第15話

 引き続き、忠宗との作戦会議である。幕府娘が家に帰り、徳川家にいつもの底冷えのする静けさが戻って来てもコイツだけは帰らなかった。参加しないを選択出来ない以上、備えは万全を期してまだ足りないとの事。そりゃそうだ。相手は軍神と呼ばれるケンカ上手。しかも一人じゃなく二人。上杉さんの〈ビシャモンテン〉はその能力が判明したとはいっても、女子剣道の日本チャンプという上杉さん自身の強さは折り紙付きである。

 そして、味方の数を増やせば増やす程に強くなるかもしれない武田ちゃんの能力。

「籠釣瓶は間違いなく持ち込めない。剃刀だけでなんとかなるか?」

「きついじゃろうな。常に視界内に捉えられると考えてええ。しかし竜心館から救援要請が来ておるということは表立って味方は出来なくとも上杉勢力は殿の支援者である事は確定しておる。他にも旧市街の高校であれば普通に友人じゃしな、心配せんで良い筈じゃ」

「遠野高校と遠野学院高校の生徒会長は普通に幼馴染だし、一昨日も僕ん家でゲームしてたしなあ。けど連中は戦闘タイプの神人じゃない。荒事になれば僕が護らなくちゃならない。新市街が会場というのもヤオロズネットの交信速度が低いわけだ。他校の生徒会長は機能しないと考えて良いな」

「殿には逮捕術がある。素手でも人間が相手ならば問題は無いじゃろう。じゃが会場が合併高校という事は武田の息が掛かった生徒が普通に授業を受けておる。流石に騎馬隊が校内で大型バイクを乗り回すという事は無いじゃろうが…」

 それもあると考えて備えた方が良い。

 盗んだバイクで走りだすじゃねえけど。

 夜の校舎、窓ガラス壊して回るような連中なんだ。

「剃刀さえ、没収される可能性もあるぞい?村正先生は殿の事が心配過ぎてビールが五本に増えたと話しておった。まあ、じゃから暗器をこうして届けてくれたんじゃろうが…」

「僕は忍者ではないんだけど…」

 暗器の一つ一つに達者な字で説明書が付いて来た。

 朗らかなお婆ちゃんである村正先生、どうやら本気で心配してくれているらしい。

 出来るならば、女切りの妖刀である籠釣瓶は持ち込みたかったのだが_。

「村正製品の全てが女切りではないんじゃろ?」

「逸話というか伝説がないと武器は信仰を宿さない。籠釣瓶は歌舞伎の題材にもなった吉原百人斬事件を宿してるからこそだ。村正は確かに古くから暗器も鍛えていたんだけど…」

「そもそも暗器に逸話は存在しない、か。西郷隆盛の鉄扇も村正だとは有名な話じゃが…」

「扇なら持ち込めるかなとも思ったんだけど。武田ちゃんの姑息さと嗜虐さは常識を超えてる。僕の持ち物は全部奪われると考えた方が良い。村正バーチャンには悪いけど、目に見える暗器は使えない。制服の何処かに仕込むにも制服さえ奪われそうな勢いなんだ」

 僕が女子ならば鈿を暗器にも出来たのだが。

 実際、髪飾りである鈿を武器にする神人は存在する。

 誰って、キヨミンとカズホッチなんだがね。

 ヒロインである平坂はオシャレオカッパなので鈿が挿せないのだった。

「…神降ろし無しで、本当に殿は行けるか?」

「…伝統工芸科は神降ろし無しでも戦えるだろ。僕は警察学校に訓練に行ってるし、お前は自衛隊の駐屯地に訓練に行ったりしてる。他の皆だって警備会社に頼んで訓練に参加させて頂いてる。僕等は次代の奥州源氏だぞ?」

 悲しい過去をそのまま悲しい過去で終わらせたくない。だから僕等は本気で身体と技を鍛える。

 英雄に成りたかったわけじゃない。

 だけど周囲が英雄的活躍を期待する以上、それに応えなくてはならない。

 努力も無しに強くはなれない。

 練習で出来ない事が試合で出来るようにはならない。

 ただの人間でしかない英霊を宿す僕等は努力を怠る事を許されない。

 背中に翼を持つ如く活躍出来る天才でも化け物でもないから、人力で飛ぶしかない。

 相手は毘沙門天を宿す軍神と、仲間を己の力にするかもしれないという軍神。

 おもしれえ。

「視えない場所に暗器を仕込む、お主、それが何を意味してるのか解っておるのか?」

「うん。仕方ない。使わなけりゃ、それが一番だ」

「全く…。なんで殿ばかりが何時も痛い思いをしなくちゃならんのじゃろうな?ワシ、宿した弁慶に同情するわい。破天荒な男が主君じゃと胃に孔が開きそうじゃよなって」

「感謝してるよ。忠宗にも、伝統工芸科の皆にも」

 仕込みは始まる。

 痛みと共に。

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