第52話 試練『悪魔』が出た。

『リンシア・エルドール』と『ローン・バルカン』は目の前の青年に尋ねる。


「君がカルロン君か?……しかし驚く程に優しい目をしているね」


 その瞳は優しく、人など殺したことの無い程の澄み渡った目をしていた。それに対しカルロンと呼ばれた青年はため息混じりの言葉で返す。


「──だからなんだい?……魔物ぐらいは戦ったこことがあるがね」


 喋り方はまるで何十回も人生を繰り返した老紳士のような落ち着いた喋り方、思わずリンシアは目の前の姿が本当のものなのか疑ってしまう。


「君はその見た目で正解なのかなぁ?……うーんお姉さんの目にはどうにももう少しだけ歳いってるように見えるんだけど」


「気にするな、そのギャップもまた良いものだろう?──それよりも試練がまもなく訪れるが……改めて聞くが、君たちは強いのか?」


 不敵な笑みを返すローン。対してリンシアは苦笑いしながら「いやぁ私は所詮魔術師の端くれですしぃ」

 と返した。しかし。


「少なくともあの石像のテストをくぐり抜けて、そのうえで石像を破壊なり一定値のダメージを与えたのだろう、そんな奴が弱いわけが無いだろうが」


 カルロンはアッサリとそう返す。


「(……やはりくえないなぁこの少年多分だけどこちらの手札を既に把握していそうな気配すら感じるし……どうするかなぁ……)」


 リンシアが少し悩みながらそんなことを考えていることに気がついたカルロンは。


「ああ君たち、魔法や魔術の手札は見せなくていいぞ?そもそもこの後ひょっとしたら敵になって戦いをせざるを得なくなるかもしれんしな、それには切り札であるべき。……違うか?」


「くぅぉっふぉっふぉつ!……主面白いのぉ?……仲間であっても手札は隠せと言い切る人物なぞこのワシの人生で初めてじゃ」


 ローンはそう言いながらも、カルロンの手札を少しだけ確かめようとするが。

 それは結局時間と精神の無駄だと即座に把握し、改めて三人は固まって武装を整えることにした。


『それでは皆様!!……今回は、魔法使いと魔術師、魔導師、そして冒険者たち……あとは貴族の皆様方の力を試すための試練……それが開幕致します!!!!──必要なものはただ1つ、絶対的な強さのみ!──なお貴族と純魔の方々は先に第三階層からスタートいたしますので、そこのところはご了承ください!』


 三階層?と尋ねるローン。それに対しカルロンはこのダンジョンの構造と階層について分かっていることをふたりと共有することにした。


「さっき調べたんだが、このダンジョン……四階層までしかない……だがその代わり、横に広いようだ……ちなみにボスはにいるようだな」


 つまりは、どうにかして何処かにあるスイッチを押さないとボスに挑め無いわけだ。


 なお今回の三人組みは全てバラバラに配置されており、ダンジョン内の色々な地点からスタートされる模様ではある。まあ公平性も、へったくれもないが……そんなものだろうと予め予測していた俺には特に気にならなかった。


 まあ遠くの方で巫山戯るな!と叫ぶ声も聞こえたので全員が納得している訳では無いという事だな。


『───それでは、皆様魔道具またはモンスターの素材、そしてボス討伐の証を見つけてきてくださいっ!───試練開幕っ!!!』



 ◇◇◇


 俺は走り出そうとする二人を引き止めると、ゆっくりしていこう。と告げる。


「うん?何でさ……これってタイムアタック系のものじゃないのか?」


 リンシアの言葉にカルロンは「違うな」と回答する。


「タイムアタックではなく、このダンジョンはな?…………何故それを知っているかって?──先程?……何ゆったり行こうじゃないか」


 カルロンの言葉の真偽性は定かでは無い。故に二人は何か考え事をした後、再びカルロンに尋ねる。


「その言葉を吐いて、信用されると思っているのか?」

 それはかなり冷徹に、冷酷な聞き返し方であった。先程までの薄ら笑いや、老人特有の空気感を脱ぎ捨てた二人の真剣な眼差しにカルロンは。


「ああ、信用するかは君たちに任せるが……ただ悪いようにはしないさ……少なくとも


 糸目になりかけているほどに悩んだあと、リンシアさんはため息を吐き出して……それから「わかった」とだけ返す。

 ローンもまた、シワで顔が埋まりそうな程に悩んだあと承諾した。


 ◇◇◇



 カルロンとリンシア、ローンは進む。当然魔物などは既に他のパーティにより倒されているため、魔道具の類も落ちていない。しかし。


「これを捨てるとか、もったいねぇなぁ?!……これも使える魔道具の破片じゃないか!」


 リンシアは次々と拾っては、背中の袋の中に詰め込んでいく。

 曰くリンシアは『魔術師』の中でも万能な類の人らしい。特に得意なのが『魔道具』などに付与されている魔術を『剥がして紡ぐ』という事。

 彼女は王都で魔術師専門の魔道具屋さんを開いているらしく、せっかくだし新たな魔道具の情報を仕入れるつもりでこの学院に応募したのだとか。


「しかしいいのか?俺たちにそんな話をして……そういった自分の身の上などは、あまり人に教えるものでは無いと思うがね?」


「いいの、良いのさぁ!……まあ私も学院に受かるとは思ってないんだけどねぇ……自分の魔術がどれだけの人に通じるのかを試したくなっちゃったんだよねぇ……だから今回かけてみた!そんだけだよ」


「ちなみに何歳ですか?──おや女性に年齢を聞くのはあまり好ましく無いんでしたっけ?」


「あーまあ良いよ、私は21歳さぁ……そういう君は?……へぇ14歳……ピッチピチじゃないか!」


「ローンさんは?」


「ワシ?見ればわかるじゃろう、60歳じゃ……」


 どうやら見た目のまんまであったようだ。しかしそれにしてもいいな。


 二人は会話しながらも、魔術と魔法による探索と武装を整えている。そのダンジョン内で気を抜くべき場所とそう出ない場所でしっかりと使い分けている様。

 二人が間違いなく歴戦である事をカルロンはすぐに理解出来た。──勿論カルロンについても二人もまた彼の歴戦の冒険者の腕前を遺憾無く理解していたのだが。


 こうしてしばらく三人はのんびりと探索をしながら、ダンジョンの内部をゆったりと歩いていた。するの何処からか爆発音のようなものが聞こえ、ついで──。


「悲鳴か、しかし場所が分かりにくいな……わかるかカルロン殿?」


「ここから南西の方角、隅っこの部屋か……なるほど……二人とも気を引き締めてくれ……が出た」


「「────悪魔ッ?!」」


 それはダンジョン内部に存在しては行けないはずの魔物、悪魔。

 そしてその悪魔は───地獄の公爵の名を冠していたのだ。

 名を『アスタロト』。──少なくともカルロン以外が楽に勝てる相手ではない。そんな奴が現れてしまったのだ。


 。カルロン達がのんびりと攻略していた最中に、既に他の階層では大惨劇が繰り広げられていたのだ。


 最も、その様子は魔力が無いので魔力を探知できない状態の純魔と貴族には……気が付かれない話ではあったのだが。



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