第二章 勇魔学院スカーナリア 学院編(一年生)

第67話 入学式・開幕

「カルロン様、服の準備終わりました!……カスタマイズはこんな風にアレンジをのせたのでぜひ気に入っていただけると幸いです!」


「ありがとう、シェファロ。それからヘカテーもな?……にしても助かったよ。服のセンスはからっきしだからな俺は」


 服のセンスなどあるわけがないだろうが。前世では年中無地の黒服プラス無地の安物のジーンズだった俺だぞ?私服なんてそんなもんでいいだろ?


 今日は入学式の日だ。あの後一ヶ月の間に新たな生徒の獲得と組み分けをスカーナリアは行ったとの事。


「──黒服とはなぁ……まあ確かにかっこよさ的な面では黒がベストではあるか。しかしやはり白の方が視認性として上な気がするがな」


 俺は黒服。そしてクラス分けは上から【金】【黒】【白】【灰】【無地】の順だそうだ。

 ちなみにこれはスカーナリアが選択判別したもの故、絶対公正なる判断とも言える。


「それではカルロン様、行ってらっしゃいませ!……勿論ここの寮の中でまた会えますけどね!」


 シェファロが言っているのはスカーナリア寮の事。スカーナリアに入学したもの達はそれぞれのクラス分けに従い自分の家……ベースともなる場所を獲得できるのだが。


 当然皆共通の寮であり、人によっては従者やゲートを繋いで外の家とリンクさせる事もあるのだそうだ。

 まあ俺は一応中に最低限の家具を置いた上で鏡の先にちょっと離れた位置にある俺たち専用の家……女神と竜と魔女が住み着いた恐るべき家に繋がっているのだが……まああそこは魔境なので今回は話すのはやめておこう。


 シェファロはメイド(バトル&家事)を任せてあるので、基本的にはここの寮内で待機してもらっている。

 勿論女神様の加護により、シェファロが傷つくなどと言う事態は起こりえない。


「───さてと、行くとするか」


 ◇◇◇


「おぉ!カルロン殿!……やーいいかっこしてんねぇ!」


「おや、リンシア。ふむそのスタイルは問題ないのか?」


 話しかけてきたのは『万能魔術師リンシア』。彼女は肩からブレザーをかけて歩いている。

 スカーナリアの制服は自由に改造して良いことになっていて、唯一胸元の校章だけは改造してはならないことを除けば本当に自由なのだ。


 元の服はブレザーと長ズボンだけなのだが、例えばリンシアのようにブレザーを肩から背負う形もありだし、俺みたいに腰マントなどと呼ばれる足回りのマントをつけるのも勿論ありだ。


 勿論武装を仕込むのもありだし、魔術や魔法をかけておくのも問題ない。

 ちなみに俺は【三相女神の加護】と【竜界壁】【無尽天蓋】と呼ばれる圧倒的な防御系列のの重ねがけを行っているので、この服が破壊されることはありえないのだ。


「ふぉー!ここが夢に見た学院!!テンション上がるぜぇ!ヒャッハー!!あ……」


 スラッシュ・フロウさんはどうやらテンションがおかしい女の子のようだ。ちなみに俺とリンシアに見られたことに気がついたのか、顔を真っ赤にして走っていった。


「?今誰か走っていかなかったか?……しかしのぉ……ちょっとこの服動きずらすぎるのぉ……」


「おうジジイ、この暑いのによくそんなヘンテコなマフラーみたいな風に首に巻くねぇ?」


「カッコつけとるんじゃ!悪いかの?」


 ローンはそう言いながらカバンと杖を片手にゆったりと歩いていく。

 確か今日は別に授業がある訳では無かったはずなので、なぜ杖を?とは思ったが。


 俺は学院までの道をのんびりと歩く。リンシアは先に行ったので俺はゆったりと、いつも通りの速度で歩く。

 こうやってどこかに通うためにわざわざ歩くのは実に久方ぶりの事だ、ちょっとだけ──前世の記憶が蘇りかけたが、それはいらない記憶。早急に削除しておこう。


「どうも、カルロン殿。私ですシグルズです……えぇ一応クラスメイトとしてよろしくお願いいたします、まあこの学内のことは一応頭に入っていると思いますが……念の為。とだけ。では」


 何かあるのだろうな。まあ興味は無いが。


 ◇◇◇◇



 ──スカーナリア学院内・『スタジアム』


 どうやら皆は早めに集まっていたようで俺はかなり最後の方だった。まあ明日からは最初に行くつもりだ、初日ぐらい他者に先を譲っても構わないだろう。


「おいおい、アイツら確か選抜されたとか聞いたぜ?」

「どうせ金だけで成り上がったんだよ……ほら見ろよあのじじいとか……絶対弱いって」

「確かあれだろ?カルロンとかいう下位互換野郎ってのは……クソ、下位互換のくせに俺より上なんて腹立つぜマジで!!」


 ひがみ。蔑み。そういった声が隣のクラス……まあつまるところ『白』のクラスから聞こえてくるのは必然なのだが。──本当にスカーナリアは入るべき生徒を選んだのか?と疑問が湧き上がる。


「よォ、カルロン!出来損ない!……俺様よりしたのハズレやろうが!」


 ふと隣にいた男に話しかけられる。顔を見て少し考えたあとカルロンは兄弟である『キエス=ハーディアス』に答える。


「やぁスティス。久しぶりだね」


「ハーディアスだ!間違えるなクソ野郎が!……てめぇなんぞが特別待遇されるのは気に食わねぇけど……まぁ俺たちより下で安心したぜ全く!」


「ちょっと兄上、声が大きいわ!……あら見ないうちに随分生意気そうになったわね?ふふ私、ヘルセネーにその目を向けるのはやめなさい?間違って八つ裂きにしてしまうかもしれないからね!」


 ……呆れた目をするなと。無理だろ。さすがに変わらなすぎて逆に憐れみすら生まれてきたよ全く。


「二人とも静かに、しかしカルロン……君がこの学院の厳しい授業に着いてこれるとは思わないよ僕は。まあ入れたことは褒めてあげよう、お父様も少しだけ褒めておられたからね?──でも調子に乗るなよ?お前ごときが学院を無事に卒業出来ると……思うなよ?」


 スティス。キエス=スティスはそう言うと金色の服の襟元をただしながら去っていった。


 彼らはすぐに近くにいた同じ『金』の服を身にまとった……多分純魔と思わしき集団の中で何やら楽しそうな会話を繰り広げている。


 ちなみに純魔の過半数は『金』もう半数は『黒』に分別されていてな。

 例えばミナモ家はスイナが黒の方に、もう片方は金の方に……という感じに分けられている。


 ふと目の前の集団がこちらを振り向く気配を察知し、俺はこっそりと気配を遮断する。

 彼らは新たなクラスメイトになる純魔。

 まあ彼らとは一度舞踏会にて顔合わせをしているため、そこまで警戒する必要があるかと言われたら微妙ではあるが……だとしても少々面倒事の気配がしたのでな。


 案の定、俺を探して皆辺りを見回しているが見つからなかったようで再び前を向いて話を始めていた。


「────これでひとまず誰かに話しかけられるストレスは減った……」


「ふふふ、そう思っているのは貴方だけですよ」


「……すごいな君、俺の気配遮断を完全に見抜くとは──何者……いや待て?お前の顔何処かで見たような……」


 黒髪の美少女。だがこの儚げな……そしてこの目……何処かで……。


「舞踏会で最後に踊ったのは楽しかったですよね?」


 ああ思い出した。確かこの子は自分の名前を……名前?言っていなかったよな?


「君の名前……確かあの時教えてくれなかったな、いい機会だ。教えてくれ、君の名前を」


「ふふ、ふふふ。いいわ、私の名前。教えてあげましょう。私は─────」


 風が吹く。ほんのり温かさを覚えるその風は春の訪れを告げるものだろう。

 優しい風に煽られて彼女の顔がしっかりとカルロンの目に焼き付く。


「────私の名前は……この国の王女にして唯一の魔皇の血を引くもの……改めてよろしくね??」


 一瞬、花吹雪が舞ったようにすら思える程の微笑み。静寂が片時カルロンを包み込む。

 隠れてほとんど見えていなかった目の片方の色は深淵の中で唯一の光のようにすら見える程の金色で。

 色白な肌とは対照的に世界を覆い尽くすような黒い髪がカルロンの顔にぶつかる。


「……王族だったのか、それは失礼な事を。」


「あら?未来の旦那様というとこには突っ込まないのね?」


「突っ込んでもなにか無駄な気がしたのでな。まあ……しかしその服装、少々暑苦しくないのか?」


「───よくわかったね、うん。暑いね、ちょっと思ってたより暑くてしんどいや」


「全く、少し手を貸してみろ。──ほら魔力で体温の調整をしやすいように整えてやるから」


 そう言ってカルロンは魔力を注ぐ。その際ニクスは少しだけ……恥ずかしそうな顔をしていたのだが顔をよく見ていなかったカルロンは気がつくことは無かった。


「──これでよし、しかしまだ始まら──おや、そろそろか」


 そんなこんなをしている間に──入学セレモニーが開幕となったのである。





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