第60話 魔女は創作がお好き

 ───『猿蟹合戦』を聴き終えたカルロンは、改めてその惨状を呆れながら肩を落とす。


「なぁ……ひとつ知ってるか?フィリィ──B級映画ってのを。俺の元いた世界ではな、チープでニッチな作品にクラスをつけることがあるんだがな?B級ってのはそう、つまらなさすぎる訳じゃないが、改善の余地ありな作品のことを言うんだ。……なんで異世界でB級映画みせられてんだ俺は……」


 カルロンが見せられた『猿蟹合戦』の内容、それを簡単に話すと……『主人公の【猿】VS悪逆非道な【蟹】の大乱闘』である。

 身長20メートル程の蟹と、10メートル程の猿が殴り合うという展開。


『──そんなにダメでしたか?』


「あのなぁ……まず演出が酷い。脚本は割と良かったからそこは90点だがな、だとしても演出をもう少しエフェクトを落としてくれ、見てるこっちが頭痛がしてしまう。……それから一番文句を言いたいのはクライマックスの展開っ!」


『猿蟹合戦』のクライマックスは蟹の弱点である『柿』を巡った争いなのだが。

 猿である主人公が最後自分の命と引き換えに『柿』を成長させて殴り……それで『蟹』の防御を破壊して勝つという王道展開だったのだ。


 ──ここまでは完璧だよ。だけどさァ!


「……なんで倒した蟹が増殖してんだよ?!蟹ぃ!あそこで終わらせればそこで綺麗に終わったのに、どうして蟹の親玉が出てくんだよっ!……あれじゃコング……猿が報われねぇよ!……」


『だって普通蟹一匹じゃないでしょ?……そもそもこの物語は『蟹』が1匹だと勘違いしてることが問題で……』


「だとしても、猿側に救いぐらい用意してくれよ!……はぁ……はぁ……」


 余談だが、猿蟹合戦で起きた幻想は全てカルロンを狙って来るわけで……それを処理しながらのこの感想をカルロンは思ったわけだ。


『?万物全てに救済は無いよ?──まあでも、確かにちょっと蟹強くしすぎたかな……だったら君はどうするのさ』


「……俺ならば猿が蟹と一騎打ちしている時に蟹を全て後ろに呼び出す。……そのうえで一体多数の展開に書き換える。」


『?それじゃあバットエンドじゃないの?』


「だけど蟹は猿との闘いの中で感情が芽生えてな、それにより蟹は猿との一騎打ちを邪魔されたことに腹を立てて猿と共闘することになるのだよ」


『なるほど、そんな考えが!……戦いの中に友情が芽生えたんだ!』


「そして蟹と猿は互いに手を取り合い全ての敵となった蟹を討ち滅ぼすのであった。……その戦いの後、蟹と猿は幸せに暮らしました……みたいな展開はどうだ?」


『……でも猿は許せるのかな?かつて自分の家族や仲間を喰らった悪逆非道な蟹を……』


「赦しはしないとは思う。だからこそ、猿は蟹と毎年のように『合戦』を繰り広げることで決してこの犠牲を忘れないようにする……みたいな感じでどうかな?」


『ふん、結構面白いわね……やっぱり貴方すごくいろいろな物語を知っているのね?……良いわ、まだまだ物語はあるの……たっぷり聞かせてあげるわ?───時間は無限にあるのだから……ね?』


 ◇◇◇



 こうして始まったのはフィリィの生み出した物語の添削と、修正。及び自分の知っている物語をフィリィに教えるという作業。


 途中から二人は戦いを忘れてお茶を飲みながらやり始めた。

 フィリィが生み出した本の八割がバットエンドだったので、適切な結末を考え……カルロンの言葉を受けて内容の協議を二人で行い、そのうえで修正点を手作業でなおしていく。


 そのうえで観客がいるかもしれない、第三者の視点も居るだろうということで女神ヘカテー、クゥ=ベルノート、シェファロを呼び出して三人?に物語の読み聞かせやらなんやらを開始した訳だ。

 三人はかなり迷惑そうではあったが、カルロンの書いた物語とフィリィの書く物語はかなり親和性が高く、すぐに物語の魅力を味わえるようになっていった。


 ◇◇◇


 時間はあっという間に過ぎ去り、気がつくと四人はかなり親しくなってしまっていた。

 魔女であるフィリィは割と最初の目的を完全に忘れ、久方ぶりの物語の読み手達との会話を楽しんだのだった。

 またカルロンも、異世界で見なかった物語を堪能したことで割と満足気味であった。

 ちなみにどうでもいいのだが、ヘカテーが漫画をかけるということが途中で判明してな?

 その結果───。


『女神〜全部漫画にして!』『断るわバカ魔女!』


 ──以下略。


 まあ三冊程描いてくれたが。……コイツ思ってたより融通きくな?とカルロンは思ったが言わないことにした。


 ◇


「……それにしても楽しかったな。……でどうだ?フィリィ?……俺は合格なのか?」


『あら忘れてたわ?まあ合格ね、そもそも私の魔法領域内で動ける時点で合格に決まってるんだけどね』


 こうして俺は試験を終えた。

 のだが、その後……外の様子をのんびり観察していたのだがな?

 まあ幾つか気になったことがあったので魔女フィリィに頼んで調べてもらったのだ。


『──これでわかった?……多分あなたの知りたいことはこの本に書いてある』


「感謝しよう……しかしそろそろ戻らなくてはな?……また君と話をしたいのだが、そうだな……俺の配下にならないか?……この女神も竜もいるから割と退屈はせんと思うがね」


『──魔女は退屈なものだよ。……ま、君といるとバットエンドよりハッピーエンドに触れれるから楽しいとは思う……良いよ、私は君の仲間となろう』


「随分あっさりしているな、まあこれだけの年月共に本を作り上げた同志だものな、わざわざねちっこくする必要なんて要らないか」


『魔女はあっさりしているべきでしょ?その方がミステリアスさを引き立てて私の物語に泊がつくし』


「それは知らんが……ではまた」


 幻想世界が閉じ始める。

 その影の帳が降りるのを確認するとカルロンは元いた世界へと『帰還』するのであった。


 ここまでに修正した本の数実に『100万冊』。新たに産み出された本の数『3300冊』。

 年月にして実に『千年』程の時間を過ごしたのだ。久しぶりの現実への帰還と言ってもいいだろう。







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