第9話 二人の生徒会長。二人の軍神
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元時計塔・本丸特別棟生徒会室で警察に提出する報告書を作成していると何やら癒しの姫君・平坂陽愛と武神・本多忠宗が揉め始めた。この二人は天衣無縫というキャラクターと質実剛健というキャラクターの方向性の違いでよく衝突する。放っておいて報告書を書き上げてサッサと上がってしまおう。しかし静かにキーボードを打つだけでも会話は聞こえて来るもので_。
「ですからなんで溶鉱炉ぐらい作れないんだって話ですよ忠宗君。今でさえ川底には餅鉄の原料となる鉱石がゴロゴロ沈んでるんですよ?幕府で餅鉄、まあ神鉄なんですけど。製鉄技術を独自に持てば材料を自分達で作れるようになるんですよ?」
「溶鉱炉ぐらいとヒーラーは言うがそんな簡単な物ではない。それに餅鉄は単なる鉄ではなく磁鉄鉱じゃ。竹内文書にはヒヒイロカネの原材料であるなどと記載されておるからしてヤオロズネットからの影響を受けやすいんじゃぞ?」
「だから自分達でなんとか神鉄を生産出来るようにして刀鍛冶コースに頑張って貰わなきゃならないんじゃないですか。最近は祟りの発生ペースが異常なんですよ?物質形状を式で固定している神鉄製品とはいえ、新入生が前線に入るのであればそれだけ精神感応兵器は必要になって来るんですから。戦術的優位性を神仏庁付属に対し持つ為にもですね?」
「過剰な武器の供給は犯罪に繋がると殿が言っておるじゃろ。それにワシは神鉄の自社生産には反対じゃ。そもそも川底の餅鉄の持ち出しは新遠野市が禁じておる。、まず溶鉱炉なんぞ高熱を産み出す機構を学生が作れる筈も無い」
「刀鍛冶コースの会長さんなら、溶鉱炉作れますよね!」
と。
いきなり巻き込まれるのもいつもの事。
巻き込まれる時はいつも賛同か反対かを求める問い掛けから始まる。
つまり自分の意見に同調しろって暗に言われている事が多い。
「僕、レーザーパルス反応式熱核融合炉しか作れないけど良い?」
「パネエっすね会長さん!」
「何処でそんな言葉を覚えて来るんじゃ、全く…」
確か、いつの時代なのかは忘れたがモビルスーツに搭載されてあるジェネレーターがそうなのではなかったか?
アイツ等、電気で動いてっからね。
石炭やガソリンで動いてたら煙突無けりゃおかしいし。
バーニアと動力が別なのも、ジェネレーター駆動による電気で身体を動かしている証拠だ。
もう、体当たりで良いと思うけどな。
メイン武装は。
甲冑技術が進化し過ぎて斬撃が通らなくなったからこそ、単純な運動エネルギーだけで敵兵士を殺そうと打撃武器は開発されたわけなのだし。
もうがっぷりよっつで戦うみたいなガンダムで良いよ。
ガンダム・千代の富士とかさ?
斬撃や銃撃と違って運動エネルギーを相殺する材質なんかこの世界に鉛しかねえんだから。
よく衝撃吸収用のゲルとか創作で確認出来るけど。
質量保存の法則とエネルギー保存の法則を無視しないのであれば。
ゲル、飛び散って終わりである。
なら、インナー素材に使えば良いじゃないですかとの意見が来そうであるが。
飛び散って行き場を失くした運動エネルギーは消えずに時間差で装備者に襲い掛かる。
運動エネルギーを殺したいならば、鉛で固めるしか在り得ない。
しかし、運動エネルギーを吸い取るという事は柔らかいを意味するので。
鉛は切られれば簡単に裁断されるし、撃たれれば簡単に貫通する。
ならばとインナー素材に鉛を塗りつけて、その上から衝撃吸収用のゲルを流し込んで固めて、更にウールや石綿で覆って、ダメ押しで鉛でガードしては如何かという意見は御尤もだ。
でもそれ、重量という概念を忘れてないか?
レーザーパルス式熱核融合炉で動くでもない限り。
鉛を防具には使えない。
「ちなみに餅鉄は単体で鉄材としては使えん。砂鉄を溶かした和鉄に合わせて合金とする事で質の良い粘りを持った鋼になる。日本刀で例えるなら心鉄や棟金とか靱性を必要とする部材に最適だな。そもそも餅のように伸びるってんで餅鉄って呼ばれてるんだし」
「んじゃ砂鉄を溶かす溶鉱炉をですね!」
「山砂鉄を溶かすのはタタラ製鉄じゃ。そして既にタタラは日本から消えかかっておる」
そして悲しいかな東北には山砂鉄の産地は無い。
西日本に多かったらしいが、それも乱獲というか掘削のし過ぎで既に山砂鉄は枯渇している。
日本刀を作るには山砂鉄を溶かして比重の重い物から流れてくるその最初の液状の鉄を固めた玉鋼が必要となるのだが、その玉鋼も既に材料は海外からの輸入に頼る事が多い程に貴重な物となっているのが現状だ。確かに伝統工芸科の刀鍛冶コースならば様々な刀匠の先生方を招いてタタラ製鉄を復活させる事は可能かもしれないが_。
「山砂鉄が無いんじゃどうしようもない。材料が無けりゃタタラを作ったところで無意味だ。かと言って洋鉄で日本刀を鍛えようとしてもそれは日本刀じゃないから銃刀法違反になるし」
「和鉄がそもそも無いのじゃったな」
「なーんぶてーっきの皆さんに頼んで鉄の材料を分けてくれコンチクショーって頼めばなんとかなりませんかね?会長さんにフライパン鍛えてくれてるんですし!」
確かに南部鉄器が洋鉄を使い始めたのは最近だ。
平安時代から続く鉄器ならば昔は和鉄を使っていた筈。
僕は報告書を作る手を止めて考えた。
「あれ?もしかして東北でも製鉄技術があったのか?でも餅鉄ぐらいしか材料がねえぞ?」
「確か、地球上で最も黒い物質であるダマスクス鋼の材料も餅鉄なんじゃろ?」
「お!あれですね?すんごく黒くて絶対に錆びないって鉄です!カーボンナノチューブ構造を持つからトンデモねえ頑丈さを持つのだとか!」
ダマスクス鋼の作り方は焼き物の窯の中で焼く前の土の状態のるつぼに材料の餅鉄とイチジクの炭を入れて還元焼成する事だった筈。しかし炭だけでは鉄の融解温度に達するまで温度が上がらない為に何かしらの方法を使って火力を千二百度以上にしなくてはならない、だったか。
溶けた鉄にイチジクの炭素が混じり合ってカーボンナノチューブ構造になる。
わざと不純物を混ぜて炭素をナノレベルで組み込む事が重要らしい。
スンゲエ適当な事を言ってるけど。
「東北のマタギの皆さんが使うマタギ鋼もダマスクス鋼の特徴である木目の刃紋だって言うな」
「硫酸に漬ける薬品加工が必要だと言われるのも共通しておる」
「あ、それ知ってますよ。カーボンナノチューブ構造を持つ狩猟用ナイフを鍛える海外のナイフ職人は紅くなるまで熱された金属を硫酸に入れて冷却するんだって。硬過ぎて焼き入れをされた日本刀みたいに反らないから、硫酸でワザと鉄の性質を無理矢理変化させて硬い所と柔らかい所をグチャグチャに混ぜるんでしょ?」
日本刀の切れ味の秘密は刃の裁断力ではなく峰の柔らかい鉄が衝撃を吸収する事にある。
ならば薬品加工のダマスクス鋼にもそれと似た機能が備わってるのか?
日本刀をこの国に最初に伝えたのは天国だと言われているが。
「刀だけで考えると不思議な事は多い。英国王室の人間が大きな式典の際に持つ儀礼剣は『カーテナ』っていう綺麗な装飾がされた剣なんだけど、あれ確か元々の英語表記[katana]だったとか聞いた事ないか?」
「英国王室に伝わる儀礼剣をもじって刀と呼ぶようになったのか。それとも英国王室に伝わる儀礼剣を鍛えた職人が刀を見本に鍛えたのか。なんともロマンのある話じゃな」
「でも『カーテナ』は折れた剣を意味するってんでミカエルさんが大魔王さんを成敗した時に折れたデオスクシポスの残骸だとするとか、アーサーさんが手にしていた選定の剣の残骸とかする文献も数多いですよ?英国は天使崇拝の国ですし」
中学の時の留学先のイギリスの友人を思い出す。
日本人が温厚な中にも熱い魂を持つ侍ならば。
アイツは柔和な中にも鋼の忠誠心を持つ騎士。
女性の前で紳士ぶる良い奴だった。
感情をあまり表に出さないから怒ってるんじゃないかっていつも思ってたけど。
そんな事は無かった。
感情を出さない事がアチラの国では礼儀というか美徳らしい。
日本人が自ら身を引く事を美徳とするようなものだろう。
良い奴だったな、本当に。
紅茶が美味しかった。
紅茶はね。
それと敢えて料理に口を出させて頂くとするならば、白身魚のフライは溶き卵にカレー粉を混ぜた物を使って下味を付けてから揚げればお子さんのお弁当にも使い易くなるんではないでしょうかと英国紳士の皆様方に言いたい。まあ、食べ物関連で深く感動したという国はスペインとネパールであったが。
「世界的に見てもハイブリッド構造を持つ金属製品ってのは日本刀だけなんだ。柔らかい鉄を硬い鉄で覆う事で折れないし曲がらない。それは靱性と硬性を両立してるとも言える。そして不思議な事に神話の世界に出て来る数々の聖剣ってのはハイブリッド構造だったらしい。誰が使ってた剣なのかとか何処の王様が使ってた剣なのかは忘れたけど、堕ちた星から鍛えた金属を妖精銀で纏ったって剣なんてのはそのまま日本刀だろ。隕鉄なんてのは磁鉄鉱で餅鉄と変わらないんだし。まあ、その妖精銀ってのがなんなのかは解らないけど」
「刀鍛冶コースの専門学じゃな」
「妖精銀。英国の小説に出て来るミスリルとかですかね?」
多分、違う。日本の山砂鉄のように太古の昔に既に掘削されまくって枯渇した何かだと考える方が自然だ。そして神話の時代の剣の材料は金属ではなく石材である事が多い歴史からも妖精銀なる不思議材料はなんらかの石材である可能性が高い。魔を滅ぼす黒水晶は黒曜石であると考えられている実例もある。本当に妖精銀ってのが石材であるならば、恐らくはダイヤモンドなのではないかと僕は思うが。
しかし此処でまた問題が発生する。
隕鉄とダイヤモンドを結合させるには現代技術でさえ難しい程の超高火力を必要とする。
火山に突っ込んで鍛えてもまだ火力が足りない。炭素の塊であるダイヤモンドは溶けずに炭になるだけだから科学的に考えれば纏うように包んだのではなく刃部分に細かく砕いた粒子を組み入れたのだとも推測出来るが。
ま、そんな事を考えても妖精銀なんか在っても無くてもどうせ何にも世界は変わらない。
不思議な材料とか鉱石とか不要だ。
人間は身近な鉄でさえ全部を理解していない。
「ヤオロズネットは日本の歴史を第一に考える。なら、まずは日本の歴史を正しく理解する事が重要だな。日本刀の作り方を教えたアマクニって人が何者なのかも分かっていないんだし」
「東照権現が鍛えさせたソハヤノツルキって日本刀がアマクニのコピーなんじゃろ?」
「ソハヤ。通り雨の意味ですね。そして雨を呼ぶ刀は小烏丸で、小烏丸は天国作品です。するってえと小烏丸のコピーって事になりますね」
天国とは個人ではなく組織の名称を指すのだとされる文献も数多い。『韓鍛治部』と呼ばれる国お抱えの刀工集団がそのアマクニではないのかとか、唐や随から伝わった硬い鉄と日本独自の柔らかい鉄を組み合わせた結果できたのが日本刀だとか違うとか。
僕、日本刀に関する座学は面倒臭くて聞き流していたのだった。
この天気雨の剣、もしくは通り雨の剣については、学者さんが色々と研究している最中らしい。
「妙純傳持ソハヤノツルキの写しを村正バアちゃんと作ろうともしたんだけどな。なんせ資料が足りなさ過ぎて無理だった。刀というよりはお守りみたいな物だったんだろうけど」
「殿の刀といえば妙法村正・籠釣瓶が真っ先に来るが。お主、意外と打刀規格なら何でも使えるんじゃモンな。ただ霊力を通す効率が良いのが女切である籠釣瓶じゃというだけで」
「あ!聞きたい聞きたい!日本刀のお話聞きたいです!」
困ってしまう。
そんな真面目に刀鍛冶コースの授業をしているわけでも無い。
基本、配達がメインだし。
それに村正バアちゃんは先生ってよりは僕の装備を鍛えてくれるクリエイターでエンジニアだ。
何から話せば良いものやら。
「あれ?そういや刀に同期してる生徒って僕とイケイケダ以外に誰が居る?」
「まず十兵衛じゃな。柳生蓮は卒業生の光世先輩と殿が鍛えた鬼包丁を使うんじゃろ?」
「有名どころだと、龍心館・虎心館の合併高校の二人の生徒会長がそうですね。特に上杉ちゃんは日本刀を二つ同期してるってんで有名です。小豆長光と姫鶴一文字だったかなぁ?」
上杉心さんは物静かな優等生タイプだから問題はない。
問題はその片割れ、武田心美ちゃんだ。
彼女は『手を繋いだ迷子』に属する人間。
僕を自殺に追い込んだ一味である。
「学連で何度か顔を合わせてるけど、上杉さんは同い年なのかを疑う程にお姉さんって感じだよな。仕事の出来るOLっていうかさ。僕なんていっつも上杉さんに怒られてばっかだ。ショートカットにメガネが似合う美人で、堅物なのに太ももがムチムチで男子からの人気はきっと高いのであろう事が容易に想像出来る。まあ、怒りんぼなんだけど」
「それは殿がノンベンダラリとしておるからではないのか?」
「会長さんは呑気過ぎます。学連の会合に犬と遊んでて遅れたりするの、しょっちゅうじゃないですか。それも茶太郎ではなくたまたま目に付いたお家の飼い犬とです」
犬と遊ぶのが楽しいのだから仕方がない。
それに学連の集まりなんか結局は徳川康平イジメ大会だ。
いつか上杉さんのムチムチな太ももをしこたま撫でまわしてやろう。
「武田ちゃんも日本刀に同期してるんだっけか?あの見た目だけロリッ子」
「そんでハーレー集団のボスじゃからな」
「心美ちゃんは確か南天薬師瑠璃光如来備前国長船住人景光に同期してんですよね」
普通に備前長船って言え。
ちなみに備前ブランドは質が良くて僕も好きだった。
村正ブランドに慣れ親しみ過ぎて村正だけを使ってはいるが。
「ウチで刀使うの、結局剣道部の二人とイケイケダだけか?」
「じゃなあ。しかも打刀規格で言えば殿だけじゃ。池田も十兵衛も脇差じゃからな」
「しかも村正・籠釣瓶は妖気を発する刀ですからね…」
忠宗の言う紫色オーラの事だろう。妖気というか、あれは僕からすれば神々しくさえ思うのだが。何でも客観的な物の見方が大事という事。確かに籠釣瓶は握ると落ち着かない気分になるし。浅慮で軽薄な女を切れと、急かされているような気分になるし。
斬るんだけど。
結局。
容赦なく。
自分ルールだけで世の中が回ってるとか本気で信じている女を。
バラバラに。
グチャグチャに。
「殿。ちなみに十兵衛が唯一剣道で負けた相手が上杉嬢じゃぞ?」
「上杉さんは女子剣道の日本チャンプですからねえ♪」
「あれだな。これ、その内、僕は上杉さんと切り結ぶ事になるっていう伏線だな。でも僕はそんな事しないぞ。あんな男子の理想のお姉さんを輪切りにするぐらいなら土下座してでもその剣戟は回避させて貰う。そもそも部長がやられたからって僕が仇討ちをするだけの恩義も無いしな。出来る事なら剣道じゃなくて真剣で部長が負ければ良かったとさえ思ってる」
それで少し真面目になってくれれば御の字だ。
巨乳のチビめ。
気持ち悪いんだ、お前は。
「十兵衛はそれでもしぶとく生き残りそうじゃな。ギャグ補正という最強の能力で…」
「キヨちゃんは姉御!って感じですけど、上杉さんはお姉さま!って感じですもんね。オッパイやケツはそれほど大きくありませんが、太ももがエロい優等生キャラです。メインヒロインとして危機感を覚えますよね。ツンデレってか、クーデレってか。アホデレとかウザデレの私は戦々恐々としていなければなりません。ヒロインが人気によってその順列を入れ替えるなんてのはよくある話ですから!」
それでもヒロインは平坂で変わらないだろう。
ヤオロズネットそのものであるのだから。
コイツは小顔で黒髪が綺麗だというだけで男子からの需要は兎も角女子からの人気が高い。
濡れ烏の黒髪はやはり女子の憧れの的であるらしい。
「まあ、上杉さんはメインヒロイン系の顔立ちではあるな。キヨミンを凛々しいとは言いたくないしキヨミンの場合は猛々しいんだけど。上杉さんは釣り目美人で凛としてるし」
「立ち振る舞いも凛としておるな。メガネも縁の薄い銀縁じゃし、メガネを外すとそれこそ面倒見の良い先輩って男子ならば誰もが妄想するようなお姉さんのような容姿をしておる。忘れそうじゃが同い年じゃ」
「成績も優秀で品行方正で剣道部では部長で生徒会長で、趣味はマドレーヌ作りだそうですね。なんていうか、なんでそんな頑張るの?って言いたくなるような優等生です。もっと私みたいにダラーってすりゃいいのにー」
お姫様はダラーっとし過ぎであった。
ちなみにマドレーヌは卵黄を多めに入れて黒蜜で味付けすると和風で美味しい。焼き菓子は何でもそうだな。黒蜜と黄な粉を入れると和風になるので是非ともどうぞ。
あまりお菓子作りは上手ではないけれど。一番簡単なのはホットケーキミックスに黒蜜を入れるのが手っ取り早い。それとザラメを入れて焼くとカステラみたいな感じになって剣道教室の子供達にも好評なのだ。忠宗の場合はホットケーキに生クリームだの季節のベリーだのを添えてオシャンティにして提供するのだが。
この大男のハゲは女子力の塊だしな。
将来、家庭科の先生になっても不思議じゃない。
それはお姫様もそうだった。
お姫様は数学が大好きなので数学の先生に成れるのではないかと僕は踏んでいる。
見た目とキャラからも生徒に人気になるのであろう事は想像に難くない。
僕?
僕は先生になんかならないさ。
自殺してる先生なんか嫌だろ。
自殺させられてる先生なんか嫌だろ。
自殺して家庭崩壊して何処にも行けなくなった人間が何かを教えるなんて無理だし。
上杉さんは、どうなのだろうか。
あの太ももがエロい優等生美人は。
将来、何に成れるのだろうか。
太もも魔人?
太もも軍神?
いつかしこたま撫でまわしてやろう。
「でも冷遇されてんだろ?合併した虎心館の方が力が強いからってんで」
「武田はワシが潰す。何故かって殿の為じゃ」
「心美ちゃんは見た目がロリッ子なのに中身が大人を気取った遊び人ですからね」
武田騎馬隊。ハーレーを乗り、遊ぶ事に一生懸命な女子高生の集団か。
確か、警察のデータベースにも在った。
この御時世に暴走族かよと、兄貴も辟易としていた。
スミレさんは交通課なのでゲンナリとしていたし。
白バイ隊の皆さんは「なんだコイツ等金持ってんな。最終型のエヴォじゃねえか。でもあれだな。ハーレーを速くしようとかカスタムしちゃダメよな。速さだけを求めるなら国産のレーサーレプリカで充分なわけだし。やっぱハーレーとは如何にして遊ぶかこそがカスタムの方向性であるべきであって、そのカスタムの方向性を知るには古き良きアメリカの歴史を調べる事から始めるというかさ?だったら俺は最終型のエヴォを選ぶよりはナックルヘッドとかにしたいと思ったけどね。しかしながら_。」とバイク談義が止まらなくなったので放って帰って来た。
怖くなったからだ。
「こんな田舎で暴走族なあ…」
「何じゃ殿、知っておったのか」
「武田ちゃん一派は遊び方が不真面目なんですよね。年上の男性とドライブして年上の文化を先取りする事がステータスみたいな考え方をしてますし。上杉さんとはお友達になれるけど武田ちゃんとはちょっと無理かなあ?」
火遊びだけ楽しむ集団であると。
警察関係者から聞いている。
浮気とか不倫とか、普通に警察に情報が行くのでね。
日本の警察はダブルオー並みに優秀なのでね。
それが国家に敵対するようなものでなければ「ああそうなの?」程度で終わるんだけど。
もう一度言うけど。
浮気とか不倫とか。
警察は意外と把握してるからね。
「でも忠宗の義理の弟が確か、虎心館の生徒だろ」
「幸政がそうじゃな。というか真田の家がそもそも武田の親戚じゃ。それに幸成自身があの軍聖に惚れこんでいるという事情もあるのう」
「軍神と軍聖が一緒にいるのが脅威ですね。釣り目の美人とネコ目のロリッ子。どちらも男性の妄想を具現化したような女性ですけど」
平坂信条館だけでどうこう出来るような話ではないか。
互いにマンモス校だ。
まあコッチの場合、マンモスなのは女学院なのだが。
本丸?
本丸はあれだよ。
有形重要文化財で学んでるようなもんだよ。
廊下は波打ってるし。
壁はボロボロだし。
シティボーイはこういうのをダサいと言うのだろうがね。
我々カントリーボーイはこういうのに矜恃を覚えるのでね。
水道の蛇口を捻ると茶色の水が出て来たりしてな?
十秒待ってから口にしないと下痢になるなんてルールを知らないだろシティさんは。
まあ僕はいつでも下痢だけどな!
つーか、大事な時にこそ下痢になるけどな!
これもう『タイムリー下痢』っていうスキルだと誇りに思ってるからな!
飛行機乗る前とか、談合の前とか、必ず下痢になるからな!
ゲリリンボウ将軍。
ゲリリンボウ将軍だ!
ちなみに今でさえちょっと下痢気味だ!
早くトイレに行かないとビッグバン起こるからな!
ビッグでバーン!
ビッグでバーン!
何処が?
肛門がだ!
「忠宗。学連に所属する各校の友好度合いから言うと、僕等は何処と仲が良い?」
「何処とも仲が悪い、じゃな。特に神仏庁付属とは険悪じゃ。殿が警察と太過ぎるパイプを持つ事が牽制して直接ぶつかり合う事は無いが」
「それ、会長さんが他校の神人まで斬っちゃうからですよぉ?」
「犯罪者に他校も何もあったもんじゃない」
「上杉嬢だけじゃろうな。殿の在り方に理解を示すのは。戦略戦術に長け、剣術の腕前も日本一である彼女が冷遇されておるとは悲しい限りじゃが。じゃが彼女こそ大和撫子と呼ぶに相応しい。暇つぶしに焼き菓子を作るなんぞ男子の理想形じゃ」
「むむむー。暇つぶしに干し芋喰う私はぁ?」
しかしながら。
上杉さんには彼氏がいる。
死にたい。
「まあ、上杉さんと対決したとしても十兵衛ちゃんの無刀取りに代わる逮捕術が会長さんにはありますからね!」
「平坂の言う通り、本当に対決しなくちゃならなくなれば上杉さんと切り結ぶのは僕だろうな。忠宗、僕と上杉さん。切り結んでどっちが勝つと思う?」
「妖怪モードを使わずに〈クロウ〉のままでが大前提ならば上杉嬢の〈ビシャモンテン〉に当たり負けするじゃろう。上杉嬢は毎朝般若心経を読む程の敬虔な仏教徒らしいのじゃし。仏教の軍神を宿すだけでなく軍神の力を引き出す事にも成功しておるじゃろうからな。同い年で毎朝般若心経を読むってまずそれが信じられん話じゃが」
毎朝、経を読む系女子。
素敵。
「会長さん、さては殺さずに制して仲間に引き入れようと考えてますね?」
「だってこの学校、呑気過ぎんだもん。上杉さんを風紀委員長として迎え入れれば彼女が冷遇を受ける事も無いし、この学校の万年正月みたいな空気も変わるだろうし。それに大奥は竜心館高校そのものの転入をずっと歓迎する姿勢を保ってるし」
「龍心館は元々女子校じゃしな。共学の虎心館にイニシアチブを取られるのも仕方ない」
こう。
上杉さんに限らず。
人生を頑張って生きている人を見ると。
人生をフルスロットルの一万回転で生きる人を見ると。
心のリミッターがエンストギリギリの二千回転の僕は。
生きる価値が無いんじゃないかと。
心の回転数とは自身の能力の何パーセントを引き出すのかということなので。
エンストギリギリ。
それは自殺するかしないかのギリギリ。
だからこそフルスロットルで生きる人間を見ると眩しいのも当然で。
良いなあ、と。
羨望の眼差しを向けるしかないのだ。
殺すとも思わない。
僕が殺すのはズルい人間だから。
「球技大会とかこれからあるだろ。絶対伝統工芸科はサッサと負けて祟り発生に備えるぞ?」
「呑気じゃが、腑抜けてはおらぬのがまた問題じゃよな…」
「奇跡的に同じ年に侍が集まり過ぎたんでしょうね…」
サムライが集まり過ぎたのではない。
全員が同時に自己犠牲こそ生き方であると覚醒しただけだ。
「この学校、初代生徒会長である織田さんから代々生徒会長は日本刀に同期してんだもんな。クソ兄貴だって三代目の生徒会長で正宗に同期してるし。なんであんな破天荒な兄貴が正宗なんてエクスカリバーみたいな刀と同期出来るんだよって思うけど」
「紀康殿は破天荒じゃが正義に厳しい人じゃからな。もしかしたら正宗もそうした他人にも自分にも厳しい精神姿勢に同調したのかも知れん。ワシは正宗なんぞ見た事はないが」
「あれれ?でも正宗さんって今や警察のお抱えになってるんじゃないですっけ?」
新遠野市の警察官が使う武器は全てが正宗作品。
それは兄貴の影響が過ぎる程に大きい。
神降ろしを貫く刀。
最強の護り刀。
信仰を燃料として、単なる護り刀がある意味での神造兵器になりえた刀。
星が鍛えた刀を警察官全員が持つ。
ウワッヒィ。
としか言えない。
殺して奪えば良いんじゃね?
みたいなアホな意見もあるだろうが。
使い手の信念を増幅するのが精神感応兵器としての正宗なのでそれも出来ない。
つーか、そういう発想を持つこそ自体が危ない。
「今はナノマシンを宿した警察官全員が正宗を使うだろ。警棒の代わりに脇差を指してる」
「正宗は護り刀じゃからな。持ち主の神降ろしの強化という特徴が職員の生命を守る事に貢献しておるんじゃろう。紀康殿の不動正宗を一度拝んでみたいものじゃて」
「お巡りさんが持つ正宗はオーラ的に金色ですよね。神々しい感じがしますもん。逆に村正は赤黒いというか腹黒いというか、籠釣瓶なんて抜いた瞬間にピリリと来ますもんね」
「別に村正バアちゃん腹黒くはないけど」
「村正バアちゃんは朗らかを絵に描いた様なお方じゃからな。黙々と田植えの手伝いをしておる様子を見かけた時なんかなんだか涙が出て来たもんじゃ」
「なんであんな只管に優しいってお婆ちゃんがあんな只管に殺すぞオーラを纏う刀を鍛える事が出来るんですかね?」
それは僕と同じく怒りを原動力とするからだろう。
村正と同期する条件が怒りを有する事だし。
僕の自殺に怒る人間は全員が村正を使っているし。
まあ籠釣瓶だけは僕にしか使えないのだが。
「旦那さん、村正ジジイから鍛冶を学んだって言ってたな。僕は小さな頃に何度か将棋を指して遊んで貰った事があるけど気性の激しいお方でね。歩切れを狙ったりすれば殴られたもんだ。オリジナル村正の籠釣瓶は今の籠釣瓶と比べ物にならないぐらいの業物だって話だな。女性の身体をそれこそバターのように斬るらしいぞ?」
「じゃがオリジナル村正作品は全て介護施設に持ち込んでしもうたんじゃろ?」
「どんな日本刀でも結局会長さんは村正作品しか似合いませんよね。あの『殺すぞ、コッチくんじゃねー』オーラが出る刀じゃないと会長さんって感じがしませんし。十兵衛ちゃんの鬼包丁はオーラがキリリってしてて青い感じなんですけど、籠釣瓶のオーラは粘々してて場所に停滞すると言いますか、こびり付くんですよね。生き物みたいにユラユラしますし」
「そういや忠宗が使う蜻蛉切りの穂先を鍛えた方も村正バアちゃんのお弟子さんだったな」
「じゃな。懇意にさせて頂いておる」
「銃もそうですけど、武器ってオーラがあるじゃないですか。私が使うGSRは職人さんが組んだ事が分かるガッチリとした自信溢れるオーラですし、ドラグノフは逆にヤンキーみたいな何処に当たっても致命傷だぜヒャッハーみたいなオーラがあります。日本刀って背筋が伸びたり、何だか見てるだけで身体の調子が良くなったり、見てるだけでお腹が痛くなる籠釣瓶みたいなのもありますけど。それってそうあるべきって考えて鍛えているんですかね?」
籠釣瓶は見ればお腹が痛くなるらしい。
でも確かに刀匠は想いを刀に載せるとは言われる。
その想いを引き出せて初めて刀を使う剣客としての一歩を踏み出すのだ、だっけか。
母ちゃんが生前言っていたが。
出来るかそんなモン。
プロは道具を人一倍大事にするんだよみたいな事なんだろうけど。
んじゃ何か?
ラーメン屋さんは焚かれてる鶏ガラから声が聞こえるんか?
お寿司屋さんは捌かれる魚から声が聞こえるんか?
それ、聞こえたとしても断末魔じゃね?
それ、仕事続けてたら精神病まねえ?
「複合概念の〈ウシワカ・ライコウ〉の時に背中に背負う太刀が童子切安綱だけど。確かにあれは鬼を斬ったと言われてそうかと頷くだけの雰囲気があるモンな。まあ忠宗が近くに居る時とか忠宗がバディの時はライコウを使う事は出来ないんだけど」
「なんせワシが宿した妖怪を切った刀じゃからな…」
「あの背中に背負う太刀は完全な概念礼装で実体は無いんですけどね」
切っ先を忠宗に向けるだけで忠宗の顔色が真っ青になる。だから童子切安綱を使うあの概念換装は忠宗が近くに居ない時にしか使えない。そもそもあの換装パッケージを使う時というのも所謂「こりゃあ徹底した高火力が必要ですよ会長さん!」とお姫様が言った時だけだ。
平坂の後頭部を掴んでそのまま祟りにぶつけてやりたい衝動に駆られるけれど。
オメエは良いよ、後ろから狙撃するだけなんだから。
「あれはソード・ストライクみたいなもんだけど、今のところは〈ウシワカ・クラマ〉が一番使い易いかなあ。何かに特化するって言うんじゃなくて能力全体を底上げするんだし」
「真っ黒な翼を生やすあのモードは確かに殿によく似合っておる」
「私のデザイン力の勝利ですね、会長さん!」
しかし、見た目は大嫌いだった。
ゼロカスタムみたいだからじゃない。
紅白歌合戦の時の小林幸子さんみたいだからだ!
ちなみに小林幸子さんは大好きな僕。
東北の復興支援にも精力的だし、纏うオーラ量が半端ねえのだ。
「義経公に由来のある源氏の刀もあるんだし、それを復元出来れば〈クロウ〉との相性は間違いなく良い筈なんだよな。『髭切』と『膝丸』の二振りは復元しようと思っても情報が足りなさ過ぎて復元出来ないんだけど」
「じゃな。名を次々に変えた源氏の宝刀があれば殿がパワーアップするのは間違いないじゃろ。『髭切』『膝丸』って、後の『鬼切』『蜘蛛切』なんじゃしな」
「うーん。ヤオロズネットに含まれる概念量が形を作れるほどに潤沢に在れば童子切みたいに概念礼装として形作らせる事も出来ますけど…?」
「でも忠宗は知ってるだろうけど、土蜘蛛って呼ばれる妖怪ってのは_。」
「じゃな。大和朝廷に従わない者の蔑称。つまり東北の荒吐族を示す隠語じゃ」
「あれあれ?じゃあ『蜘蛛切』は東北の方々使えないんじゃないです?」
これには諸説ある。
土蜘蛛が東北の荒吐族を示すのだとか大和朝廷に従わない土着の部族全てを示すのだとか。
しかし諸説の中に東北の荒吐族が含まれている事が既に蜘蛛切を使えないと示唆するのだ。
信仰というか概念というか。
簡単に言っちゃえば第一印象が全てなんだろうが。
都会に適合出来ない田舎者だから蜘蛛切が使えないのか?
確かに僕は感覚的には仙台市が日本の首都だと思ってるけど?
帝都?
御伽の国でしょ?
実在しないとさえ思ってるぞ?
マスメディアがテレビの中に作り上げた虚構の存在だとさえ思っている。
だから帝都住まいの人々は実は存在しないテレビの中だけの幽霊みたいなものだと。
もっとハッキリ言えば東北と九州だけが日本だと思ってるからな!
それ以外に行った事無いし!
行った事無いから存在してるって思えないし!
北海道はあれだ、別格。
別格ってか別枠。
なんだよ、食ったモン何でも美味いって。
頂いたアスパラガスがまるでトウモロコシみたいな風味でな?
でも北海道の野菜食べると美味過ぎて自信無くすからもう勘弁してくれ!
これは四国や九州の焼酎にも言えてな!
未成年なのに焼酎飲んでるんじゃねえかってツッコミは無しな!
補導歴付いちゃうから!
特に兄貴と理事長には内緒にしててくれ!
幕府幹部級全員が未成年飲酒で補導されちゃうからな!
御神酒だと思って飲んだら焼酎だったのが始まりでな!
「豊かな自然の中でのみ歴史に名を残す英雄は産まれる。僕みたいに友達が居ない人間は大自然の中で動植物と遊び、その中で才覚を養う。だからこそ田舎で学ぶ機会を増やし田舎に人を呼び込むべきだと思う。端的に言えばウジャウジャと働き蟻みたいに人が居る都会から人間を減らすべきだ」
「殿の田舎根性は最早病気じゃ」
「会長さん。それ都会住まいの方々に失礼ですって…」
平坂は此処でパタパタと生徒会室に置かれた棚に走り、人数分の紅茶を淹れてパタパタと走って戻って来てくれた。
疲れる放課後に平坂が淹れる喉に張り付く程に激甘の紅茶は嬉しい。
熱い紅茶を持ってクルクル踊るなと言いたかったが、可愛いので良しとしよう。
「まあ他にも抜身のままで枕元に置いておくと悪夢の原因を斬ったって鬼丸国綱もある。天下五剣なんぞ手にしたら膨大な霊力で身体パァーンなりそうだけど」
「ワシは義経公を死に追いやった梶原景時が持つ狐ヶ崎為次が気になるわい。殿を自殺に追いやった主犯格の筆頭人物である英霊〈カジワラ〉を宿す者が恐らくそれを使うのじゃしな」
「なんです?そいつラスボスじゃないですか」
梶原景時が源義経を追い込んだ張本人ならば、その義経を宿す僕を追い込んだ加害者一派の筆頭人物が宿すのは梶原景時なのか。それはあまりにもそのまんまというか捻りが無いというか。自分の中の傷じゃなくて僕が原因で神降ろしをしてるんじゃねえ馬鹿野郎とさえ言いたいが。
多分、彼も彼女も神降ろしをしていない。
だから梶原景時を宿すのは加害者一派の筆頭人物ではない。
その狐ヶ崎為次がどんな刀なのかも僕は知らない。
そして英霊〈カジワラ〉を宿す人間と僕が戦わなくちゃならないのかどうかさえ疑問だ。
そもそも英霊なのかも。
判断出来るだけの人物じゃない。
「刃物と言えば新潟県三条市の刃物がええな。鎌や鉈がまた切れ味が良いのじゃ。梅の枝を落とす時に引っ掛らん」
「アメリカ人は関市の刃物を好みますね。孫六ブレイドのブランドはアメリカでも有名でしたし。私が子供の頃に誘拐されそうになった時、犯人の太ももを刺したのが孫六ナイフでした!七回に及ぶ誘拐未遂を救ってくれたのはいつも孫六ナイフです!」
「トンデモねえ過去だな…」
「ヒーラー、誘拐され過ぎじゃぞ?」
「えへへー」
「なんで笑ってんだ…」
関市の刃物はどちらかと言えば料理人が好んで使っているんじゃなかったか?
僕は村正バアちゃんが鍛えた包丁を使うけれども。
新遠野市に技術交流として来てくれれば助かるんだが、なんせ関市は遠いからなあ…。
お土産に河豚持って来てくれると嬉しいけどなあ…。
「しっかし会話だけでなんとか場が保つモンだな。さっきから僕なんか一歩も動いてない」
「殿の刀に関する逸話として誇り高いのは学連の会議の時に議長に言い放った言葉じゃな」
「え。それも聞きたい聞きたい!」
「あれ。僕、学連でなんか言ったっけか?」
「なんだか意地悪そうな女子から『天下の名刀は悉く神仏庁付属が蔵しております。徳川会長、貴方が有する名刀とは何か?』って聞かれた時に『私は名刀など有していません。ただ私の言葉一つで命を投げ出す覚悟を持つ仲間が五十程居るだけです。私にとってはかの者達こそが何にも代えがたい宝で名刀です』と啖呵をきったじゃろ。あれには惚れたぞい?」
「かっけぇな!」
まるで覚えていない。学連の全体会で覚えているのは隣の席に座る上杉さんのミニスカートから覗く太ももがエロッちぃ事ぐらいで。
いつかしこたま撫でてやろう。
「殿、頭に血が上っておったんじゃろ。まあ、神仏庁付属の意地悪そうな女子は顔を真っ赤にして黙ってしまったがな。良い気味じゃった」
「会長さんじゃなきゃ言えない台詞ですよね。常に友人に囲まれてる会長さん以外が言っても説得力がありませんモン」
報告書を作る事なんぞ既に忘れるぐらいに。
無駄口はまだまだ続く。
「僕等は基本的に村正で統一されてる。頑丈で無茶が効くから祟りとの戦いには村正が便利だ。でも他校の生徒は祟りとの戦闘に出ないにも関わらず高価な刀を有している。それも問題だろ。上杉さんの刀もそうだし武田ちゃんの刀もそうだし」
「祟りを何とかするってのがウチの役目じゃしな」
「地域貢献を全くしていないんですよね。確かに問題です」
そして神仏庁のあの会合。
民間研究機関と神仏庁付属高校。
何故、あんな式典に呼ばれていたのか。
それも気になる。
いや、気に入らねえのか。
祟りとの戦闘に出ているならば研究機関との連携もまだ理解出来るんだが_。
「んじゃ他校の生徒は神降ろしをして何をしてんだ?」
「一応、学連に所属する高校は神仏庁付属の補佐というのが役割じゃが…」
「その神仏庁付属が何をしてるのか不透明で不明瞭です。オタク等何やってんの?と聞きたくてもなんせ相手は国の機関ですし!」
刀の話を続けたくはないが、神仏庁付属には確かに名刀が沢山あるのだ。
それこそ重要文化財レベルの刀でさえも有事の為に必要であると集められたと聞く。
その有事の際に鉄火場に出るのは僕等なのが頭に来るところではあるのだが。
一体、何故あの実績や功績を得る為ならば手段を選んでいられないんですを地で行くような悪の巣窟が無用の長物である刀を集めているのか。誰かの真似をする事しか出来ないからって今度は刀狩令を真似したのだろうか?
刀狩を真似したのでさえ先に大戦時に鉄を集めた法令があるので三番煎じだ。
それはもう出涸らしに近い。
珈琲のガラだの茶葉のガラだのは畑に一箇所にまとめておいて腐葉土や牛糞を混ぜて肥料にする事も出来るが。
今、その話は全く関係が無い。
どうしても僕は家庭的な話題に反れていく悪癖が在るな。
これはもう家庭的な自分をアピールして好感度を知らずの内にゲットするって目論みとかそんな権謀術数めいたズッコイ話じゃなくて普通に僕が小市民であるとの何よりの証なんだけど。
小市民である証を話して良いなら止まらなくなるけど。
話すってか、垂れ流しに近いけど。
生活の知恵というか生き抜く術。
全部失って、それから生き抜いた方法。
あ、誰かの物を奪うとかそんなダサくて格好悪い方法じゃなく。
なんとか、名刀を手に出来ればいいのだが…。
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