第6話 我田引水ナラズ
◇
此処でゲーム的に物事を考えるといえばあまりに広義の意味に膨れ上がるのでゲーム的に幕府メンバーの役割について考えると題を銘打つとしよう。非常に残念な事に奥ゆかしい女魔法使いも清楚で慎ましい女僧侶も居ないのが幕府であるが女子に対してそもそもこの国の男子は多くを求め過ぎである。だから物事を考えるとするのは僕と忠宗の場合の話だ。
舞台は召喚された先の異世界でも核の炎で荒廃した帝都でも何でも良いんだけれど、ゲームにはキャラクターの役割というかジョブが用意されてある事が一般的だ。こう、リアルで敵と戦う事の多い僕と忠宗が共通してそういったファンタジーなどに対して持つ疑問に「何故登場人物は顔を丸出しにしているのか?」という事があるのだけれども、其処は物語の都合上仕方がないのだと割り切って余計な考えは棄ててゲームに素直に感情移入するしかないのだが。
しかしその疑問を心の内にしまっておくままには出来ないのだ。
まず顔を覚えられるという事のデメリットは致命的なまでに大きい。
個人の特定は住処の特定へと繋がり住処の特定は暗殺へとダイレクトに繋がる。
此処で話を戻すけど、ギルドに入って自分が何かしらの能力を身に付けて仲間とパーティを組んでダンジョンを探索するのがゲームの一連の流れだとすれば僕と忠宗の場合は意外に共通するスキルが多い。
ボーイスカウト出身の忠宗は山の野生動物を狩猟する事に特化している。
それはそのまま狩人のスキルを持っているとも言えるのだが、彼の場合は人間の足跡の形状からその深さを調べて対象の体格や装備、そして精神状態などまでを把握する事が非常に上手い。足跡の間隔が狭いならば緊張して周囲を警戒している事となるし足跡の間隔が広く爪先だけが深ければ走っている事を意味するのだったか。
兎角、軍人さんというのは足跡に対して敏感でありその足跡を追う追跡術を専門に研究しているぐらいなので自衛隊員の父親を持つ忠宗がそうした斥候としての技術を持つ事は不自然な事ではない。
忠宗が地面に這いつくばって何かをしている時は邪魔をしてはならない。
決して道に落ちている十円玉を拾おうとかしているのではないからだ。
事実、その追跡術のおかげで逮捕出来た犯罪者も少なくなく、また組織的に新遠野市で大きな事件を起こそうとしている犯罪組織の検挙に貢献しているとの事で表彰される事も珍しくはない。忠宗は自分が有名になる事を何よりも恐れているのでそうした表舞台に上がる事を嫌うから表彰台に上る事は無いのだが。
んじゃそんな忠宗と僕は何が共通しているのかって話になるのだが。
簡単にこれもゲームで譬えてしまうが僕と忠宗は「盗賊」のスキルを共通して持つと言ってしまって良いだろう。罠の解除はそのまま爆弾処理にも通じるし鍵開けは警察官と自衛官が双方会得する技術でもある。
しかしながら共通するスキルが「盗賊」であっても仕事に対するスタンスというのは僕等は「暗殺者」に近い。それはお互いに顔を見られるのを嫌うし忠宗は対象を如何にして捕縛もしくは殺害する為の努力を惜しまず僕は対象を逮捕もしくは確保する為の努力を強要されて来た。
だから世の中の敵と戦う系ゲームに僕等は警鐘を鳴らしたいのだ。
なんで変装しないのか。
どうして顔の下半分をスカルマスクで隠すぐらいの事をしないのか。
その事を僕は護衛対象でありゲームや漫画やアニメに詳しいお姫様に問うたところ_。
「いや、遊びなんですからそんな所の事情は一切考えてないでしょ。敵の斧で斬られたら間違いなく致命傷だろって薄着で肌を露出しながらオッパイをブルンブルン震わせて剣を振り回すヒロインだって結局は若い女性の扇情的な魅力をユーザーに伝えるって意味でのグラビアに過ぎない訳ですし。だからこそ防御力はなんかこうバリアみたいな効果のある隔離障壁が担うみたいな設定が付け加えられるんでしょうけれどね」
なんて事を言うのだ。
更に僕は隔離障壁があるならばその隔離障壁を敵にぶつけるのが一番効果的な攻撃方法なんじゃないのかを問うてみた。
普通に考えてそうである。
対消滅性を有する何かの力場を持つならばそれを敵にぶつけるのが一番効率的で手っ取り早い。武器は重いから身に付けているだけで体力を奪うしそれは防具も然りだ。
「いや、そりゃそうですけど其処は自分にしか機能しないとか後付けで幾らでも設定は追加出来ますからね。こう、あれですね、会長さんは自分が現実に戦う立場であるのでゲームとかアニメに厳しいですね。会長さんは美少女剣士と戦うとかの魅力が何処に存在するのか理解出来ないでしょ?ちなみに会長さんなら美少女剣士と戦うならどんな作戦で行きます?」
などと逆に聞き返されたので僕は相手が美少女であれオッサンであれ鍔迫り合いに持ち込んで相手の指を折ってそのまま喉元を鎧通しで突き刺すか、それか髪の毛を掴んで眼に指を突き入れてから首を刎ねるんだろうなと返答した。
するとお姫様はああやっぱりなみたいな表情を浮かべてこう言う。
「ですです。会長さんならばそういうと思っていました。それは会長さんがそういう戦い方で生き残って来たからですよね。ガチの戦闘経験者である会長さんも忠宗君もその辺りはリアリストというか創作における一つの山場に過ぎない戦闘シーンに疑問を持たれるのでしょう。それに会長さんの場合は神降ろしを使った犯罪者を逮捕する時に向かい合って十手を用いた捕物劇ってよりは後ろからそっと近付いて首を絞めて捕まえる事が大半ですからね」
と言ってくれた。
そうなのだ。
この町の犯罪者も自分の顔を決して隠さない。
それは捕まえて下さいと言っているようなモノで自分の力を誇示する為だけに神降ろしの奇跡を使って町を破壊したり人様に迷惑をかけた人間を僕は後ろから首を絞めたり交通量の多い国道に突き落としたりしてから身柄を確保する。
戦闘経験者であれば誰もが知っている。
戦闘とは、一方的な攻撃行動なのだと。
互いに戦力を削り合うのは戦闘ではなく戦争だ。
だから戦闘行動時には自分の顔を隠して自分の痕跡を隠して相手を排除しなければならない。それこそが現代戦闘であると僕等は先人の戦争から学んである筈なのに何故か戦う事に何か美学でもあるのか顔を隠すどころか名乗りを上げて喧嘩をするというような平家物語の従武士レベルにまで歴史は逆行したのだ。
仕返しで殺されるのが怖くないのか?
家に火を放たれたり、水に毒を仕込まれたり、自分以外の家族を人質に取られたり。
そうならない為にも自分と言う存在を限界まで秘匿するのが必要なんじゃないのか?
「いや、そんなの気にしてたら世の中のゲームは全てが特殊部隊とか即応部隊が主人公になりますって。名乗りを上げて戦うってのも決闘がメインの物語にしかありませんし。それもやあやあ我こそはって名乗りを上げる訳じゃありませんしね。会長さんは義経公を宿すのにその辺りを許せないんですね。ああ、その義経公が名乗りを上げてからの一騎討ちって戦の仕方を辞めた武将なんでしたっけか」
平坂はアニメを観ながら僕に言う。
僕は恐怖しかない。
こんな、自分を知っている人間と戦うなんて。
こんな、まるでカードでも行うかのように自分の手札を見せ合うかのように戦うなんて。
「まあ伝統工芸科の皆さんは祟りとの戦闘以外にも神人の取り締まりを行っていますからね。戦闘経験者から見れば世の中のバトル物なんて御伽話に過ぎないかもです。異能力バトルに理解が追い付かないって忠宗君も似たような事を言っていました。相手にその面妖な能力を使わせないような環境、もしくは能力が使えないような状況下で戦わん事は自殺行為じゃーなんて。まずそんな事を考えてたらバトル物と言うジャンルが崩壊するだろって私は思うんですけどね。忠宗君の言う事を作中に盛り込んだ場合、スタンド遣いだって一般人に殺されるって事になります」
僕は忠宗の意見に賛成だと平坂に伝えた。
相手に勝つ為ならば高層ビルの屋上にでも呼び出して其処から突き落とすだけで良い。
何も人間同士の戦いであれば異能力なんぞ必要無い。
他人を倒す事の無駄を削ぎ落として行けば行き着くのは暗殺と呼ばれる手法に限定される。
それはピラミッドの頂点であるともいえよう。
だからこそ理想的な戦闘とは誰にも気づかれずに対象だけを殺害もしくは無力化して戦闘領域を離脱する事にある。
そんな事を言うと平坂は大きく頷いて_。
「めんどくせ」
と一言。
そうかもしれん。
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