第6話 再会
男の子の無垢な眼差しが辛い。
まだ穢れを知らぬその瞳。俺が本当は男だと知ったらこの子の瞳は曇り涙を流してしまうのだろうか。
いや勿論そんなことは言わないし、信じようも無いんだけど......妙な罪悪感でもやもやする。
男の子は俺の手を取り「あの、あの!」と見つめてきた。
(!?、な、なんだ!?)
どきどきする心音。なんで小学生にテンパらされてるんだ俺。しかし、小学生ながらもその真剣な眼差しに俺は静かに息を呑んだ。
「お姉さん、すきです......ぼくがおおきくなったらお嫁さんになってください」
「......へ」
唐突な告白に俺はポカンとする。一瞬なにを言われたのかも理解できなかったが、男の子の言葉を記憶の中からサルベージし、ゆっくり反芻することにより理解する。
えっと、俺は今告白をされたのか?
人生初の告白を、小学生に。
(はっ!?いや、違う!!)
生まれて一度も告白なんてものをされたことがなく耐性もない俺。だからこそ空気に呑まれ鵜呑みにしそうになったが、これは違う。
おそらく年上の優しそうな女性をみて好きになった気がしてしまう小さい子特有のアレだ。
俺もあったからわかる。小さい頃なんの気の迷いか、優しくしてくれる姉貴のこと好きになったことあったし。あれは俺の人生の黒歴史第二位。一位は勿論、ポンコツ女神にポンされた事。
って、どーすりゃいいんだ。この子への返答は......。
――はっ、そうか。あの手があった!
「えっと、そういえば君のお名前は?」
「あっ」
目を丸くする男の子。
「ごめんなさい、名前いうの忘れてた」
「ううん。大丈夫だよ」
俺がそういうと男の子はにかっと笑う。
「僕の名前は、あさぎゆうとっていいます!しょうがっこう三年生です」
「あさぎ、ゆうとくんか......」
「うん!」
こくこくと頷くゆうとくん。
「お.......じゃない。わ、私は、佐藤響って名前」
「さとう、ひびき......ひびきちゃん!」
「うん、そう」
「えへへ、ひびきちゃん」
めっちゃ嬉しそう!
「えっとね。それでなんだけど、ゆうとくんの好きは嬉しいよ」
「やったぁ!」と飛び上がり、ゆうとくんは満面の笑みを浮かべる。うーむ、期待されると気が引けてくるな。できるだけ優しく、柔らかい物言いで。......よし。
「でも、私は今高校生なんだ。すっごく歳が離れてて、ゆうとくんがおっきくなるころにはおばさんになっちゃってる」
まあ、おばさんっていうかおじさんというか。しかし、年齢という問題は彼には些末な問題だったらしい――。
「僕、それでもいいもん」
拗ねたように口をツンととがらせ上目遣いになるゆうとくん。ぐっ.....?、なんかこう、キュっと胸奥が締めつけられる感じがする。
心苦しい......こんなに小さな子が、俺なんかを慕ってくれてるのに。
「そっか。わかった......それじゃあゆうとくんがおっきくなって、それでもまだ私の事が好きだったら、また言って」
俺はこの話はこれで終わります、といわんばかりにゆうとくんの頭を撫でた。さらさらとした髪の毛。にんまりと笑みを浮かべ気持ちよさそうなゆうとくん。
それ以上なにも追求してこないのをみて俺はひとまず胸を撫で下ろす。子供とはいえ、俺みたいな奴がまさか人生で告白をされてそれを振る日がこようとは......わからないものだ。
と、それはそうと聞いておかなきゃいけない事がある。
「ところでなんだけど、ゆうとくんはお母さんかお父さんとエオンに来てたのかな?」
「うん、そーだよ」
「そのお母さんとお父さんは?」
「ふたりとも迷子」
なるほど......あくまで自分は迷子にはなっていないと。ふむ。
「そっか。それじゃあお母さんとお父さん見つけてあげなきゃね。一緒に探しに行こうか」
「うん!」
俺はスマホで美容室の予約を取り消した。ゆうとくんを放ってはおけない。
少し探して、見つからなければ迷子センターに行こう。
◆◇◆◇
一階、食品売り場や二階、子供のオモチャ売り場、広い建物内でどこにゆうとくんの親が居そうかを考えながら捜索する。
すると意外にも三回にあるゲームセンターで二人はすんなり見つかった。様子からして、二人もゆうとくんを探していたみたいで、こちらの姿を発見するやいなや慌てて駆け寄ってきた。
「ままー!ぱぱー!」
「ゆうと!どこ行ってたんだおまえは!」
「だってすっごく綺麗なアイドルさんがいてね、これはパパみたいに推し活しないとっておもったの」
「おお、推しができたのかぁ!ゆうと!.....って、おお!?ホントに綺麗な人だなぁ」
「あらあら、ホント......!」
「え、あ、いや、えっと」
唐突に褒められだして戸惑う。やっぱ俺ってかなり可愛いのか......?
そんな事を考えていると、ゆうとくんのお母さんが声をかけてきた。
「ゆうとを連れてきてくださってありがとうございます」
ゆうとくんのお母さんとお父さんが礼いい頭を下げた。俺は慌てて両手を振る。
「あ、いえ.....ぜんぜん」
「いやぁ、このゲームセンターにいなかったら店内放送をかけてもらおうかと思っていたんです。本当にありがとうございます、ご迷惑をおかけしてしまって」
「迷惑なんてかけられてないですよ。むしろ楽しかったです」
「僕もたのしかったー!」「おまえなぁ、ゆうと」
まあ終わり良ければなんとやらってやつだ。無事に親元まで送り届けられてホッとした。
「それじゃ、俺はこれで」
「俺?」
「あ!?い、いえ、私はこれで!あは、あはは」
やべ、気が緩みすぎて一人称が戻っちまった。ずっとちゃんと意識して「私」って呼べてたのに......最後の最後でボロがでちまった。あぶねー。
「ひびきちゃん!」
立ち去ろうと背を向けた俺にゆうとくんが言った。
「ひびきちゃんは、僕のいちばんの推しだからっ!」
「......!」
手を振るゆうとくんに俺は笑って手を振りその場を去る。......もう会うことも無いだろうけど、好きになった女の子を守れるような強い男になるんだぞ。ゆうと。
(......推し、推しか)
推しってアレだよな、一番好きなアイドルの事だよな。前に茜が言ってたから知ってる。
――俺が、あの子の推しか。
悪い気はしない。......まあ、俺はアイドルでも何でもないけど。
◆◇◆◇
そんなこんなで俺は美容室へと歩き始めた。予約はキャンセルしてしまったけど、空きがあればイケるかも?と淡い期待を抱きながら、エレベーターへと乗る。
.....お、すげー綺麗な子が居るなぁ。
中には俺と一人の子供。といっても先程のゆうとくんとは違って少し大人な中学生くらいの子だった。
白髪でハーフのような少女。着ている洋服もお嬢様を彷彿させるようなもので、ちょっとした英国風のドレスみたいに見える。
俺は彼女に背を向け、五階へのボタンを押す。するとエレベーターが上昇負荷を生みながら動き出した。と、その時。
エレベーターの内装にある銀色の縁。そこに有りえないものが写っていた。いや、有りえないものというか、状況というか。
なんと先程の白髪中学生が俺のすぐ後ろ、背後ぴったりに佇んでいた。背中に熱烈な視線を感じる。
(......え、怖え。もしかして知り合い?)
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