続 村の少年探偵・隆 その15 事ども

山谷麻也

第1話 門付

 四国の山間部、とりわけ千足村のような陸の孤島では、外部との接触はほとんどなかった。


 ふだん顔を合わせるのは、馴染みの村人か郵便屋さんくらいだった。このため、外部の出入りがあると、いやがうえにも目立った。


 そのうちの一人が、三番叟さんばそうまわしだった。


  村に、天秤棒で前後に箱を担いだ人間が現れる。


 何軒かの家の玄関に立つ。足元に置いた箱から、何やら取り出す。人形だった。手足が長く、だらんとしている。服の中に手を入れると、まるで生きている人間のように舞い始める。


 ひと段落したのか、人形を箱に折りたたむようにして戻し、別のものを取り出す。


  何体かが入っていた。いわゆる人形つかいは何か唱えていた。


 隆たちは奥の部屋から見ていた。村には人形に頭を撫でてもらったという子供もいたが、とても怖くて近づけなかった。


  三番叟まわしは、徳島藩に江戸時代から伝わる祝福芸とされる。家々を巡り、商売繁盛、家内安全、五穀豊穣などを祈願した。


 やがて香川県や愛媛県にも定着したものの、昔ながらの共同体の崩壊に伴い、見かけることは少なくなった。


 三番叟が千足村にきていたのは、隆が小学校の低学年のころだろうか。正月や松の内に門付かどづけしたとされるが、正確な時期は覚えていない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る