第76話 精霊魔法授業

 がやがや。がやがやとクラスが騒がしくなる。

 喧騒な日常が幕を開けるのだ。


「それじゃあまずはホームルームの時間だよ!」

「先生〜何やるんですか☆」

「精霊魔法の授業だよ!」


 勇者リリアンどのは今日もまた元気はつらつなようで。

 クラスを見回すと殆どの生徒がのんびりと朝の会を待っていた。

 一部の生徒は何か別のことをしているようだ。まあ俺もだが。


「それじゃあ皆さん、おはようございます!!今日も元気に張り切っていきましょー!!」

「ぉぉぉ!!☆」


 まあその後、注意事項やら何やらを伝えられたが、俺が気にする事は特段なかった。


「───それでは、本日の授業の準備の為に……こちらのテキストを配ります。皆さんはこれを!!」


 ◇◇◇◇



「一時間目と言うか、本日の授業は【精霊魔法】についてです。ちなみに明日は【精霊召喚】をしますので、必要な素材などは後で学内の倉庫から取りに行ってくださいね!」


 そう言うとティターニア先生はピシッとした服を着て魔法で作られた黒板の様なそれにチョークのようなもので文字を書いていく。


「皆さんは【精霊魔法】について何か知っていることはありますか?……ではフィアンマさんどうぞ!」


「はい!【精霊魔法】は精霊を使役する魔法です!!」

「うーん30点!」

「えぇっ?!」


「全く、フィアンマ。あなたは少し詳しく説明する頭をつけなさいと何度も言ったでは無いですか……。私スイナが答えて差し上げましょう。」

「どうぞ〜」

「えっと、コホン。……精霊魔法は精霊の手助けを借りて、より効率的に、そしてより複雑難解な魔法を簡単に使用する方法のようなもので、それはつまりは、我々魔法使いの使用する魔法よりも高次元の魔法となるわけです。特に自分の根源とより密接に関わる精霊を呼び出すことで、魔法自体の出力をより高めることが可能、更には───」


「長いです。──まああっているんですけど、要は【精霊の力を借りて放つ魔法】です。スイナさんはもう少し簡素に説明出来るようにしましょうね。」

「は、はい……す、すいません……。」


 スイナさんは少しだけ恥ずかしそうにして俯いたあと、前を見る。

 立て直しは早そうだ。


「とりあえず実践してみましょうか。これが従来の攻撃魔法【砲撃カノン】です!!」


 ティターニア先生の手の前に魔法陣が出現し、その後目の前の的に向かって一条の光のビームが放たれる。

 今のは基礎魔法の一つ【砲撃カノン】。【弾丸ボルト】とは異なり、火力に重きを置いた魔法使い特有の得意な魔法だ。


 特殊魔法以外は基本この【基礎魔法式】に【自らの属性】を纏わせて魔法として打ち出すのだ。


「では次に、【精霊魔法】を絡ませた【砲撃カノン】をやってみますね……【精霊砲撃ガイストカノン】!!」


 先程の数倍の火力の【砲撃カノン】が放たれる。的は先程は原型を留めていたはずのそれは、軽く擦れただけでその原型を塵に変えた。


「すっご☆……それにしても魔力消費がとっても少ないのが特徴であってる☆?」

「流石はリリアンさん。そうです、精霊に肩代わりしてもらうことで従来の魔法より、高度にかつ低コストで魔法を放てるようになるんです。……どうですか?みなさんも学びたくなったでしょう?!」


 それは確かにとみんなは頷いた。魔法使いにとって従来、魔力は消費するリソースのようなもの。

 戦いが長引いたり、敵の方が強い場合、より大量の魔力リソースを割いてしまう。

 その時になるべく低コストで高火力な魔法を使えれば、有利を取れるのは明確だからな。


 まあ、はそんな魔力切れなど考える必要が無いのでわざわざ精霊魔法なぞ使わなくてもいいのだがね。


 俺はそう思いながらテキストを開き、かつて勉学に励んでいた頃のくせでパラパラと教科書を高速でめくる。

 魔女フィリィの同人誌に目を通す過程で使用した内容高速暗記理解法を用いて中身に書かれていることを全て読み終えた俺は。


 教室の外に向かって歩き始める。


「ちょ、ちょっと?まだ外に行くには早い……」

「ああすまんな。とりあえず教科書の内容は概ね理解した。今からそれを確かめようと思ってな、ダメだったか?」

「だ、ダメってわけじゃないですけど……」


 まあ不安なのはわかるが、あまり心配しなくていいと言う意味で。俺は。


「何、俺は一人外でのんびりと精霊達と戯れておく……後で様子見にでも来てくれ。」


 そう言うと、俺は外に出ていくことにした。


 ◇◇◇


「カルロンさんって自己中なのかな……?」


 カルロンが出ていった後、その様子を眺めていた純魔たちはそんな会話をしていた。

 そもそもこのテキスト内容は全以上にのぼる。


「──それをあの短時間で丸暗記など不可能、つまり彼は多分授業を受けたくなかったんじゃないのかな?どうかな?私の名推理っ!」

「それなら最初からサボるって……まだまだ詰めが甘いわね【ウィンディ】!」

「はぁ?そっちこそフラムの人は昨日彼にボコられてましたからね!甘いのはどっちだか」

「──アタシが弱いって言いたいの?いいわ、後で表に出なさい、叩き潰してやるわ!」


 フラムとウィンディが何やら喧嘩まがいなことを始めたので、慌てて隣のミナモやグラウスが止めに入る。


「ふむ、どう見るかのリンシアどの?」

「ローン爺さん、ありゃマジモンだぞ?……あたしが見た一瞬で目が尋常じゃない速度で動いてたしな。」

「へー、ところでさ?精霊魔法ってどうやって使うんだ?」


 あまりにも授業からかけ離れたので、慌ててスラッシュは方向を定めようとした。

 その言葉に唖然としていたティターニアは再び教鞭を摂る。


「皆さん、静かに。まあカルロンさんは理解して実践しているとの事らしいので……まあテストで満点取れるんでしょう。それよりも、この数分間でしっかり内容を理解出来ましたか?──フラッシュベルさん?」


「っハッハッハ!分かるわけなかろうて!だからさっさと授業を進めて下さらないか?先生っ!」

「はいはい……ではテキストの3ページ目を……」


 ◇◇◇◇






 ふわふわ。さわさわ。もきゅもきゅ。

 ここは精霊王の住処。

 精霊学院スカーナリア・ル・フェ。


 もきゅもきゅ。もこもこ。ふさふさ。


「────む?君たちは妖精か?……そうか、戯れたいのか。構わないが……にしても……」


 カルロンはゆっくりと目を開ける。そして──。


「君ら多すぎな。」


 辺り一面を覆い尽くす大量の精霊と妖精に集まられた状態をカルロンは呆れつつ、精霊たちを撫でる。

 綿毛のようにふわふわしたものから、光の束のような物。色とりどりの精霊がカルロンにまとわりつき、その光景はさながら【雪の中の天使】のようにすら見えるほどであった。


 カルロンは精霊に愛される。そして精霊に愛された魔法使いは。


 ───精霊魔法の極致に至ることが出来るのだ。










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