第31話

 お嬢系の女子高なのに最近は面白学生ばかりが増えて来た大奥に本当にお嬢様がやって来たと、竜心館の編入は地域住民に喜ばれた。コース名はそのまま『大奥・竜心館コース』になるようで、平坂が通う特進科とカリキュラムの一部を併合する事で合意がされたらしい。

 なんせ品行方正で美人さん揃い、花も恥じらう乙女を絵に描いたような彼女達だ。

 休みの日に竜心館コースの皆で(女子の仲良しグループという垣根はやはり崩れていない。この解決には時間を要するだろう)旧市街に買い物に来た時なんぞ、商店街の皆がウチの息子の嫁に如何だと騒ぎになり、ようこそ竜心館のお嬢様バーゲンが始まってしまうような熱狂ぶり。

 男子に対する免疫の無さは本丸・普通科や本丸・農業科の連中との触れ合いで徐々に慣れて来ているようで、喜ばしい事にカップル成立なんて話も聞こえて来ている。


 で、伝統工芸科である。


 僕と忠宗は今現在、大きな杭に身体を括りつけられて鞭で打たれている。

 これがなかなかに痛い。

 何本もの竹槍で身体を貫かれた忠宗は既に短絡して長い。

 親友には霊力が戻るまで、疑似的な死を楽しんで貰う他無いだろう。

「さて。殿、一つ聴きたいんだっちゃが?」

「なんだ、イケイケダ。池田会計事務所じゃ最近は拷問まで始めたのか?」

 バシィ!と、鞭が僕の耳を削ぐように襲い掛かって来た。

 うん、痛い。

「決闘でなんで手加減をせず、竜心館の皆を全滅させたかは問わんだっちゃ。俺等にとって理事長の命令は絶対だっちゃからな。結果を出す。命じられた事にはシッカリとな?その事については流石は俺等の代表。流石は俺等の殿だと自慢出来るっちゃ」

「うん、ありが_。」


「なんで倒した後にトドメとして全員の首を刎ねたかを、此処では聴きたいっちゃ」


 なんでもなにも。

 本気を出せと、理事長は言った。

 僕にとっての本気とはそういう事だ。

 殺せと。

 命じられたのだから。

 じゃあ殺す他、あるめえよ。

「なんでそんな怒ってんのかを逆に僕は聴きたい。結果出したろ。本気出したろ」

「黙るっちゃ!オメエが狂犬過ぎるから伝統工芸科全員がオメエみてえな狂犬だと思われて竜心館コースの皆から嫌われてしまってるんちゃぞ⁉あーんな綺麗で御淑やかで高嶺の花が大奥に編入されると聴き、こりゃあ高嶺の花が身近に咲いたっちゃと喜んでたらだ!俺等の顔を視るだけでガチで怖がられるようになったんちゃよ!」

 池田君、怒りの鞭連打。

 確か、イケイケダの精神感応兵器は片手で扱える脇差の筈だが。

 うん、痛い。

「ガチで僕等を怖がるって?それ、泣きながら逃げられるとかか?」

「本気で泣いてその場に座り込んじゃうレベルでなんだよ!俺等なんもしてねーのに何人もノリ兄から補導されてるっちゃ!俺なんか『お巡りさんの目の前でお嬢系の学校に通う女の子を苛めるたあ、いい度胸だな池田会計事務所の息子ぉ?』とか言われて身体真っ二つに掻っ捌かれたっちゃ!冤罪で断罪されたっちゃ!」

「それ、僕、悪くないだろ。兄貴の早とちりだ」

「お前等兄弟どうなってんだよ!簡単に人を斬り過ぎだよ!そして俺等の青春を返すっちゃ!」

 そうだそうだ、と。

 クラスメイト全員が幼馴染で構成された伝統工芸科の皆が騒ぐ。

 まあ、神降ろしをしていれば命を式で固定されるから死なない。

 別にそっちは問題じゃないらしい。

 問題は、竜心館から怖がられた事に在ると。

 コヤツ等は現を抜かしている。

「別に竜心館だけじゃないだろ女子は。元々大奥に通ってる皆だって充分な器量良しだし、旧市街出身の幼馴染と付き合ってる奴だっている。此処で死んでる忠宗とか」

「まずお前は完璧なお嬢様に嫌われたって事が男子にとってどんだけの損失なのかを知れ!確かに自殺してからの殿は女子に興味無くなったし?興味は無くても殺意はあるよって感じだし?それが殿の魅力だし?でも今回のやり過ぎだっちゃ!俺等だってお嬢様と仲良くしたいんだっちゃ!」


「あれ?つーか、イケイケダ。最近、剣道部の十兵衛とデート重ねてるって聞いたけど?」

「えっ…」


 そう。

 池田君と十兵衛ちゃんは最近、仲が良い。

 お付き合い寸前という見立ては忠宗とキヨミンによる。

「そもそも、お前が騒ぐの、おかしくないか?ウチの部長と仲良くしてんでしょ?」

「えっ…、あの…、その…」

 池田君が今度は伝統工芸科の皆から囲まれ、大きな杭に身体を括りつけられた。

 ロリっ子ボインで有名な柳生蓮ちゃんである。

 今度は池田君に嫉妬の火が燃え移ったらしい。

「じゃあ、僕は配達あるから。それと皆、既に池田君、柳生家に挨拶してるみたいだぞ?」

「貴様!許さんぞ!友を犠牲に己が助かろうとするその卑しくも浅ましい魂胆!我が怨念は必ずや三千世界を超えて貴様の魂を焼き尽くすであるぉーーーーーーーーーーーう!」

 配達があるのだ。

 アトリエでの池田君の死を乗り越えて。アトリエでの池田君の断末魔を聴きながら、アトリエ前の駐輪場で出番を待つ伝統工芸科の配達バイクに乗り込んだ。



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