第56話 ボス戦開幕からの終幕

 その前に、ほかの受験者の話をしなくてはならない。

 ……今回の受験はかなり重要なものである。何故ならば魔王に立ち向かえる人材が14歳の中から出る……しかもこの受験者の中でである。


 そんな大切な試験をオルフェウス……魔王が許す訳があるのかと言う話だ。オルフェウスが良くとも彼に付き従う配下のもの達はなるべく脅威を排除しなくては、と躍起になるわけだ。


 今回の受験者の内、実に半数以上がである。その殆どが魔族が化けた……死体を利用したもの達ばかり。

 そしてそいつらは同じように受験するの中でも14歳になるヤツらを特にピックし、それ以外を積極的に排除していた。


 例えば普通倒せないような魔物を押しかけたり。無数の魔物による奇襲攻撃を仕掛けたり等。

 この結果カルロンの近くにいた『宝石姫ジュリオール・レイン』

『斬撃使いのスラッシュ・フロウ』

『錬金魔法使いのローン』

『万能魔術師リンシア』

 そしてその他に『冒険者フォルクス』、『魔術師ベリアル』『結界魔導師アグネス』『賢者メフィスト』『勇者リリアン』が残ったのだ。

 勿論彼らは実力でサクラ達が撒いた罠や魔物を倒して進んだもの達であり、その強さも当然ながら最強格のものばかり。


 ちなみにですが、純魔の皆様方は勿論VIP待遇でさっさと合格を言い渡されて次のステージに進んでいるのだけど、それが罠だと気がついているやつは一人もいなかった。とだけ。


 ◇◇


「ふーん?片方のボスは倒されたからもう片方に進んで?とね……」


 カルロン達は魔力を頼りについにボス部屋に辿り着いた。しかしそこは既に先客がクリアしていたようで、カルロンは少しだけ驚いた。


「(凄いな、確かにこのボスは元々二組の魔物だったし……あれの片方を簡単に倒して進んで行ったのだとしたら、本当に実力者が揃っていたのだろう)」


 ボス部屋の前にカルロン含め『スラッシュ』『ローン』『レイン』『リンシア』が並ぶ。

 なるほど、このボスもまた五人一組の制限があったと?……。


 なんか嫌だな、最初から予め人が減ることを予想して汲み上げられている罠に引っ掛けられた気分だ。

 まあ実際、半数の奴らはしなぁ。まああれがサクラだと言うことは最初から分かってたし?


「皆っ!準備はいいか!?……ボス戦、行くぞぉ!!!」「おぉ!」「ですわ!」「だねぇ!」……「あれ?カルロン君も叫ばないの?」


 俺は喉が痛いからやめておく、と伝えると彼らのあとを追ってボス部屋に入る。


 ◇◇◇◇


 開幕からフルスロットル。なるほど、片方死ぬと片方強化されるタイプのボスだったか。


 雨あられのように降り注ぐ魔術の弾幕を片手で『帰還』させながら俺はのんびりと眺める。

 基本は爆発系?だがたまに斬裂系の魔術も混ざってるな。


「へぇ?……初手から全力だなんて、相当片方のやられ方が酷かったらしいね?……ところで皆大丈夫かい?」


「な、なんとかっ……ぜえ……ぜぇ……息苦しいっ……」

「かなり……不味いですわ……っ!魔力が上手く回せません……ワタクシとしたことがッ……」

「ぬぅ!……魔法を展開する暇すら与えてこぬとはっ!……初期魔法による応戦が手一杯じゃ!」

「やー不味いねぇ……魔術師としてはアイツの方が地の利を持っててやりにくいなぁ……」


 まあ予想の通り、ボスフィールドにはの魔術が所狭しと張り巡らされていた。一つ一つは大して強くは無いはずの魔術が、長年積み重ねられた影響なのかかなりの効果を有していたのだ。

 数千、数万の魔術式が折り重なった結果それら全てが不協和音のような最悪な旋律を生み出し……。

 その影響により魔法を唱える為の心の余裕すらも塗りつぶしにかかっている。

 魔法使いを潰すことに特化した魔術領域。まあ地の利が相手にありすぎるのはその通りだと思う。


 当然それでも防御とある程度の応戦ができている辺り、流石はスカーナリアに受けに来た人達だ。

 並大抵の魔法使いならば数刻で意識を失うはずの空間でこれだけ抵抗しているのは見事としか言いようがない。


 ───ん?俺?


 なぜ俺に効かないのか?それは勿論魔力を全てことが出来ているからだよ。

 まあ正しくは魔術式をに帰す事で無力な物にしているだけだ。

 灰燼に帰すイグニスはエルドラドでの特訓によりより高度な物質の焼却を可能にした。

 焼却インシネレーション。とでも云うべきそれはカルロンにとってごく当たり前の魔法となった。

 無に帰すムニキスは固定された出力のせいで絶妙に対人戦や防衛戦に不向きなのだが、そこを灰燼に帰すイグニスでカバーできるようになった事で俺の戦闘における選択肢が改善されたのは

 言うまでもないだろう。


 傍から見ると魔法や魔術がカルロンにあたる直前に炎系列の魔法防壁に衝突して焼却されているように見れるはずだ。


 ───しかしそれにしても数が多いな。


 カルロンはゆっくりと魔術師を探す。


「あそこの本の上!……本棚だった!……ええいっ!アタシに任せなさいなっ!宝石魔法……『紫水晶の槍アメジストスピア』!!!」


 紫の雷の槍がレインの手から放たれる。それは魔術を次々と破壊して進むが、魔術師には当たらなかったようだ。

 レインさんの反撃により、魔術師が姿を見せる。どうやらレインさんには初めから見えていたようだ、良い目をしている。


 なおカルロンは実は魔術師の姿は見ていない。ちなみにカルロンになぜ見ていないのかと言うと、それはカルロンがからに他ならない。

 実はカルロンと、レイン達含め四人は見ているものが違うのだ。


 カルロンには魔術師の姿は見当たらず、代わりにが積み上がったゴーレムのようなものが見えている。

 それがこのボスの本体である事をカルロンは知らない。だが知らないとしてもカルロンは容赦が無い。


 一方レイン達は消え隠れする魔術師を必死に攻撃していたのだが、そもそも本が本体ゆえ攻撃は的はずれな方角に飛んでいってしまっていた。


「(あの本が本体なのか?……まあいいか、とりあえずここで彼らが消耗する必要は無いだろうしな)」


 カルロンはその飛び交う魔術の中にある本体の本を光にも似た速度で掴むと、それを灰燼に帰すイグニスにより焼き滅ぼす。


 途端魔術式が次々と意義を失って消えていく。その光景は美しくも儚く、なんとも言葉にしがたいものではあった。


 あっけなくボスは消滅した。最もこんなに早く終わるはずがないボスなのは、言わずとも分かるだろう。

 本来は同時に戦うはずのボス、それの片方がやられたことで発狂状態となったボスの弱点を最初から見えてちゃ行けない人が見てしまっていたのだから、まあ運がないとしか。


 ともあれこうしてボスは倒された。しかしここまではただの前座。

 カルロン達が次に挑むことになるのは最終試験。


 ──正しくは純魔に恥をかかせるために仕込んだこの試験の全てが明らかになる戦い。


 カルロン達、そして愚かで傲慢な楽々コースをくぐり抜けただけの見せかけだけの純魔達が、これより挑むは学院最強の無属性魔法使い達、十人の生徒会員。

 すなわち第三の試練『最終試験』が幕を開けるのだっ!!!



 ◇◇◇




 ちなみにカルロンは生徒会の人とは戦わないです。ん?誰と戦うのかって?


 それは勿論、とさ。


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