第59話 灰被りのお姫様(シンデレラ)

 御伽噺、『シンデレラ』──魔女はゆっくりと物語を紡ぐ。


 ◇☆◇☆◇


『─────あるところにそれはもう驚く程美しい女性がいました。名を”シンデレラ”……彼女は一人森の奥で狩人の道を極めていました』


「……ん?開幕から違うが……っと危ねぇ!……なるほどそういう系か」

 カルロンの後ろからシンデレラと思わしき女性が弓を構えてこちらを狙ってくる。それを焼き払うと、その残影は姿を消した。


『彼女はキレイだった。そしてその強さも有名だったのだ。そして程なくして彼女は囚われの身となった』


 カルロンに鎖が巻きついてこようとする。それを片っ端から焼き焦がし、焼却していく。


『理由は間違えて王子様の狩りの邪魔をしてしまったからに他ならない。──しかし王子様はその罪を許し、彼女に自分の好意を伝えた』


 隣で繰り広げられる話に合わせてこちらに魔法の弾幕やら、武器やらが飛んでくる。


『そして二人は結婚し、その結果幸せを勝ち取ったのだった…………おしまい』


 ん?終わり?……いや結構あっさりとしたと言うか……や、少しガッカリというか……。


『──と言うような幸せな物語は起こらなかったのです。───ある日シンデレラは街の外に城の大臣からの指示で買い物を任された。……それは何の変哲もない靴、何故それを必要としているのか分からなかったシンデレラは不思議そうに城に帰ったのでした』


 まだ続くのか?──っと?!……城が……。


『シンデレラが城に帰ると、城からは火の手が上がっていました。……慌ててシンデレラは王子様を探します。──そしてシンデレラは王子様を見つけるのでした。』


 世界が急激に焼き払われる。辺り一面からは火の粉が舞い踊り、その度にカルロンを狙いながら圧倒的な火力で襲いかかる。

 城がどんどんと崩れ始め、その崩れゆく城の残骸は質量攻撃としてこちらを狙ってくる。


『───王子様は既に息絶えていました。胸には深々と刺さった剣、そしてそれをしまっていたのは大臣でした。……そう、謀反により王子は死んでしまったのでした』


 後ろから大男が剣を手に持ち、カルロンに斬り掛かる。『無に帰すムニキス』で処理するも、次々と現れる。

 倒壊する城の質量は、並大抵の魔法使いならばすぐに処理できなくて死んでしまうであろう物だ。


『──王子の亡骸のそばでシンデレラは涙を流してうずくまります。けれど王子は生き返る訳がありません、そして火の手が次々とシンデレラの辺りを飲み込んでいきました。…………』


 いつの間にか周囲は地獄と化していた。炎の熱さはエルドラドにて修行していない前までのカルロンであれば少しダメージを食らっているであろうレベルの物。


『───しかし幸運なことにシンデレラは生き残ります。……奇跡的に炎はシンデレラを包み込むことはありませんでした、そしてシンデレラの前には焼けた王子様の死体だけが残されていたのです』


「……それでどうなった?」


 この辺りからカルロンは少しだけ興味がそそられ始めます。元々カルロンになる前、大西大成だった頃は、アニメ、漫画、ゲームは大好物でした。

 特に小説に関しては二次創作も含めて、沢山知り合いと書いてきました。

 そんなカルロンだからこそ、この異世界において久しぶりに物語を話してくれる人に出会えたことが少しだけ。ほんの少しだけ嬉しかったのです。


『──シンデレラの涙は枯れ果てました。もう何も失うものが無くなったシンデレラ、彼女は──を頭から被りました。彼女の金髪の髪の毛は、一瞬にして白く染まり……そしてゆっくりと武器保管庫に趣き、剣と弓を引っ張り出します』


「……まさか灰被りのお姫様ってのは……」


『そしてシンデレラは自分の名前を【灰被りのお姫様シンデレラ】と変え、復讐を始めることにしました』


 目の前に女が現れる。その見た目は魔物に等しく、その目は血走って狂気を帯びて……。

 手にした剣は貴族王族の血に染まり、歪に歪んでいた。

 カルロンは攻撃を何とかやり過ごし、シンデレラを焼却しようとしたのだが。


「ちっ、焼却不可……だと?」『ふむ、物語の主人公補正と言うやつだよ』


『──灰被りのお姫様は次々と殺していきます。目的は大臣、しかしその大臣は姑息でかつ慎重深い男でした。灰被りのお姫様一人に対して何千、何万の兵士をかき集め……けしかけます』


 その言葉通り、駆け寄ってくる凶暴なお姫様と兵士がカルロンを狙う。それを次々と魔力弾【超重化版】を当てて無力化していくカルロン。


『それを灰被りのお姫様は次々と殺戮していきます。彼女の狩人としての才覚と愛するものを失った悲しみから来る恩讐、それは凄まじいものでした──しかし』


『──悲しいことに灰被りのお姫様は捕まってしまいます。……手を斬り落とされ、足を斬り落とされ……動けなくなった彼女を大臣は嘲笑い、そして崖の下に投げ捨てました』


 地面が崩れ、カルロンは重力から解放される。


『灰被りのお姫様は死んだ。誰もがそう思って一安心。──無事復興パーティも始まり、新たな王として大臣は焼け跡に作られた国の椅子に腰掛けました。パーティはやがて佳境に差し掛かり、王様の妻を剪定することになりました……そして王様はかつて『シンデレラ』と呼ばれた女性に買わせた靴を履けたものを妻にする……と言い放ちます』


「…………待てすごくその先の展開嫌な予感が……」


『──時計の針は間もなく11時半を迎える、そんな時間でした。靴を履けるものがいなかったことに王は少しだけ怒り気味に……仕方ないのでその中で最も美人な女を選ぼうとした、その時───』


「………………」


『カツン、カツン。音がして階段のそばに一人の女性が現れました。───片手に剣、そして美しく血に染ったドレスを身にまとったその女性……『灰被りのお姫様』……。彼女は優雅にダンスを披露します』


 ダンス、とは建前。飛び交うのは斬撃の雨あられ。一撃一撃が即死級のそれは、魔力を帯びており……さらにそれがかする度空間が割かれていく。もはや訳の分からない次元に到達した灰被りのお姫様の攻撃。


『──ダンスが終わった時、ちょうど時計が12時を指しました……灰被りのお姫様はゆっくりと階段を降りて颯爽と飛び上がると……そのまま塵となって消えてしまったのでした。───後に残ったのは凄惨なる血の宴。……彼女は魔女と契約して死にゆく体を固定してこの世界に舞い戻っただけなのでした……こうして灰被りのお姫様は死にました。今度こそ本当に』


「────なぁひとついいか?」


『まだ物語は終わっておりませんよ?─これから灰被りのお姫様の地獄篇、煉獄編、そして天国編が幕を──』


「それは童話なのか?御伽噺なのか?──俺が思うに、それはなんじゃないのか?──少し気になったんだ、あまりにもリアリティがありすぎる気がしてな」


 その答えはあっさりとしていた。


『だから私が作ったの!……私の趣味なのよ、良いでしょ?結構いいお話だと思うの……これ』


「いやな、根本的な話だが……少なくともバットエンドにする必要があったのか?─後話的に多分天国編まで救われない系だろコレ」


『あら?よくわかったわね、その通りよ?灰被りのお姫様が本当の名前『シンデレラ』を取り戻すのは天国で王子様と再開する時、それ迄は殺人の罪の炎に焼かれるのよ……まあ灰被りのお姫様は最後救われないんだけどね?』


「そこは救われろ。せめてそんだけ続きがあるならハッピーエンドにしろよ!…………何そのえ?ハッピーエンドって何みたいな顔」


『は、ハッピーエンドって何なのかしら?……結局どんな物語も行き着く先はバットエンドじゃないの?』


「だからこそ創作物には幸福な結末ハッピーエンドを期待してんだよ!……ええぃなんかモヤモヤしてきた、フィリィって言ったな?まだ物語はあるか?!……その内容、俺がアイディア出すから今すぐここで書いてくれ!」


『……はぁ?!……不思議な人ね、魔女の魔法の世界でそんなこと言う人見たことないわよ?……でも良いわ、書いてあげる』


「ああ、折角だし久しぶりの創作物との触れ合いだ、ぜひこちらも手を貸させて欲しい」


『そうね、じゃあ…………【猿蟹合戦】なんてのはどうかしら?────』

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