第71話 学院生活の幕開けは開戦と共に

 ゆったりと口を開く仕草を見せたシグルズ。しかしその前に隣にいた一人の女性が割って入る。


「んぬぅ……先に自己紹介してよろしいですか?私は【ニクス】。まあ少しだけ優秀な貴族です。うん話の空気が重くなる前にさっさと喋っておきたかったので──ちなみにそこのカルロンって子は私の未来の旦那様だからそこんとこ宜しく」


「よろしく。じゃないが?なんか勝手に話が進んでいるのが少々解せないんだけど?」


「あら?カルロン様?私の求婚に応じてくださったではありませんか?それとも、あの場面をもう一度この場で再現して差し上げましょうか?」


 やめてくれ。なんかシェファロとヘカテーからの嫉妬で頭が痛いんでな。


 だがまるで奇妙な断章の如く、挟み込まれた事実のように他のものは大した反応を示していない。──最も、おそらく彼女から何かしらの魔法を使ったと言う証なのだろう。


「え、えっと……それじゃあ次の方シグルズさん?」


「ふむ、済まないな。気を使わせてしまったか。改めて自己紹介といこう、私は【ニーベルング・シグルズ】。趣味は魔剣やら聖剣やらを作ることが最近のお気に入りだ。うむ、私のことは好きに呼んでくれ──。」


 あまりにもあっさりと、サラッと流そうとするシグルズ。されど彼女に誰もツッコミを入れれないのは、おそらくだがあまりにも鋭すぎる刃のような彼女のオーラによるものだろう。


「……では最後……【レギオン・カサンドラ】さん」


「っ……はい。初めまして、の人はあんまり居ないかもしれませんが、はい。【レギオン・カサンドラ】と申します。……先日は父親がご迷惑をおかけして大変申し訳ございせんでした。」


 俯きながらそう呟くカサンドラに対し、俺は誰かが先に追及する前に先に彼女の相手を摂る。


「気にしなくていい、子供の責任など大したものでは無い。むしろ君は良い子供だった、それだけは認めなくては。」


「良い子供……っ……そうですか。優しいのですねカルロンさんは。」


 もはや誰も何も言えないほどにゆったりと暗くなりながら席に戻るカサンドラ。やはり彼女にあの後おしよせた不幸は計り知れないものであったのだろう。


 こんな雰囲気を感じ取ったのか、ティターニア先生は慌てて手を叩き。


「はい!という事で以上がクラスメイトとなります!では私の自己紹介しましょう!私は光の精霊にして偉大なる精霊【ティターニア】です!

 皆さんのクラス担当の精霊として、皆さんのこの学院生活をより良いものにするためにひたすらに頑張りますので、どうかよろしくお願いします!!」


 曇りなき光り輝く笑顔で答える先生。多分だがかなり優しいのだな?


「では皆さん、早速で悪いのですが────試験を開始します!ええ今回は抜き打ちテスト……それも……です」


「ほほぉ?急すぎんか?」


「ローンさん、抜き打ちテストとはそういうものです」


 そういうなり、目の前に突然仕切り板が現れ……ついで問題用紙が出現する。

 おそらくだが【精霊光】による応用魔法なのだろうか?


「それでは……初めっ!!!」


 ◇◇◇◇


 いきなりすぎるとは思ったが、何となく意図は伝わってきた。俺はとりあえず問題用紙をめくって中身を見ることにしたが。


「ふむ……?魔法と魔術の利点と欠点……及びどちらが優れているのかについて。……これ又難しい問いを。」


 魔法と魔術はどちらが優れているのかについては正直なところ、としか書けないだろう。

 そもそも魔法は出力に優れ、代わりに汎用性と対応力に劣る。

 一方魔術は出力こそ控えめだが、代わりに有り得ないほどの汎用性を誇る。

 この二つは一概にどちらが上か下かなど決めようがない。


 実際竜の国エルドラドにて俺が学んだのはどちらかと言うと魔術の方だしな。

 魔法を魔術のように汎用的に使うには、かなり複雑難解なイメージを作り出す必要がある。


 魔法は人のイメージによって出力のムラが激しいのだが、魔術は規格に沿った動きを纏めて行えるため強いとも言えるし。


 まあこの質問には答えは書けと言われていないし、書かなくても良いが。

 ──だとしても俺にはどちらが優れ、どちらが劣るなどの言葉は吐けないな。


 結局俺は状況による。としか書けなかった。だがこれは公平な答えであり、この質問の曖昧さに対するアンサーとしてあっていると思うのだが。




「───それでは問題用紙を回収します!……うんうん、ふむふむ……ほーぉ……へぇ?!……そっか!」


 しばらく吟味したあと、先生は立ち上がりそして。

「──よし、じゃあ今から魔法使いの方を書いたやつと、それ以外の答えを書いたやつで手合わせしましょう!」


 そんなことを突拍子もなく……ではないか。まあ叫んだのであった。


 ◇◇◇◇◇◇


「いきなりですが、何でですか?」


「え?だって意見が異なるなら互いの力を見せ合うことでより深みに進めるでしょ?いやぁ良かったんだよ。みんな同じ答えなら進化も進捗もない平坦な物事に落ち着いてしまうところだったんだけど……でも今回君たちはどうやらちゃんとにできるぐらい綺麗に別れたのだからっ!」


 そういうと、外に場所を移すことになった俺たち【黒】のクラス一行。


「じゃあまずは【魔法使い】と【それ以外】で分けますね」


【魔法使い】

『フラムさん』

『ミナモさん』

『ウィンディさん』

『グラウスさん』

『フラッシュベルさん』

『アビサスさん』

『クロノさん』

『スラッシュさん』

『レギオンさん』

『フォルクスさん』


【それ以外】

『カルロンさん』

『リンシアさん』

『ローンさん』

『ジュリオールさん』

『ベリアルさん』

『オーガストさん』

『アグネスさん』

『ニーベルングさん』

『リリアンさん』

『ニクスさん』


「ね?めっちゃ綺麗に別れたでしょ?んじゃ力比べと行こうね!」


 そう言ってにこにこで飛び出していくティターニア先生。

 多分たけどちゃんと意見が二分された事がとっても嬉しかったのだろう。

 実際ここまで綺麗な二等分になるなら俺だって喜ぶがな。


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