第2話 薬売り
縁起物とは言え、三番叟まわしは子供たちには、それほどありがたいものではなかった。それに比べて、薬売りは胸をワクワクさせた。
薬売りは、大きな風呂敷包みを背負って現れた。
契約した家庭に薬箱を常備し、定期的に巡って補充や入れ替えをする。薬箱を開けると独特の匂いがした。風邪薬、熱さましをはじめ、ヨーチン(ヨードチンキ)・赤チンの消毒液、血の道の薬などいろいろな種類が入っていた。
中でも喜ばれていたのは、正露丸だった。腹痛に効いた。虫歯が痛い時など、詰めると、たちどころに著効を発揮した。
子供たちのお目当ては、薬ではなかった。薬売りは必ずお土産を持参した。色鮮やかな紙風船が定番だった。
膨らませて、手でついた。紙風船は二、三日もすれば飽きられる運命だった。それでも子供たちを一時、夢中にさせてくれた。
薬売りは富山藩のお墨付きを得て、燎原の火のごとく、全国に広まった。とりわけ「越中富山の
地味ながらも、三番叟は国の文化財に指定され、伝承されている。一方の薬売りは時代とともに様態を変え、人々の健康を支える一翼になっている。日本を代表するビジネスモデルである。おまけ商法でもあり、幼心をくすぐる方法を心得ていた。
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