第55話 合流

 魔法は人生の再現だとスカサハはエルドラドで俺に告げた。その言葉が本当なのかよく分からないのだが……しかし彼女の言葉に嘘は混じっていなかった。


 ローンが放った魔法は『キトリニタス』。魔法よりもどちらかと言うと錬金術に近しい分類だろうか。

 圧縮された魔力による『黄金』の生成。及びそれを解き放つ黄金の光線がローンの手から放たれる。


 しかしその黄金は未だ不完全な形なのだろうか、少し所々に『ニグレド』や『アルベド』が混じっている辺りからそう俺は考えた。


 しかしそれでもその火力は見事。の一言に尽きるだろう。

 ハーピーはその肉体を魔力に霧散させて消滅した。だがその消え方に俺は違和感を覚える。


「?……霧散の仕方が若干挙動がおかしいな……?……むぅ?」


 普通の魔物が消失する時と、異なる挙動。俺は一瞬見た。──それが古代の魔法による何かの再現の可能性を鑑みて俺は改めて周囲を警戒する。しかし特に何かある訳では無いようで……再び増援などが来ることは無かった。


「しかしすごいな、ローン殿……君のその魔法、実に見事なものだ」


「ふん、不完全だと笑わんのか?──まあお主らに何か言われようがワシは気にせんがな!」


「不完全?はははとんでもない、少なくとも貴方の人生を再現した魔法なのだ、不完全もクソもあるか……違うかな?」


「あのー盛り上がってるとこ悪いんだけどさぁ、さっき助けた人と別の人が来たよ?……なんか君の名前呼んでるんだけど知り合いだったりする?」


 リンシアの言葉に俺は振り向く。すると。


「なんだ、レインさんか……あれ?君も受けるんだっけ?」


 その姿の主は『ジュリオール・レインザッハ』……『宝石姫』の二つ名を持つ貴族だったはずだ。


「オーッホッホッホ!その通りでしてよ?……ま、ちょっと色々あったのですわ!……こちらの仲間二人とも先走って瀕死になってしまいまして……慌てて入口の方に送り返してきたところなのです……わ!!!」


 なるほど、それはご愁傷さま。しかしここに三人も魔法使いが揃うことになってしまうが?


「あ、アンタすげえな……あたしはスラッシュ・フロウ……まあそこまで名の知れた貴族とかじゃねぇよ……しっかしすげえなマジ強え奴しかいねぇのな?」


「それは当然。少なくともここに来ている人間の八割は割と人生かけてるはずだからな」


「そりゃ、そうだけどさぁ……?」


 俺とスラッシュさんが会話している間に隣では。


「────素晴らしい魔道具ですわ!……ぜひぜひ買い取らせてくださいまし!!」

「ちょ、暑い暑いって!……こらぁ抱き着くなぁ!?……わ、わかったからお姉さん潰れちゃうからっ!」

「ほぉ……若いってのはいいのぉ……」

「助けろ爺さん!」「断る、見てるのが楽しいのでのぉ……」


 どうやら先程拾った魔道具の価値を見抜いたレインによりリンシアさんが詰められているようだ。

 流石は『宝石姫』。その商業の手腕と目利きは伊達じゃ無い様であるな。


 ──まあこちらか見るととても仲睦まじい百合の花が咲きかけている気が、しなくも……なくも無い気がする。


 ◇◇◇



「オーッホッホッホ!!『水晶散弾掃射クリスタルパレード』ですわ!!」


「『スラッシュ・ウィング』!!!……中々な火力っ!……流石はあのジュリオールの宝石姫じゃないか!」


「────『黒化せし鋏ニグレド・リッパー』!!余裕であるな!?……ええぃ取りこぼしが多いぞっ!」


「はぁ私やること無いなぁ……まあいっか『万能魔術/爆散する瓶EXポーション』!!これは魔力を使わない武器だからっ使えるんだよねぇ!」


 もはやカルロンの出番が無いほどに高速で消し飛ばされていく魔物達。それを見ながらカルロンは悠々と後ろを歩く。

 一見すると別に何かしている訳では無いのだが、実は。


「(……こっそり敵の魔力耐性を無に帰して上げてるんだけど、まあ普通気が付かんよな)」


 カルロンの視線の先には無数の糸が張り巡らせるている。それはカルロンが予め展開した超強力な『帰還』の糸。

 普通の魔物では触れることも見ることも厭わぬ『帰還』のシステムが詰まった糸。


 かつて使わなくなった『糸』を再び使っているのには訳があるのだが。──え?何かって?

 そりゃもちろんこの『糸』に引っかかる獲物がいるからさ。

 ある意味相手の行動を制限出来るという点ではこの糸をわざと残す事が強いわけだ。


 んでその糸に『無に帰すムニキス』をちょこっと混ぜて、垂らしてそれにより防御を破壊する。

 そんな技がある意味色々可能になったのはそれも全て『エルドラド』での特訓によるものだろう。


 ちなみにもう一つ、それをするにあたって『無』を垂らすということについて説明して置く必要があるかもしれないな。

『火』を使って『無』に帰すのが【終火ついか】。それに対して『水』を使って『無』に『帰』すのをカルロンは【虚水うず】と呼ぶ。


 なんで『無』が形を変えれるのか、それについてはシンプルひとつ。

 全ての物質が『無』に帰る時、その直前に物体が『火』で灰燼になるのか、はたまた『水』のように溶けて消えるのか?

 それとも『風』が吹き荒れて削り取られるのか?

 もしくは『土』のように土塊になって消え失せるのか。

 ───まだあるのだが、それはまたのお楽しみに。


 そう、魔法は人の人生観とイメージにより形成されるものだ。そのイメージは特に現代人であるカルロンもとい大西 大成という日本人のイメージにより強く左右されるのだ。


 ◇◇◇

 ともあれ、こうしてダンジョンを進むカルロン及びその一行。

 彼らはついにたどり着くのだ。ダンジョンの果て、最深部に。


 そしてそこに鎮座するボスモンスター、『古代の魔術師』戦がついに幕を開けるのだが、その前に────。



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