第17話 さ、それじゃ殺しましょうかね
◇
「お集まりくださった皆さん。私は虎新館の武田心美です。本当に本日はお忙しい所、ありがとうございます。まさか、本当に皆さんが来てくれるなんて思ってもいませんでした。まさか、私の考えた通りに、私の企てた通りに、このリーダー研修会に、参加してくれるとは。これで目障りなハエを一匹、叩き潰す事も出来ます。これで目障りな犬を一匹、駆除する事も出来ます。皆さんの優しさに私はいつも救われています。本当に感謝いたします。これでまずは、策の一段階は完了致しました」
僕等は、囲まれていた。
武器を手にした、他校の生徒会長達に。
友人達は眼を見開き驚いている。
まさか。
まさか、此処までするのか。
武田心美。
お前の攻撃性は此処まで高かったのか。
僕一人を討つ為に。
岩手県全ての生徒会長を、味方に引き入れていたのか。
「お前等は僕から離れておけ。此処でお前等が怪我しちゃ騒ぎになる」
でも、と。
友人達は僕を心配してくれた。
「良いから。解ってた事、だろ?」
申し訳ないような表情をして、幼馴染は席を離れてくれた。
国賊を視るような眼で、他校生徒会長は武器を僕に向け続ける。
「目障りな犬とは本当に気持ち悪いものです。まるで一匹の狂犬を教祖にしたカルト宗教だ。信じた者の為ならば死ぬ事すら恐れず、犯罪を憎み弱者を救おうとする。何処までも自らを鍛え上げ、その鍛え身に着けた力を他人の為に振るう。そんなのは独りでやるべきであり信者を増やす事は自由な青春を謳歌する事への妨げとなります。青春に防壁は不要です。青春に障害は不要です。青春に制約も不要です。青春に制限も不要です。青春には規約も無ければ戒律も無い。自由であるべきなのです。狂犬は群れているから強いのだと周囲は認識していますが、こうして狂犬を独りにすれば、彼はただの孤独な剣客に過ぎません。彼個人の力なんて、微々たるものなのです。取るに足らない、ただの剣客なのです」
間違いなく、僕の事だろう。
カルト宗教というのはなかなか風刺が効いていて耳触りが良かった。その通りだ。康平教の信仰対象は可愛い豆柴である。信者は筋肉ダルマと幼馴染の連中が沢山。毎日毎日、お年寄り宅の訪問やシングルマザーのお子さんの受け入れなんかをやっている。
教団本部で。
それは今も行われている筈だ。
武田ちゃんの言うそれを自由とは呼ばないけど。
混沌なんだけど、そんなのは。
しかし、目障りなハエとは?
竜心館。つまりは上杉さん、か…。
此処で、あの神降ろし機能不全の症状が出た。
そうか。
上杉さんも、組み込まれていたのか。
軍神の計略。
数で押し潰す、計略。
うむ。
確かに僕には思いつけない。
何処までも下品で、何処までも醜悪だからな。
「自由に枷を強いるような者を私は許すわけにはいきません。前時代的な生き方を若者に強いる事、それは即ち若者の可能性を摘む事に繋がるからです」
人を自殺させておいてそれも自由だってか?
皆で間違えても、それも自由だってか?
バカバカしい。
他所様の持ち物を破壊し、他所様の平穏を破壊し。
無免許で大型バイクを乗り回してるお前が自由を語るってか。
若者の可能性を摘んでんのは。
自分の悪行に友人を巻き込んでるお前だろ。
既に警察のブラックリストには御仲間さんも名前が記載されてんだから。
そしてこの捕物劇に参加した生徒会長もまた。
これから、警察に名前が載る事となるのは間違いが無い。
ホント、最悪な女子だな武田ちゃん。
変わってないようで安心したよ。
ま、無免許で大型バイクを乗ってるのは僕も同じなんだがね。
「それでは皆様。狂犬を檻に運んでください。有意義な研修会となる事をお祈り致します」
ゴッと。
斧で頭を殴られ、僕は昏倒した。
上杉さんは、やっぱり壇上しか視ていなかった。
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