海月とクラゲ
@batasusutabako
第1話 出会い
「青春」私汐見海月はこの言葉が大嫌いだ。高校2年にしていまだ友達を作れていない私はスマホを眺めつくづく思う。
春は青くないし、そもそも青春っていう言葉自体に違和感を抱いている。高校には1年生の頃から慣れず、度々登校できない日が続いた。
「青春」ごっこが大好きな自称「1軍女子」には格好のマトだったのだろう。
東京とは遠く離れたこの海以外何もない田舎の町ですら孤立した私は生きることにすら絶望しかけた。
今日も学校は行けたが、最悪以外の言葉は出てこない。トイレの水をかけられた制服で帰路をゆっくり歩く。どうせ帰っても母親…いや、あの女の罵声が聞こえてくるだけだ。
ふと堤防の上に立ち夕陽を眺める。何もないこの町でも少しはマシな景色があるもんだ。
いつの間にか瞼は私の眼球を覆っていた。次にその瞼を開けたのは月が顔を出している時だった。慌てて画面がバキバキのスマホを開く。しまった。
あの女からの着信が40件以上も来ている。自分が家事をしないから娘にやらせている。そのくせご飯を作るのが少しでも遅れると殴ってくるのだ。
我が家の夕食は20時頃だがもう2時間も過ぎている。今度こそ本気で殺される。
急な不安が私を襲い、気が付けば目の前の海に泣きながら飛び込んでいた。
もういいあの女に殺されるくらいなら私から死んでやる。
そう思いながら夜の真っ暗な海に身を沈める。
生きる勇気も死ぬ勇気もない私は結局生き残ってしまった。鼻や口に海水が流れ込み苦しくて咽せる。最悪だ。神様は私をこの地獄な世界から降ろしてくれない。
死ねなかったことへの悲しみ、そして死ぬことへの恐怖。同時に体験した私の目からは大量に涙が溢れている。視界がぼやける。その視界の先にふと足が見えた。
ああとうとう幻覚まで見るようになったか。私は狂ってしまったのだろう。1人で笑ってしまう。
「幻覚じゃないよ。クラゲはここにいるよ」
そう声がした。慌てて顔を上げると、言葉を失うほどの綺麗な女の子が立っていた。
海月とクラゲ @batasusutabako
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