第54話 無想と黄金
ゴーレムという魔物を知っているだろうか?
固くて、そしてシンプルな動きしか出来ないはずの人造の魔物だ。
その特性は人がチューンナップ出来る点が魅力と言ってもいい、それほどに魔法使いと魔術師と密接に関わる魔物の一体だ。
それが今カルロン達の目の前に数十体寝転がっている。多分だが誰かがコイツらをぶち壊したのだろうことぐらい想像がつく。
しかしゴーレムは魔力耐性を持ち、物理にもかなりの耐性があるようだったのでこれを倒すのは至難の業だろうな。等とリンシアと会話していたのだが。
「にしても綺麗な断面だねぇ……まるで強力な魔法による斬撃かな?……それを魔導核に当てている、うん凄いねこの魔法使いは」
リンシアの言葉は嘘では無い。確かにこの魔法を使った人物はおそらくかなりの実力者だ。
しかしこの世界は実力者であっても決して油断してはならない。
何故ならば、このダンジョンは魔法使いをメタったダンジョンだからである。
このゴーレムはおそらくだが魔力を使わせるための壁の役目を果たしたのだろう。
特にここで魔力を回復せずにそのまま先に進んだ場合最悪次の敵の攻撃を防護魔法やらで防げないという事態を引き起こす可能性があるからな。
◇◇
と、前方から爆発音が響く。続けて何か攻撃を当てられて倒れる人影が見えた。
「そこの、大丈夫か?」
カルロンの言葉にその女性は焦った表情で。
「大丈夫に見えるのか?!目腐ってんのか!」
まあ大丈夫そうだな。と判断して立ち去ろうとするカルロンを見て慌ててその女性は。
「は、はぁっ?!ちょちょい!た助けてくださいよ!……もーこっちは二人ボコられて戦闘不能になってキツイんですぅ!助けてさ!」
何だ、一人なのはそういうわけか。まあ死者は出ていないみたいだし……何より普通に勝てそうなものだがな。
そう考えていると彼女が戦っていた魔物が姿を現す。
「ミツケタミツケタ……アラタナエモノミッケ」
猛禽類の羽、人のような肉体。歌声を武器に空から人を嘲笑いながら襲う魔物。
風の魔物、ハーピー……正式名称をハルピュイア……冒険者たちの事故死の何割かを占める面倒な魔物。
その風は鉄の鎧を切り裂き、魔力障壁を軽々と切り裂く魔物だ。
「ええぃ!『スラッシュ・カッター』!!!……っクソよけんなテメェ!!」
煙の中から先程助けてくれと言っていた女性が魔法を放つ。どうやら斬撃系の魔法使いのようだ。
即座に魔法を打ち込んでいる辺りかなりの手練だと誰が見ても分かるだろう。
それでもハーピーの回避スキルの方が上手のようでかすりもしていない。
速度に特化した速激魔法を軽々と避ける当たりあのハーピーもかなりのレベルの相手のようだ。
「君、名前は?それだけ教えてくれるかな?」
「今?!……スラッシュ・フロウ!!……そっちは!」
「キエス=カルロン、純魔だ……君を手助けしよう、行くぞリンシア、ローン!!」
「しかしどうするつもりだ?あの速度をどうにかできるのか?カルロン殿」
ローンの言葉に少し俺は考える。おそらくだがリンシアの魔道具による攻撃は当たらない、もしくは起動しても即座に破壊されるだろう。
ならばローンの魔法を使ってもらうか?
「言っておくがの、ワシの魔法は少々時間がかかる……特にあの速度の高い奴らに当てるのは至難の業じゃな」
なるほど、時間がかかるのか……まあその分火力は出せる系だろうな。
と言いながら既に魔法の展開を開始している辺り流石だな。
ローンの周囲に展開されているのはおそらく『金』魔力によりそれを極限まで圧縮するローン。
金は錬金術の最終到達点のひとつにして、金属系魔法のひとつ。
「何秒稼げばいい?ローン、君の魔法を見たいのでな」
「ふん、15秒、あれば間に合う!」
「承知!……」
カルロンは手の中に魔力式を起動する。タイマーは15秒、その間にあのハーピーの動きを止めつつローンに繋ぐ。
ならば羽をもぐのが手っ取り早いだろう。
将を射んとすばまずは馬から。それならばまず羽をそいで置くべきだ、それは俺の手札を隠すためにも必要なわけだからな。
「『──無月に祈るは荒れ果てた荒野の主──星の灯火奪われし落日の──落ちゆく運命に今祝福を────【
カルロンの手の内、そこに現れたるは終わりの焔。周囲の魔力を使用しない為魔法を使うにはカルロン自身の魔力を使う必要がある。
そしてその結果その魔法は、カルロン本来の魔法へと変貌してしまう。
──当然手札を隠すというカルロンの思惑からは外れることになるのだが、カルロンはこの時こう考えた。
別にもう手札とか見せていいやと。手札を見せて相手に対策させて、それを逆手に利用すれば良くないか?と。
正直こんなどうでもいい試験相手に魔法を隠す、実力を隠し続けるのはさすがにカルロンと言えどもめんどくさいと思った訳で。
カルロンはそれ故にこの魔法を唱えた。
無想魔法……それは『無』を『想』像する魔法、結果として『無』に帰すはずの現象を再現する魔法。
例えば星が『無』になる時その星はどんな風に『無』へと至るのだろうか。星に付与されたテクスチャ、そしてそれに設定されている全てのギミック。
それらが次々と灰燼に帰す場合、それは確かに最後『無』に至るだろう。
帰還魔法の『無』の部分をより多く摘出する魔法表現、帰還よりも『無』に近しい魔法。
手の中に生み出された『無』の『火』が放たれる。それは落日の焔、終局の炎。
カルロンが龍の国エルドラドにて学んだ竜の魔法の応用術。
竜の魔法は外に影響されない。代わりに自分を自分の存在そのものを魔力媒体として利用するのだ。生きた年月、紡いだ自分という歴史。
それら全てを魔法の発動の下地にして放つ。
故に竜の魔法にはラグが存在しない。
──魔法とは?とスカサハにかつて訪ねたカルロンはこう返された。
『人生の具現化』と。
魔術も魔導も……それは結局外付けのものである。道具を、文字を、式を。
それらを紡いで作る人の歴史の現れ、人が神様から授かった奇跡を、人が使えるように再現しただけの奇跡の複製物。
大して魔法はその人の人生その物を再現するもの、故に魔法は強く……そして生き様にその力は影響される。
◇◇
カルロンが放った『【夢想魔法・終火】』はカルロンの前方全てを焼き尽くす程の烈火を再現する。それがかすっただけでハーピーはそのやばさを理解し、即座に回避行動を行う。
──けれどハーピーは知らない。
「知ってるか?──太陽に近づきすぎた鳥は、羽を焼き焦がされて堕ちるのさ……例えば、君のようにね」
傍から見れば炎系の魔法をハーピーの横脇に放ったに過ぎないだろう、しかしそれは見せかけ。
ハーピーの周囲全てはまるで太陽のような烈火に包まれているのだから……そしてそれを食らってしまったが故にハーピーは気が付かなかった。
落下地点、そこには黄金の夜明けが待っていることに。
太陽から逃れ、地に帰る魔物を黄金が迎える。
ローンの放つ『黄金』魔法の砲弾がハーピーを貫く時、ハーピーは何を思ったのだろうか。
……それは分からないが、ハーピーは撃ち抜かれた。
こうしてハーピーは唄声を聞かせることすらできずにその命を散らした。
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