第75話 ホームルーム前

 家には勿論風呂があってしかるべきだろう。


 カルロンはかいた汗を流すために、家の一角にあるお風呂に入る事にした。


「っはーーーー!!生き返る、全く本当に未来の俺は手加減が無いな」


 未来の自分との戦いで、自分の成長の余地に気がつくことが出来ると同時に──。

 自分の足りないところ、技法、粗などが明確に伝わってくるのがこの特訓の魅力だ。


 ちなみ俺が強くなると、その成長に反応して未来の俺のステータスも又跳ね上がるので……まあ飽きることなく特訓ができて楽しい限りだよ。


「───しかし純魔の連中が思ってたよりも聞き分けが良くて助かる。想像していたのは自分の過ちとかを認めないどころか責任転嫁してくる奴だったり……俺をハズレ野郎と呼んでバカにしてきたりするかと思ったのだがなぁ」


 まあ初日だしみんな化けの皮でも被っているんだろう!と思うことにして……。


 俺は風呂から上がって居間に赴く。そこには冷えたコーヒー牛乳が置かれていた。

 ちなみこのコーヒー牛乳は俺の現代知識を元に女神と魔女が作った代物だ。効能は【疲れた体に魔力を簡単チャージ】だそうだ。


「ん!!うめぇ!!やっぱ風呂の後はこれよコレ!!」


 やっぱり日本人ならば風呂の後に冷たいものを飲みたくなるものだろう。

 しかしこうなると露天風呂なんかも少し欲しくなるな。

 今度フィリィに頼んで露天風呂の童話を元ネタになんか作ってもらうか。


 そんなこんなで俺はそのまま服を着替えると、髪の毛に付着した水を【灰燼に帰すイグニス】で処理し、【無銘】……つまりは【無月】の元鞘を腰に吊るして俺は朝ごはんを食べる。


「おはようございます!カルロン様!今朝の食事は【魔力米】と採れたての【ミレニアムサンデーレタスっぽいヤツ】のサラダと、それから【紅炎魚鮭みたいな奴】で御座います!!……ちなみに紅茶も準備できております!」


「ありがとう、朝から悪いねシェファロ。それにしても魔力米なんて何処から仕入れたんだ?」

「魔力米はそこの童話畑で作りました!なんでも米作りの童話とやらを再現したらしく……?」


 ……すごいな本当に幻想魔法とやらは。


 ともかく俺はご飯を食べて歯を磨くと。


「んじゃあ行ってくるか!……行ってきます!」

「行ってらっしゃいませ!!」


 ◇◇◇◇



 早々と足を運ばせる俺は、朝の清涼な風を浴びて心地よい気分に浸る。

 今は授業開始の3時間程前、つまりはまだ朝っぱらな訳だ。

 ん?俺は寝ていないが。

 この世界では前も言ったが魔力が切れるから寝るという仕組み故に、魔力が尽きない俺は寝る必要が無い。


 そもそもエルドラドでは寝る時間すら惜しんで特訓していた身だ、今更寝ることなどしないわけだ。


 学院の門番の魔力生物が静かにこちらを見る。


「おはようございます。身分証、それから手をかざして登校して居ることを記録してください」


 機械的なボイスが流れる。俺はそれに従い手をかざして許可を貰うと学院内に足を踏み入れる。


 あの魔力生物はスカーナリアが設置したスカーナリアの分身体のようなもので、あれに登録しないとスカーナリアの結界の中に入れない仕組みだ。

 ちなみ転移や空間跳躍系の魔法や魔術でもこの結界を飛び越えることは不可能なのだとか。


 ──本当なのだろうか?今度試して……いややめておこう。ルールは守るためにあるのだ。わざわざ破る程俺は馬鹿じゃない。


 ◇◇◇◇



 しかし誰も居ないな。当然ちゃあ当然か。


 勿論人は一人もいない、当然だが3時間前となるとそもそも来ている人の方がおかしい訳だからな。

 だが人以外はかなり居る。例えば精霊、これらの存在は寝る必要が無いからか常時この学院内に存在しているのだ。


 俺はクラスの扉をガラリと開く。中には勿論先生たる【ティターニア】がいた。


「う、うぇ?!お、おはようございます?!早いですねカルロンさん……まだ3時間前ですよっ?」

「ああ、暇だからな。せっかくなら最初に来てのんびりと待っている方が性に合うからな」


 そう言うと俺は自分の席に腰掛ける。どうやら先生は今日の授業の用意で忙しいようで、バタバタと色んな道具やら本を机の上に配置しては行ったり来たりを繰り返していた。


「ん、うわぁ?!あ〜またやっちゃった……」


 と、いそいそと動いていたティターニア先生がなにかに躓いて転けた。その拍子に手に持っていた資料がばさばさと床に散乱し、それを慌てて拾っているのが俺の目に入ったので。


「手伝おうか?ティターニア先生、俺は暇だし別段構わんが」

「あ、あ〜そうして貰えると助かりますっ!……はあ……あ、その資料はこっちにお願いします」

「ふむ?今日はアレなのか。魔法指南的なあれ……俗に言う座学と言うやつをやる日ということか」


 そう言って俺は資料を全て魔力による収集によって戻し、先生を見る。


「あはは……そうです、でも今更純魔や魔法を極めた人に授業をするのって難しそうなんですよね……。」


 それはそうだと思う。


「それにしてもカルロン君は優しいんですね。貴族出身なのに結構精霊なんかにも優しくて。」

「?ほかの貴族は精霊に優しくないのか?」

「いえ、カルロン君からはがするんです。何となくですけど。」


 精霊に愛される匂いとやらが何なのかは分からないが、俺は成程。と伝えると自分の席に戻って魔力式を構築することにした。


 この魔力式はこの学校の内部の魔力を含ませて作る物。

 もし仮に回るような事があった時、またその際に内部に閉じ込められたりした時の対策になるからだ。


 スカーナリア。あれが敵になることはあまり考えるべきでは無い。しかし絶対は無いのだから可能性があるだけでもそれの対応策を考えておくべきだろう。


 ◇◇◇


 そんなことをやっていると、がやがやと教室の外から声が聞こえ始めた。どうやら生徒達が登校する時間になったようだ。


「アタシが一番!!……っ!?か、カルロン!?なんであたしより先に!?」


 どうやらこの騒がしい声はアイツか。


「おはよう、昨日は散々だったな。まあ今日はあんな風に暴れないでくれよ?さん?」

「っーーーーー!!わ、分かってるわよ!」


 昨日に比べて比較的精神状態が落ち着いているのか、魔力の安定もしっかりされており俺は一安心しつつもそうやって茶化す。


 果たして今日はどんなことが起きるのか、俺は期待に胸を膨らませつつ目を閉じる。






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