第66話 学院精霊王『スカーナリア』

 数千℃はくだらない全てを灼き尽くすには少しだけ足りない炎がグレゴリを包む。


『『ォォオォオオオオオオ!!!!』』


 熱量を必死に魔法抵抗で防ごうとするグレゴリを、カルロンは哀れに思いながら槍先からさらに焔を迸らせる。


 ──【紅炎直噴射プロミネンス・バーナー


 橙と赤の折り重なる様は非常に恐ろしさを感じさせる程。

 放たれた熱量は必死に抵抗するグレゴリを軽々と灼き尽くす。それでも尚予想魔法による抵抗で踏ん張ろうとするグレゴリ、それをさらなる火力によりゴリ押しで潰すカルロン。


 この炎はの魂だけを狙ったもの、故に融合してしまったカサンドラは無事なはず。


 やがて黒焦げな僅かな欠片になってしまったグレゴリを軽くつまみ上げると、その魂を『無に帰すムニキス』により──消滅させる。


 その後砕け散ったカサンドラの肉体をカルロンは『帰還』させて復元するのであった。


 ◇◇◇


 しかしふと周りを眺めてみて、本当にこの【ヘリオスノーツ】は使いにくい……調節が難しいものだとカルロンは呆れつつ口に出す。


 ヘカテーの作り上げた『天空』を含まず『地上』でもなく、『冥界』でもない世界──即ち……有るけど無い空間──【虚数空間】でも無ければ間違いなく2つか3つ世界が消し飛んでいた、そう言えるほどの熱量。


 やはり『無月』に比べて【ヘリオスノーツ】の方は少々手加減には適さないな。──適していたらもっと色々と楽になるのだがなぁ……。


 呑気な事を言いながらカルロンは虚数空間を閉じるのであった。


 ◇◇◇◇◇



 地上に戻ると、見たことない巨大なオッサンいた。

 見た目ははっきりいって古臭い。にもかかわらず妙な光り方をしており、故に少なくともただものでは無い事だけは誰しもに伝わるような有様で。


『──君たちがあの悪魔を倒してくれた英雄なのか?──ああそこまで警戒しなくてもよろしい、我は【スカーナリア】……偉大なる魔法使いの弟子……学院精霊王【スカーナリア】その者だ!』


 へぇこのおっさん自分の事スカーナリアだとか言ってるぜ?──などと言う無粋な言葉はこの場にいたものの口から出ることは無かった。


「──やっぱり何者かに封印されていたか」


 その場にいた殆どのやつは成程?と首を傾げるに過ぎなかったが、俺は幻想の魔女【フィリィ】に調べて貰った本の内容から知っていたのだ。


『左様、我はかつてあの者……今は魔王となのっておるが……オルフェウスとやらに寝首をかかれてしもうて……何とか魔力を取り戻そうと画策しておったが、やつの忠実な配下のものがここ数年近くにおったせいで迂闊に手出が出来無かったのじゃ。──改めて感謝を、『キエス=カルロン』……そしてこの場に居合わせた幸運なもの達よ』


「どうも?」

「あ、ありがとうございますですわ!」

「金をくれぃ!」

「魔道具でもいいぜぇ?」

「カッケー剣ください!」

「──剣なら私が作ろうか?」


 ちなみに既にもう片方の五人……彼らは仮称『勇者パーティ』とでも言うべき奴らは既に避難誘導やら学内の魔物……グレゴリの死を起点に起動するタイプの魔法生物たちの討伐に向かったとのこと。

 あれらはまあそっとしといていいだろう。それよりも。


「なぁ、ひとつ聞きたいんだが……この後どうするつもりなんだ?」


『ふむ、試験のことじゃな?──確かに今回の試験は仕組まれたことが多すぎる、さらに様々な運営側からの干渉も多すぎだ……故にもう一度試験を行おうと思うておるのじゃ』


「──俺達もか?」


『──いや、お主らは既に合格じゃ。と言うかこのままでは新入生がわずか10人と言うことになってしまう……それは不味いと思うての』


「そりゃ確かに。──なら任せるとしますか、俺ははっきりいってこういう系列の事柄は苦手でな?いつの日かこういった事をやってくれる優しいやつが近くにいればいいのだがなぁ……ハハ」


 ──後にこの言葉は事実となるのだが、まあ今のカルロンには知り得ない話だ。


 ◇◇◇



 こうしてグレゴリ及びレギオンによる純魔に対して理不尽だった試験はやり直しとなった。

 その後スカーナリアを王族及び探査の優れた魔法使いたちが手際よく調べたところ、学内の生徒の半数以上が既にグレゴリの手先の物になっていたとのこと。

 それらを処分したあと、生徒が少なくなりすぎた為……急遽冒険者及び現行していた生徒たちにもう一度最初からやり直してもらうということになった。

 今2年生だったミランダさんはこう語る。


「いきなり明日から一年からやり直しね〜って言われたんすけど、マジかよって話っしょ!でも金も貰えるし、より良い教育と確約された就職とかを言われちゃねぇ……受けるしか選択肢、ないっしょ!!」


 との事。


 あとこれはグレゴリが使用していた催眠効果のある魔道具の弊害か、あの放送を見ていた人達のほとんどがそこの記憶が曖昧になっていたとのこと。

 それを受けてスカーナリアの魔法により、純魔が破れたと言う話は無かったことにされた。

 勿論その話を知っているのは我々あの場に生き残った受験者の10人と、生徒会長カサンドラ、そして風紀委員長のシグルズだけである。


 ◇◇◇


 そういえばシグルズはなぜと言っていたのか。その答えは彼女から直接教えてもらった。

 曰く彼女は元々レギオンでは無かったと、ただしつこく勧誘されるのでまあボディガードみたいな役割として雇われただけなのだと。


 実際彼女の本名は『ニーベルング・シグルズ』と言うらしい。

 まあ彼女は今まで通りシグルズでいいと話していたが。

 彼女には少しの罰則だけを与えたあと、改めてこの学内の管理を任せる役員に着いてもらった。


 それは俺が懇願したのだから誰も文句は言うまい。勿論カサンドラも又騙されていただけだと言うことで無罪となった。

 ──まあ確執とかは根付いているとは思うが。


 ◇◇◇



 こうしてしばらく調整が行われたあと、正式に──入学者が決まったのであった。






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