第14話

 作戦会議である。

 リーダー研修会への参加そのものにさえ反対意見が出る程に、荒れた会議であった。

「ワシは絶対に反対じゃ!神降ろしの強制解除じゃと!そんなトンデモない能力と戦うには仲間がいてこそじゃろう!それを殿独りで単騎突っ込ませるなど!軍神と呼ばれる上杉嬢だけではない、あの憎き武田も控えておるんじゃぞ!」

「でもでも、上杉さんは会長さんを助けてくれたんですよね?その研修会、上杉さんと手を組む事が出来るなら、『新遠野最速の狂犬』と『新遠野の軍神』が手を組むという事になりますよ?会長さんより速い剣士は居ませんし、上杉さんは女子剣道の日本チャンプなわけですし」

「元々コッペを自殺に追い込んだ一派のアタシがいうのも変な話だけどさ?行かない方が良いわよ、研修会。上杉さんの能力はこうして判明したわけだけど、武田の能力が未知数過ぎるじゃない。コッペイジメに参加している時だって武田は自分の能力を明かしてないし、なんか不気味なのよねアイツ。蟲っぽいっていうかさ?」

「…私も、反対。神降ろしが無いって事は死ぬかもしれないって事…。そして武田心美のワガママっぷりは女子の間でも有名…。危険だよ、ワガママを通そうとする女子って…」

『私は康平少年が試練に挑むのは賛成だけどなあ?考えても御覧よ、康平少年の神降ろしの出力値は常時最低ラインなんだよ?それは殆ど神様の力を借りずに戦っているのと何が違うんだい?だからこその康平少年なんじゃないかとね、私なんかは考えちゃうなあ。だってさ?神降ろし無しでも、康平少年ならソコソコいけるだろう?』

 神様が、普通に僕の家で団欒していた。

 今は具現化しているので契約している僕以外にも視えている。マッチョが嫌いな平坂はパニックになって弾丸を撃ち込み、『何すんねんワレ!』と神様からビンタされて正気に戻った。

 このサイズが家には入らないのでお地蔵様には中庭で休んで頂いている。茶太郎は最初は驚いて吠えていたが、お地蔵様の聖なる気配に安心したのか、今ではお地蔵様の胡坐の上でいびきをかいて寝てしまっていた。

「お地蔵様は殿に厳し過ぎますぞい!これは試練ではなく戦でありましょう!」

「お地蔵様。アタシ、そういう出来ない事をやれっていう親のパワハラって嫌いなのよね」

「…私はそもそもマッチョが嫌い」

 地元組からは辛辣な言葉。

 小さな頃から見守って来た旧市街の子供達からの苦言に、お地蔵様は困ったように笑うだけ。

 神様なのに、脂汗を流して。


「帰れ帰れ!土に還れ!会長さんを苛めるな!この変態ジャイアント!私が相手だ!」

『上等だよ、オテントガール。レ~ッツ…、パーリィ…♪』


 そして始まる天照大神と地蔵菩薩の大喧嘩。

 お地蔵様、旧市街の子供以外に厳しかった。

 旧い時代から遠野市を見守って来た有難い地蔵菩薩とヤオロズネットの巫女とが喧嘩をしているとご近所さんも集まり観戦を始める始末。

 今のところ、オッズはお地蔵様が有利に傾いている。

 神様同士の喧嘩でも。

 早速、賭け事。

 逞しい旧市街の人々だった。

「目的は竜心館高校の大奥への編入。虎新館を滅ぼす事じゃない。神人ではなく警察官の潜入捜査としてなら、上手く立ち回る事も出来そうだけど?」

「いや、反対じゃ。そもそも新市街で暴れていたのも殿が目的だった可能性が高いんじゃろ?研修会前に潰しておこうとか考えたのかもしれん。しかし殿は現れなかった。上杉嬢の温情でな。ならば研修会で潰そうと考えても不自然では無かろうて」

「間違いなく武田の奴はそう動くわよ?判断基準が自分の好みなんだから。それにコッペは最近有名人になるぐらい活躍してるしね。次代の奥州源氏の筆頭として東北に名前が売れてるし、武田みたいなワガママなヤツは自分より目立つ奴が許せないって考えちゃうもんだし」

「…何より、康平君単騎でってのが痛いよね…。竜心館・虎心館の合併高校には生徒会長しか入れない…。それに武田心美…。なんだか、不協和音が当たり前なんだよ…」

 ふむ。

 此処はカズホッチの意見を拡げてみよう。

 忠宗とキヨミンの意見は結局のところ武田ちゃんが危ないという話でしかないのだし。

「カズホッチ。武田ちゃんが不協和音ってどういう事だ?」

「…うん。神人って一つの音なんだよね…。単一というか単体というか…、一つの楽器…。でも武田心美は色んな楽器の音がする…。『まるで他人を捕り込んでる』としか言えない…」

「それ、手を繋いだだけ強くなるって事かのう?」

「確かにアイツは嫌いな女子を見つけると仲間を増やそうとする女子の典型だけど」

 自身の痛みじゃなく、他人の痛みを力にする?

 そんな神降ろしが存在するのか?

 それは神様ってより聖書に記された悪魔に近いような気がするが

「イジメは間違った事を間違ったまま集団で行える精神姿勢に変化する。それは『手を繋いだ迷子』だとお地蔵様は話していた。ならば武田ちゃんこそが最初の水の一滴なんだろうか?」

「しかし、『手を繋いだ迷子』とは人間を祟り化させる大神降ろしそのものじゃろ?皆で人間性を失う。皆で人の道から外れる。その結果が人間の祟り化というのは理事長の研究で明らかにされておる」

「その『手を繋いだ迷子』と手を繋いでいるからこそ、アタシ等も妖怪モードを持ってるってワケね。けど武田は妖怪モードを持ってない。そもそも、コッペを自殺させたことを悔やんでるのかしら?」

「…それは無いよ。だって、康平君を狙ったんだから…」

 面白くなってきやがった。

 まるで因果応報じゃないか。

 神仏庁の悪徳役人を公開処刑した僕が、今度は公開処刑されるなんて。

「殿。上杉嬢と試合をした事は無いのか?十兵衛は何度も負けておると聞いておるが…」

「コッペが子供扱いされる十兵衛に勝つんなら、上杉さんって本当に剣道強いのねえ…」

「…そういや、康平君と上杉さんがって、聞かないかも」

「そういや無いな。学連で太ももが魅力的だなと思うばかりで」

 幕府の皆が、ゴミを視る眼に変わった。

 そんな眼をされてもだ。

 上杉さんは太ももが魅力的な美人さんなのだ。

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