第73話 熱暴走
こんなものか、大したことは無いな。
その言葉がカルロンの口から出かけた時、対峙していたフィアンマの片手に業火が呼び出される。
チリチリと髪の毛がその炎の温度に絆されていくのを周囲で眺めていた他の生徒は感じ取った。
「───まだよ!!アタシはまだ負けてないっ!──業火顕現ッ!……来い!【灼熱剣イーヴィルフレア】!!」
「なっ、フィアンマさん!自分の武器は持ち出しちゃダメなルールで」
慌てて止めに入ろうとするティターニア先生。しかしそれを払い除けるように、推し黙らせるフィアンマ。
その目には自分の理性を半分ほど失った際の狂気の炎が燃え盛っていたのだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!【
フラム・フィアンマの姿が炎に包まれる。
そして姿形が禍々しい姿に変質してしまった。
「ちっ、呑まれたか。」
カルロンは冷静にそう告げる。
彼女か出した剣はおそらくだが彼女自身のリミッターを壊すものだったのだろう。
実際彼女の魔力、出力、それらは先程までとは異なる領域に踏み入っている。しかし──。
同時に彼女の理性もまた、その炎によって焼き尽くされてしまったのかもしれない。
「あはっ、あははっ!!さっきはよくもこの私をおちょくるような戦い方をしてくれたわね?その罪過、そのみに焼印として刻みつけてやるわ!!!」
ちなみ魔法使いが自分の魔法やら武器に呑み込まれて崩壊するのは割とよくある話の様だ。
実際後ろで見ていた他の純魔の連中も、呆れたというか、大人気なさすぎるといった顔であるしな。
と、手の中に炎──。
「【
熱線がカルロンを焼き払う。いや、焼き払うと言う表現は些か異なるか。
消し飛ばすの方が正しいかもしれない。
「な?!フィアンマさん?!その技っ!!あなたカルロンさんを殺す気ですのっ?!」
先程まで、やれやれ。とばかし見ていた他の生徒がその魔法を放ったことで慌ててフィアンマを止めに入ろうとする。
他の生徒は精々【
だが既にこの場の空間のほとんどはフィアンマの炎により完全に支配されている。ここから魔法を用いようにも、彼女の魔法を一度どかさなければ出力勝負にならないので他の魔法使いではどうしようもないのだ。
「しまった、魔法使い同士の戦いにおいてここまで空間が支配されてしまってはどうしようもないぞ」
グラウスが冷静そうにつぶやくが、表情はかなり固くなっていた。
魔法使いの戦いは互いに魔法をぶつけ合って空間をどれだけ魔力で染め上げるかに勝敗が関わってくる。
例えば炎と水の魔法使い同士が互いに魔法をぶつけあったとしよう。
その場合魔法の性質上互いにゼロスタートの時点では水の方に勝利の天秤が傾くのだ。
──しかし、そのぶつけあいの中で炎が空間を支配出来てしまっていた場合、例え属性相性における優位にあるはずの水であっても──。
炎魔法に負けてしまうことがあるのだ。
そして今この状況はフィアンマが完全に炎で空間を支配してしまっている。
故に彼女を止めるには相当な実力者が止めに入らねばならない。
だが誰が止めれるというのだろうか?
彼女【フラム=フィアンマ】は魔法使いだ。それも純粋なる魔法使い、その中でも火力において最優と称される【炎】の使い手。
炎は如何なる物にも牙を剥く凶暴性を秘めた属性だ。
その頂点とも言うべき奴が全力を出しかけているのを、どうやって止めろと?
クロノは時魔法を使用する為に魔法を起動するが──。
「ちっ、不味い。空間の炎侵食率が高すぎて時魔法が作用しずらくなっている──闇の!闇で足止めは出来んのか?!」
「や、やってる!でも不味いっ!炎が暴れすぎて闇が焼かれるっ!」
そうこうしている間に、空間からは水分だけがどんどんと飛ばされていく。
あまりの熱量に離れた場所で見守っていたローン、リンシアですら汗を滲ませる程の温度。
「あはっあはっあははははは!!!燃えろ燃えろ燃え尽きろ!!」
「っ───不味いですっ、精霊魔法でどうにかしなければフィアンマさんも危ないですっ!」
ティターニアは慌てて止めに入ろうとするが、やはりどうにもならなそうだ。
精霊魔法も又オセロで言うところの黒が八割を占める詰み盤面からひっくり返すほどの力は備えていない。
「ど、どうすればっ!?そ、そうだ校長先生を───。」
「──しかしいい温度だ。流石はフラム。──今度サウナする時に手伝ってもらおうかな?」
そんな言葉でその場にいあわせた全ての人が唖然とする。
炎の中、カルロンは無傷だったのだ。
「あははははは……は……は?……なっ?!」
「しかしさすがに暑くなってきたな、これ以上やると俺が裸で海にでも潜りたくなってしまう。そんなサービス精神は残念ながら持ち合わせていないのでな、では締めるとするか───【無月】」
瞬間、空間が凍りつく。
先程まで大地を焼き焦がし、空気を干からびさせる程の熱は消えた。
その空間を占めていた全ての炎と言う魔法属性が──【無】に上書きされたのだ。
止まった空間の中、カルロンは軽くフィアンマの片手に握られた武器を取り上げる。
すると当然ながらフィアンマの姿は元あった姿に戻り始める。
しかし何かを察したカルロンは自分の服を脱ぐと──。
「【無月】──【解除】」
時が動き出す。先程まで放出されていた炎の熱は、どんどんと霧散して消えていくのであった。
「────なっ?!え?あれ?……って……ぴっ?!」
唖然とした顔のフィアンマは、なにかに気がついたのか、意識を取り戻した途端、顔を真っ赤にしてうずくまる。
「────見た?」
それは年頃の女の子の正しい反応だったのだろう。まあ実際見たか見ていないかで言うと、見た。
中々いいものをお持ち──おっとこれ以上はシェファロに白い目で見られかねん。
「その顔っ、見たのね?!〜〜〜〜〜っ!!」
そういうなり、全速力で駆け抜けて行った。
後には、真っ黒な地面の中で一人ぼっちなカルロンだけが無惨にも取り残されていたのであった。
「───最低だと思いますっ!」
ミナモさんにそう言って睨まれたが、はっきり言いたい。こればかりは。
「俺関係無くないか?流石に───。」
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