第11話

神人名       徳川康平

神人番号      2002・70・006

神降ろし      英霊 源九郎判官義経 〈クロウ〉

使用ナノマシン   変異型第一世代平坂式神麹菌 × 汎用型平坂式神麹菌

使用精神感応兵器  妙法村正 籠釣瓶

使用携行銃火器   スプリングフィールド・XDM.40 及び ブロウニング・シナジー

推定霊力値     凡そ千弐百 (但し概念の追加により変動するので留意されたし)

心の傷       イジメによる自殺未遂 × 両親による虐待


固有スキル 

『八艘飛び』   

・詳細 《代謝を上げ一時的に加速状態となる。これにより常軌を逸した行動(水の上を走るなど)を可能とする》

『鵯越』     

・詳細 《詳細不明。未確認の情報ながら、自分ではなく仲間に何らかの効果を与える物であるらしい》

『モードシフト』

・詳細 《神降ろしを英霊から妖怪へシフトする。但し徳川康平の場合はモードシフトの際に刀を腹に突きたてる切腹が必要な模様》

『太郎焼亡』   

・詳細 《妖怪モードの力である呪詛の爆炎を鞘の内部に召喚する事で得た推力を利用した居合抜き。機械鞘と呼ばれる警視庁の備品を用いる事で鞘の融解を防ぎ連続使用を可能としている模様。徳川康平が持つ唯一の攻撃スキルである》



特記

【神人としての能力は決して高くはないが、宿主の運動能力や反応速度が高い為に驚異的な速度一極型としての能力特性を持つ。また両親から遺伝で宿した変異型のナノマシンは他の概念を追加する事であらゆる状況下において適した特性を持たせる事が可能な物であり、その事からも新遠野市旧市街を守護する平坂信条館高等学校のフラッグシップとして認識されている。なお自殺未遂常習者である為に神の寵愛を裏切ったと判断されヤオロズネットへのリアルアクセス権を持たない。実家は古くから続く剣術道場であり、道場敷地内には地域コミュニティセンターを兼ねる合宿所も在る為、休日はコミュニティセンター業務を旧市街の学生と共に行っている姿を確認する事が出来た。また放課後の生徒会業務では道場を解放し地域の子供達を招き入れ学童クラブとして機能させているなど自殺歴のある人間としては異例であると評価出来る程に反社会性・退廃思想等は見受けられない。しかし大神降ろし事件を引き起こした張本人であり、裏神降ろしとも呼べる妖怪モードには〈日本最強の怨霊〉の発現も確認されている事、ナノマシンを二つ宿す双発機である事も踏まえ、彼個人の危険度はSランク相当が妥当と判断。充分な警戒と監視を要すると思われる。尚、これは蛇足ではあるが料理の腕がプロ級である。素朴過ぎる牧歌な人間性から戦闘時以外の当人は人畜無害であると評価出来よう。だが一度戦闘になれば烈火の如き激情を隠しもしない。努々、監視は続けるべし】




「だ、そうですよ会長さん。危険度Sですって。ウチのリーダーも舐められたもんですね」

「いや、舐めててくれて良いんだけど…?」

「全く。危険度SSSランクで良いぐらいです。私、学連に抗議して来ましょうか?」

「いや、それマークがきつくなるって事でしょ…?」

「てゆーかですよ?私、ヒヨドリゴエってスキルの事、知らないんですけど?」

「あれは使い処が難し過ぎて使う機会がそもそも無いからなあ。そもそも支援系のスキルだし」

「意外に会長さんと忠宗君ってスキルの幅が多くて便利ですよね。自分だけが対象のスキルばかりかと思えば会長さんの場合はファーストエイドも出来ますし。回復魔法を使えるナイトと表現しても良いのではないかと!パラディンですよ会長さん!ランスロットさんみたいです!」

「えっと…。どちらに出てるランスロットさん?」

 世の中、ランスロットさんだらけ。

 仕方なく王様と戦うしかなかった悲しいナイト様だ。


「自白剤打たれ過ぎて廃人になっちゃうランスロットさんです!」

「ああ…。あれは悲しかったよな…」


 数多くのランスロットさんの中でもとびきり悲しい方だった。

「というか本丸の伝統工芸科の皆さんが暗黒騎士団に顔つきがそっくりです。会長さんも暗黒騎士の方のランスロットさんが若い時にそっくりですし。なんなんです?旧市街の男の子って。何を喰ったらそんな悪人面になるんです?」

「いや…。結構、普通の物を食べてる筈だけどな。春はセリとか山ウドとか、夏はキュウリとかオクラとか。小松菜やほうれん草は塩茹でして麺つゆに漬けてさ……?」

「喰ってるもんがお爺ちゃんじゃないですか!だからそんな悪人面になるんですよ会長さん!能力的には聖騎士の方のランスロットさんでも絶対老けたら暗黒騎士の方のランスロットさんみたいな顔のオッサンになるって今から解かりますもん!」

「まあ…。年をとったら頬はあんな風にこけるかもな……。」

 それまで生きているかどうかの問題は在ったが。

 明日辺り、その辺の野良ウサギを護って死んだとしても不思議じゃない。

「主人公なのに暗黒ってなんなんだって話ですよ会長さん!新遠野市の旧市街出身者はみーんな悪人面じゃないですか!キヨちゃんだってエロい死霊遣いみてえな見た目してますし!カズちゃんだって可愛い魔女みてえな見た目してますし!忠宗君に至っては中ボスに出て来る山賊親分じゃないですか!黒髪オカッパペガサスナイト系美少女である私だけ浮いてる事を此処にお伝えしたいとぉ!」

「大丈夫大丈夫。お前、中身は立派に僕等寄りになってるから。最近は特に暗黒騎士団のペガサスナイトにキチンとなってから。黒髪だしミニスカだし」

「あれあれ?じゃあ〈アマテラス〉も真っ白じゃなくて真っ黒に変えた方が良いです?」

「男子は女子が黒を着る事を喜ぶ。水着だって白ビキニより黒ビキニが喜ばれるもんだ。それに天照大神はペガサスってより八咫烏が遣いなんだから黒が似合わない筈がないだろ。そもそもお前の髪の毛は濡れ鴉っていえるような綺麗な黒髪なんだし」

「絵面的には完全に悪役ですよね。敵役でさえありません。私達は不良高校じゃないんですけど!見た目はワイルドでも中身はマイルドな方々ばかりが揃ってますけど!」

「不良漫画に出て来るような見た目の伝統工芸科の連中なんかは現在老人介護施設に行ってる」

「学連もなんでそういうところを会長さんの評価に加えないんですかね?社会福祉の天才である会長さんの功績は戦闘や治安維持ではなく地域の老人や子供達への支援活動で評価されるべきですのに。自殺自殺ってうるせえってもんです!」

「そんなヒメちゃんは危険度何ランクだったのかな?」

「えへへー。私、ランク・イレギュラーでしたぁ♪」

「だろうよ。こんな怪獣みてえに喰ってりゃ。食材無いってんで忠宗が新市街まで買い出しに行ってくれてるんだからな?」

 在庫の全てを、この御姫様は食べ尽くしたのであった。

 しかも、まだ食べ足りねえと言いだす始末。

「毎日会長さんが作るご飯を食べているからでしょうか、此処最近、会長さんの料理の腕が更に上がったと発見したんですよね!100円ショップで売られているバジルをガーリックオイルに漬け込んでパスタに使う事は以前からしていましたけど、其処に改良を加えましたね?」

「判るか?」

「以前のパスタは風味がフワッと香る感じでしたけど。今日食べたパスタはガツンと来ました。ハーブの香りをガツンと効かせるのは港町の味付けの筈です!」

「香りの強いハーブを使うんじゃなくて他に風味の強い食材を使わない事でバジルを立てる。ハーブは火を入れると香りを増すしな。ソースのベースは元々ミラノの料理なんだけど」

「牛の胃であるハチノスとパンチェッタをインゲン豆とトマトで煮込んだ郷土料理ですよね。それをパスタソースのベースにするというそのセンスがスゲえんですけど」

「内臓とパスタってのはあんま無いんだけど。トリッパの煮込みが余ったから其処にバジルオイルを加えてヒヨコ豆も加える。内臓系の煮込みは味が甘くなりがちだから、バジルとニンニクと鷹の爪で味を引き締めるとパスタに丁度良い。盛りつけた後に更にバジルオイルを追い打ちで少し垂らせば完成だ。パスタだけじゃなくパンに乗せても旨いぞ?」

「だから忠宗君が新市街の大手スーパーにパン買いに行ってるんですけど!」

「こんな夜遅くに忠宗だけ気の毒にな…」

「急に無花果と胡桃のカンパーニュが食べたくなったんで!」

「この時間、イチジクとクルミの入った堅焼きパンなんか新市街にしかねえからな…」

「そう言いながらも手羽先を揚げてくれる会長さんですよ!此処を評価しろとぉ!私はぁ!学連の人間にぃ!声を大にして言いたぁい!」

「…この手羽先は二階で仕事してる理事長の分だからな?」

「お父さんの物ならば、娘である私が食べても、問題はありますまぁい?」

「…なんなの?…そのキャラ?」

「ありますまぁい?」

 あ、どうも。

 徳川康平です、こんばんは。

 学連から帰って来たその日の夜、僕等はいつも通りに御神酒を飲んで霊力を補給しつつ、手羽先を揚げながら理事長を護衛してます。

 摩り下ろしたショウガと醤油と御神酒だけで味付けした手羽先に片栗粉を塗して二度揚げするだけの簡単なおつまみです。まずは低温でジュージューと揚げたら、次にカラカラカラと高温で揚げるだけで出来るのでお試しください。シンプルな醤油味には赤ワインと相性が良いので理事長のように赤ワインが好きな方は是非。味付けに黒胡椒や白胡椒、七味唐辛子を加えるだけでガラッと味わいが変化しますのでね。様々な味を楽しみたいという時にも簡単に出来ますので便利です。お子様のお誕生日会なんかにどうぞ。

「無言のままで、よく僕等は学連会議をやり過ごしたよな」

「あれ、喋ってたらアウトだったじゃないですか」

「確実に僕等を叩くつもりだったしなあ……。」

「あー。すっげー良い匂いです。小麦粉を塗して揚げても良いんでしょ?」

「小麦粉を塗すとフライドチキンみたいな優しい食感になるんだ。片栗粉を塗すと竜田揚げみたいにクリスピーな食感になる。おつまみとしては後者が望ましい」

「本当に学連が評価すべきはその気持ち悪い程の料理の腕ですよね…」

「茹蛸が安かったしガーリックオイルもあるからもう一品作るか。これはスペインのガリシア地方で食べられる料理でな?」

「…もう会長さん、調理師免許取ってお店開いたらどうです?なんです?ガリシア地方のタパスを作れる高校生って。料理が上手い男の子は確かに魅力的ですけど、料理が巧過ぎる男の子は女子に危機感しか与えませんよ?」

 茹蛸を一口サイズにカット。オリーブの漬物とガーリックオイル、パプリカパウダーを入れたら切った茹蛸を絡めて混ぜ合わせる。本来ならば冷蔵庫で冷やすのだが、冷凍庫に三十秒入れて無理矢理味を染み込ませて完成。

 康平流・ガルシア風タコのタパスだ。

 スーパー閉店間際、鮮魚コーナーで安くなったものを使えばコストも低く抑える事が出来ますのでね。タコだけじゃなくイカやカツオ、ホタテの刺身なんかも使えますのでね。その時に安い物で作ってみてくださいな。

「これをそのままガーリックオイルと鷹の爪で煮込めばアヒージョになる。覚えておくと良い」

「私、会長さんから身辺警護をして貰ってから確実に肥ったんですけど……?」

「良い事だろ。世の中には食べても吐いてしまう男子高校生だっているんだから」

「学連の調査もいい加減ですよね。摂食障害であるという記述を抜くんですし」

 それは僕も不自然に思っていた。徳川康平を危険だと判断する割には、僕の弱みを意図的にか恣意的にかワザと消しているようにしか思えない。僕を知る人間は僕を危険視なんかしないのだ。放っておけば勝手に死ぬマンボウみたいな人間であると誰もが知っているのだから。

「あ。これ本当に美味しいです。タコの食感とニンニクの風味が一度食べたら止まらなくなるというか!タコのキムチ和えも美味しいですけど、私はコッチの方が好きですよ!」

 二度揚げを開始する。

 カラカラカラと手羽先が乾いた音を発する。

 揚げ物は二度揚げすることだけが奥義。

 低温で中にジックリ火を通し柔らかくして。

 高温で外側をバッキバキに硬くする。

 それだけだ。

 肉も魚も野菜も。

 それだけで美味しくなる。

 料理は一手間が大事というが。

 僕はそれを人手間と呼んでいる。

 美味しい料理を食べて貰いたいという想いが無ければ手間は掛けない。

 だから人としての想いを手間としてかける事に意味があり意義がある。

 ちなみに竜田揚げの場合はサラダ油でも美味しく揚がるので面倒を嫌う僕は竜田揚げにしているだけなのでした。一手間も人手間も惜しまないけど、手を抜ける所は抜くのが信条。

 手を抜いて美味いと言って貰えるものを作るのが一番だ。

「もうすぐ部活帰りのキヨミンとカズホッチも来る。小料理屋・徳川が一番忙しくなる時間帯だな。風呂を借りに来るガキンチョもそろそろだろうし」

「天然温泉が引かれてる旅館みたいな日本家屋に生徒会長が住んでるんですもんね。そりゃ人が集まって当たり前です。ですけど会長さんの人柄が人を呼んでいる事を忘れちゃダメです。子供達にはコーヘーセンセ―として人気ですし、大奥の後輩女子からは怖いけど優しくてホッコリする徳川会長として頼りにされてます。学連はこういう所を評価するべきなんですけどね」

「まあ、確かに風呂が二つある家ってのは珍しいよな。男湯と女湯がある家庭なんかこの辺じゃ僕ん家ぐらいだろう。爺ちゃんはもしかしたらこの家を地域の方々が集まるようにと考えて建てたのかもしれん。合宿所の方は流石に電源を落としてるけど」

「最近は完全に剣術道場っていうか旅館ですもんね。しかも合宿所は素泊まり二千円で格安ですし、素泊まりなのにムチャクチャ美味しいディナーがサービスで付いてきますし。なかなかありませんよ?美容に効く温泉が在って、トレーニングジムが在って、美味しい料理がサービスで出て来て、座禅での精神鍛錬もお隣で出来て、世界が宝だと評価した美貌を持つ女性が店番する肉屋が隣に在って、世界が生ける芸術作品だと評価した音楽家が店番する魚屋が斜向かいに在って、超絶可愛い豆柴が中庭を駆け回る合宿所って」

 そうかもしれん。

 お隣の肉屋と斜向かいの魚屋についてはたまたまなんだが。

 キヨミンが店番の日はカットに融通が利かないので行かないようにしているがね。婿養子が店番の時が狙い目だ。豚バラに限定すれば挽肉にする端の部分を安く手に入れる事が出来る。

 魚屋の場合はカズホッチが店番の時が狙い目だ。商品の値段を覚えていないから何でもかんでも安く手に入れる事が出来る。大福寺はいつ行っても座禅は出来るので狙い目も何も無いのだが、強いて言うならば忠宗の母ちゃんが居る時に行かないと忠宗の姉ちゃんが応対する事になるので危険だというぐらいか。

 稲穂さんに警策で叩かれると鎖骨ゴキ!って折れっからな!

 気を付けろ!

 あと肌が透き通るぐらいに白くて線が細い幸薄そうな美人でも騙されるな!

 稲穂さん、毎朝、丼飯三杯は平らげる健康優良児だからな!

 メンタル的にも新婚さんで幸せいっぱいだ!

 旦那さんである真田さんは日に日に痩せ細っていくんだけどな!

 今朝なんか真田さんの左腕、変な方向に曲がってたからな!

 県庁職員って大変だ!

 どう考えても稲穂さんが犯人なんだけどな!

 エイブラムス戦車みてえな稲穂さんを僕が問い詰める事も出来なくてな!

 おっかねえから知らんぷりさ!

「うん、大福寺での精神修業は忠宗の母ちゃんが居る時じゃないとダメだ。これだけは後で合宿所に張り紙でも貼っておこう。深窓の令嬢というか物憂い気な儚い美人である稲穂さんが応対してしまった場合、修行希望者が神人でなければ確実にICUに入る事になる。見た目とは真逆で忠宗よりパワーファイターなんだから」

「忠宗君と血が繋がってるのが本当に信じられませんよね。触れれば壊れそうな繊細なガラス細工みたいな見た目ですのに、過ぎる程に骨太です。私、単純に当たり負けした人物って今までキヨちゃんぐらいしかいませんでしたのに、忠宗君のお姉さんからは当たり負けどころか弾き飛ばされましたからね」

「見た目が楊貴妃みたいだけど、中身が呂布みてえな人だからな……。」

「身内に似た女性に男性は惹かれるって本当だったんですねえ……。」

 キヨミンもそうか。

 あの人の場合エイブラムス戦車というよりは爆撃機みたいな感じなんだけど。

「キヨミンの場合は見た目がクレオパトラでも中身がチンピラだからなあ……。」

「大奥の校門前でナンパして来た男性の肝臓と胃と肺臓を殴って潰してましたからね。凄い精確に急所を貫くボディブローでした。良い角度でしたよ?腰の入ったブローでした」

「カズホッチはカズホッチでナンパな男性を楽器で殴りつけるし……。」

「コントラバスを大上段から振り下ろしますからね。豪快です」

「軽佻浮薄な異性交遊を楽しむ事自体は別に悪い事じゃないけど。相手が悪いんだよな」

「軽佻浮薄な異性交遊を楽しむ女子は少数派ですねえ。私なんてボッチを極めて今じゃ独りで焼鳥屋さんに入れるほどです!」

「ヤオロズネットの巫女が?」

「うん。巫女が」

「独りで焼鳥屋?」

「うん。独りで」

「今度から僕が一緒に行くようにするわ…」

「うん。それが良いっす」

 ボッチはボッチ同士で仲良くなる。

 世の常だ。

 さて完全に手羽先も揚がったので平坂に持って行くように頼んで次の料理だ。手羽先は十羽分揚げたのでつまみ食いをする分を差し引いても半分は残るだろう。兎角今日は地元の農協から加工品であるトマトピューレを多く頂いたのでなるべくこれを使い切ってしまいたいのだ。幸いにも豚バラ肉がまだ冷凍庫にあったしタマネギもあったので此処はイタリアの煮込み料理であるボッコンチーニでも作ってしまおうか。大量に作って冷凍しておけば、ボッコンチーニを調味料としてカレーに加えても美味しい。素揚げした茄子や長芋などにソースとして添えてレモン汁を搾ってかけても良い。ホロホロに崩れるまで煮込む事が本来のボッコンチーニであるので豆類と煮込んで運動部の連中に振舞っても喜ばれるだろう。そもそもキヨミンは特殊部隊並みに身体を鍛える新体操部だ。大豆たんぱく質は摂取したがる筈だろう。

「ふむ。しかし学連のあの態度はどうしたものか」

 難癖をつけて色々と動きに制限を持たせようとするのは自分に利が産まれないからなんだろうけど、そもそもヤオロズネットが与える利は現金な物ではなくもっと観念的というか通念的というか精神世界に作用するものであるのだが。如何も連中は実績作りに必死過ぎる傾向があるな。平坂信条館の二番煎じなのだからどう頑張っても僕等より先に居る事は無いと解っているのか解っていないのか。

人の不幸の上に成り立つ実績なんか少なければ少ない程に良いのに。

 神経がささくれ立つだけの不毛な会議だった。

 太ももがエロい上杉さんだけが。

 学連会議の楽しみである。

「能力的に勝てないと判断した人間は人格否定から入ります。自分にとって都合の悪い人間が存在するというだけで人は人の粗を探すようになります。それはそのまま会長さんが有能である事を何より証明してしまっている事にもなるんですけど」

「全然嬉しくないだろ、そんなのは。マークがきつくなって思うようにプレー出来なくなる事を喜んで『うおお!燃えて来たぜえ!』とか言えば良いのか?僕、そんな暑苦しいキャラじゃないし、そんな血圧の高そうな生き方してたら来週辺りにでも脳溢血で倒れるぞ?」

 高血圧対策は日々の食事から。

 高校生であっても気を付けなくてはならない。

「なんです?高血圧で倒れる高校生って」

「難儀な事に挑んで燃えるタイプというのは自分に自信があるヤツの特徴だろ。僕は自信がゼロになったからこそ自殺したんだぞ?」

自信のゼロは自身を見失うに繋がる。

ゆえにイジメでの自殺は殺人罪なのだ。

「平坂。学連会議のあの視線、気づいていたか?」

「上杉さんと武田ちゃんですね。なんです?あれ?『睨まれるだけで神降ろしの出力が変動した』んですけど?」

 そうなのだ。

 睨まれただけで神降ろしが反応した。

 どちらかの能力だと考えていい。

 そして僕等は。

 その能力こそ。

 求めている。

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