第58話 幻想魔法
魔女が動く。あっという間にカルロンの目の前に姿を現す。
学院長グレゴリは反応できなかった。だがカルロンは優雅にそれに反応を示す。
『ねぇ貴方、強いわね?──グレゴリ、この人と戦わせて頂戴ね?──貴方私に勝てたのならば……そうね……合格者としてこの学院に入学させてあげたいのだけれど……宜しいわよね?グレゴリ?』
「っ、!フィリィ嬢が言うのでしたら構いませんわ……では、あら他の人もいるのねぇ?──ならあの子たちは先程と同じルール……生徒会役員を倒せたら合格……じゃあ難しすぎるかしら?……(まあ純魔の威厳を破壊することはできたし、あとの奴らは適当に処理すれば)」
「グレゴリ様、彼らは確かにあの試練を潜り抜けた猛者たちなはず……でしたら生徒会ともいい勝負になるのでは無いでしょうか?」
カサンドラの助言もあり、グレゴリは少しだけ考えたあと…。
「では良いわ!……あなた方全員で生徒会役員と戦いなさい?何人で同時に戦っても構わないわ!……(まあ目的は果たしたし)……では最終試験、初めっ!!!」
◇◇◇
唐突に始まったな、とローンは呆れた声をリンシアにかける。
それに対しリンシアも又……やるだけやってみようぜ?と返す。
実際試験が急に適当になった為かなんとも言えない不思議な空気が漂う試験会場。
指示された生徒会の役員たちも、少しどうするべきか迷っている様だったのだが。
────静寂を切り裂くように結晶弾が天高くから生徒会役員に降り注ぐ。
「あらあら、そんなぼーっと突っ立って!油断大敵、ですわ!!」
「そうだねぇ、こんな私らを舐めた態度で構えられるとこっちは本気で潰しに行くしか無くなっちゃうねぇ?『万能魔術/連装式爆殺ポーション』!!」
無数の小瓶が結晶弾が炸裂した場所に降り注ぎ、次々と爆発を引き起こす。
当然だが生徒会役員はその程度の攻撃は簡単に防御していたが。
しかし場の空気が一気に険しく、そして熱気を帯びてゆく。
実際生徒会役員は先程までの純魔(超弱体化&消耗しきった)を相手にしていた時、当然ながらやりがいが無さすぎて不満が溜まっていたのだ。
そのためこの消化不良感をコイツらが解消してくれるならまあいいか。
そんな感じで各々考えて武器と魔法を起動し……そしてこのチャレンジャー達に向かって魔法戦闘を開始したのだった。
◇◇◇
───一方のカルロンは、あの会話の直後見知らぬ場所に転送されていた。
そこは幻想で満たされた魔女の楽園。
人が本来踏み入れることなど不可能なはずの魔女の住処。
『あら、そんなに驚かないのね?』
「無論、この程度大した驚きもないさ」
『ふふふ、貴方凄いわ?──普通の人間ならここに転送された瞬間に精神崩壊を起こして死んでしまうのに』
「そんな哀れな死に方をするつもりは無いさ。それよりも君が魔女なのか?」
『ええ、そうよ?……では自己紹介から始めましょう?
──長い長い付き合いになりそうですからね?
──私は【
……真名は【フィリィ・マザーグース・ヒストリア】
……別名【幻想の主】【童話の魔女】【御伽噺の書き手】などがあるわ。
──貴方は?』
「俺はそこまで大層な名前や肩書きなど持っていないが……まあいいか。【キエス=カルロン】だ……。君の強さはすぐに理解した。だが、かと言って俺は負けるつもりなど毛頭ないぞ」
力強く語尾強めに云う。
『あら、怖いわね。そんなに気を張らなくて大丈夫よ?──ここはゆったりとした物語の世界、時間も何もかもがゆっくりな……私の世界なんだから』
その言葉が意味することはカルロンは理解している。ここは彼女『フィリィ』の作り上げた幻想世界なのだと言うこと。
世界の中に新たな世界を生み出す行為がいかに難しい事かカルロンは知っている。
──幻想の魔女か。果たして何が、何をもってして『幻想』ということなのだろうか?
カルロンには分からない。勿論魔力探知は先程から幾度となく使用しているが、その回答が全て『
しかしすぐにカルロンは知ることとなる。なぜ彼女フィリィが幻想の魔女と呼ばれているのか、その所以を。
『──そうね、折角だし……軽めの物語から行きましょうか……【
「シンデレラ?その物語は知っているが?……」
『あら?……でも折角だし、私が大切に創った物語なの。気に入ってくださるかしら?』
フィリィの足元から霧が立ち込める。空にいつの間にか太陽が浮かび上がり、気がつくとカルロンとフィリィは空を飛んでいた。
眼下に見えるのは巨大なお城。多分であるがこのシンデレラのクライマックスを飾るはずの城であった。
『───それでは”
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
幻想の魔女、フィリィ。彼女の持つ魔法は『幻想創造魔法』……その力は彼女自身が書いた物語を再現すると言うもの。
そしてこのフィリィと言う魔女は少しだけズレた物語を描く。
その内容は八割がバットエンド、そして残りは俺たちの旅はここからだエンド。
……つまるところ彼女は物語をハッピーエンドで終わらせた試しがないのだ。
故にこれからカルロンが体験するのはほぼ全てバットエンドな御伽噺。
その内容の酷さにカルロンは幾度となくダメだしとツッコミをせざるを得なくなってしまう。
──ここから始まるのは基本バットエンドしか書けない魔女に振り回されるカルロンの物語。
のちにカルロンはこう述べた。
「──魔王との戦いよりも、フィリィの書く物語に対するツッコミの方がよっぽど辛かった……」
と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます