをやって得られるPは1000Pです」


「百倍!?」


「ですです!なので響くんにもお願いしたかったんですよ」


「......なるほど、それは確かに」


「どうでしょう、ご協力願えますか?」


「ちなみに俺が協力するとどのくらいで元の体に戻れる?」


「そーですね。学校生活だとか活動ができない時間を考慮して......二年ですかね」


「二年」


十二年から二年。十年も短縮される。けど、これって本当なのか?ただこいつが楽したくてまた嘘をついている可能性も......。


「例えば、ですが」


「?」


「もしもより効率よく信仰心を集める方法が見つかれば、更に戻れるまでの期間は短くなりますね。SNS、Yootuber、作家、アイドル......もしも人気のある何かになれれば、信仰心は飛躍的に集まるかと」


そうか、確かに今はネットがある分やりようによっては。


「それで、その、それだと......どのくらいで?」


「人間界の漫画やWEB小説、ラノベを参考に想像しかできないのですが、そうなれば最速一週間」


「一週間......!?」



いや参考資料に不安がありすぎるんだけど......。




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