第74話 家。それは安息の地

「───ありがと。止めてくれて」


 その言葉は授業終わりに俺がフィアンマに言われた言葉だ。


「気にするな、若気の至りなどさしたるものでは無い。それよりも体の調子はどうだ?」


「アタシは強いから全然問題ない!……多分。でも一応この後魔法使いに見てもらうことにするわ」


「それがいい。少なくとも無茶をしでかしたのだからな。筋トレも、魔力トレも同じだが……クールダウンのケアはしっかりやらないとダメだからな?それではまた明日。」


 何となくそれっぽいことを話しながら俺は自分の寮の扉を開ける。


「──また……明日」


 ◇◇◇



「お帰りなさいませカルロン様」


 シェファロが出迎えてくれるのはだいぶ久方ぶりの気がする。にしても少しだけ伝えなければならないことがあるのでな。


「シェファロ……この学院に入ったら敬語は必要ないと言っただろ?同い年なんだし、もっと気楽に話してくれても────。」


「嫌です。カルロン様はいつまでもカルロン様なのです。私の中では絶対のルールなのです!」


 食い気味にそう言われてはどうしようもない。と言うか昔はもっと堅苦しさのない喋りだったのに、なんか妙に距離感を感じるようになったな……?


 何か俺は彼女の機嫌を損ねるようなことをしたのか?わからん。


『あ〜カルロン〜ちょっとこれ手伝って〜』


 と、女神に呼ばれたので俺は鏡を抜けて転移をする事にした。

 勿論シェファロも一緒にだ。

 ◇◇◇◇


『どう、どう?!この家、すっごいいい感じでしょ?!』


『やっぱり女神様とは意見が合うわね。この家、実に見事なセンスで建てられたものだと私は思うわ。』


「クゥ、頑張って手伝った!!」


「──────てめぇら。全員センス無さすぎるだろうが?!どうなっている?!」


 俺は慌てて新しく建ててもらった家の外装を唖然としながら眺めたあと、目を覆う。


「───俺がこの家に感じた感想はただ一つ。。以上だ。」


『や、闇鍋?』


「ああ、闇鍋だ。暗くした部屋で各々が持ち寄った食べ物を適当にぶち込んだ鍋……それが一番適切な例えだろコレは。」


 ギリシャ風、ゴシック風。アテネの神殿のような豪華な佇まいの中にメルヘンチックな建物が所狭しと敷き詰められている。

 メルヘンチック……いわば幻想的な空間に、大量の女神像が置かれ。それを囲うように鉱石が山のように乱雑に配置されて……。


 要は女神ヘカテーの基準たる【ギリシャ風】の神殿や建物と、メルヘンな魔女フィリィのセンスがあまりにも最悪な形でマッチしてしまっているわけだ。

 極めつけにクゥの用意したおそらくおやつ代わりの鉱石のせいで色合いすらぶち壊しだ。


 そもそも木造建築の途中から石造建築に変えるなよ……。

 もっとメリハリつけてくれ……。


 その後カルロンはどうにかバランスを整えるために一度それら全てを解体し……その後適切に二人の置きたいものを並べて建物を作って行くのであった。


 ◇◇◇◇



 最終的にまとまりが悪すぎたので、シェファロの意見である【ツリーハウス】の形で落ち着くことになったのだが。

 魔女が幻想種の樹を並べまくり、女神がその横に神像を沢山配置した結果───。


「……ひとついいか?ここはラストダンジョンか何かか?」


 多分ゲームなら最後の方に訪れるであろう家になってしまった。まあもうこれ以上どうしようもなさそうなのでこの件は未来の自分に任せるとして。


 ◇◇◇


 ──俺は鍛錬を再開する。


「さて、いつでもいいぞカルロン。お前の力の限界、魔力の底……それを今から引き出してやる」


「ふん、自分のコピーのくせに偉そうだな?……言っておくがお前は俺が創った模造品、お前に俺が負ける筋合いはないぞ」


「それはどうかな?カルロン。第三50年後のカルロンから言わせてもらうが、貴様はまだ未熟者だ。」


「そうだ、第四100年後の俺から言わせてもらうとお前はまだ弱い」


「───上等。カルロンコピー共纏めてかかって来い、たたきつぶしてやる!!」


 今やっているのは【無】の空間に女神ヘカテーとフィリィ、そしてスカサハ師匠の魔法で作り上げられた自分の未来の姿とのタイマン(多数戦)

 だ。


 俺よりも遥かに戦闘経験を積んだ未来の俺、それは最高の相手に相応しいだろう?


 カルロン一同「「「「死ねぇ!!!!」」」」


 星が砕ける。世界のあちこちを【虚無】の星が飛び交い、そうやって夜は次第に更けていくのである。


 ◇◇◇


「ふふ、カルロン様楽しそうですね。あ、女神様に魔女さま、紅茶が入りましたよ?」


『たすかるわ〜〜ちょっと頭使いすぎたかしら?甘いものも欲しいわね』


『金平糖なんか如何か?ちなみコレは本物のでできておるがな?』


「それはお菓子なんですか?……ってクゥさん飛んできてどうしたんですか?!」


「オヤツ、ミッケ。食べていい?」


「ん?星……ああ星は確かに鉱石の塊か……いいぞもっと作ってやろう」


「味しない。味つけろ、コレは幻想の味がする。不味い」──『そりゃコレは幻だからね』


 クゥはそう言うとバサバサと翼を広げて飛び去って行った。

 白銀の肉体は、夜空に浮かぶ満月に照らされて幻想を膨らませ。

 その月光の下、魔女と女神と竜と女の子のお茶会は続く。


 ここは幻想世界。魔女と女神に愛されなければ、見ることも聞くことも叶わぬ夢境の土地。

 最も、この状況をつくりあげた奴は大して凄まじいことをしていることに気がついておらず。


「まあ楽しい空間だよな……。」

 ぐらいのノリで適当に流してはいるのだが。


 ──ともかくこんなどうで良さそうなお茶会はカルロンの特訓をおかずにしながら、のんびりと進んでいくのであった。








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