第51話 第2の試練

 会場に到着したカルロン。当然一番最初なので他の人は居ない──はずだった。


 指定されたダンジョンの中でカルロンがゆっくりと時間を潰していると、何者かがカルロンの前を横切る。


「?──ああ、魔物か」


 それは魔物ではある。

 そして反応がどちらかと言うと亡霊の類に近しいものであった。しかしその見た目を見てカルロンはある違和感を感じたのであった。


「魔物、にしては少々人間味がありすぎるな?……おかしい。亡霊系の魔物は確かに人間味のある動きをしてくるものだが、それにしても──」


 その動きは、何かを探しているようなそれであった。

 人が無くしたものを探す時、それは確固たる意志を持って探すのではなく……不安とそれを塗りつぶすような感情を持って動くものだ。

 それをカルロンは感じ取った。


「君、喋れるかな?」


 カルロンの言葉にそいつは少し戸惑った後、優しくそして寂しく答えた。


『──気をつけて、私は無くしたから』


 その意味は自ずとわかる。とでも言いたそうな雰囲気で語りながら消えていった。

 せめて何をなくしたのかについて語って欲しいものではあるが、まあどうせ大体このパターンは想定が着く。

『命』か『自分』辺りだろう。つまりこのダンジョンには人の命を奪っておきながら生き長らえる奴がいるということか。まあ気にする程でも無いか。


 そういえば謎の遺体も気になるところではあるが。それはそれとしてだな、存外他者を騙すための魔法と魔術がこのダンジョンには無数にかけられている。

 それにこのダンジョン、来歴が明らかにはるか昔のもの、多分だがこの空間は元々ここにあったものでは無いな?だとすると面倒なことになりそうで頭が痛くなるな。


 ◇◇◇


 第2の試練。それが開幕される。


 その内容は何とかあの石像に一定のダメージを与えたもの達をさらに窮地に追いやるものであった。


『ダンジョンの中に存在する魔物のボス【古城の魔術師】またはダンジョン内の各地に散らばっている魔道具を集めてくること』


 それはよくあるものであり、そこまでの難易度でもないはずだった。

 しかしダンジョンに皆足を一歩踏み入れた途端、その気持ちが一気に消し飛んだものたちが数多くいた事を云うべきだろう。


 過酷すぎる環境下で、過酷すぎる試練をくぐり抜け続けたカルロンにとっては些細なものだ。

 だがこのダンジョン内にはがかけているのだ。……ないのでは無い、正しくは魔力が極限まで薄いのだ。


 純魔は体内で高速で魔力を生み出せるため、このような魔力の薄い空間は問題にならないのだが。

 しかし冒険者たち、そして一般の魔法使いと魔術師にとってはかなりの死活問題となり得る。


「こんな場所で戦えだって?!……ふざけているのか貴様ら!」


 一人の若い魔法使いが試験監督にブチ切れてつかみかかる。しかしその手を軽く払いながら試験監督は冷たく言い放つ。


「何だ、この程度の空間で己の力を示さないやつが我らがスカーナリアの生徒の名を冠する事など不可能だと、思わんか?」


「っ!……ち、ちくしょう!……こんなとこで戦ったら死んじまう!」


「だからこの程度の空間で力を示せない雑魚の命など、我がスカーナリアには不要、さっさと諦めて帰るといいさ。最もその程度の自信しか無いのであれば今後上手くやって行けるとは思わんがな」


「く、クソ野郎が!」


「そうか、しかし試験監督にその言葉使い……万死に値するとは思うがな……『水よ、切り裂き潰せアクアメナス・デッドスペイス』」


 手から放たれた水により、試験監督の目の前にいた魔法使いは瀕死の重症を負う。


「連れていけ、不合格のレッテルを押し付けてな」


 そのあまりのアッサリとした具合に、反論をしようとしたその他の人間は押し黙る。


 その後、何人かのグループに別れてダンジョンを受けることが指示された。

 だが半数の人間がこのダンジョンから逃げるという選択肢をとったようだ。


 冷静だな。それは当然なのだが、命は基本ひとつしかない。それを失ってしまった場合……蘇る方法は存在しない。

 故に未練を残せば亡霊になってさまよう羽目になる。

 この世界はそれ故に皆命を大切に扱う事が多いのだ。


 こうして逃げなかったもの達は当然ながら最高レベルの覚悟の決まった魔法使いと、冒険者たちのみが残ったのである。


 ◇◇


「やぁやぁ、君さぁ強いのかな?」


 その言葉に俺は閉じていた目を開けて声の主を確かめる。

 第一印象は胡散臭い魔法使い、しかし彼女からは魔法使い特有の魔力の流れは感じない。つまり彼女は。


「君は魔術師なのか……おや、なぜ分かった?という顔をしているな……まあ安心しな?俺は別にきにしないのでな」


「うへぇ……すごいね、よくわかったねぇ……まあそういう君は魔法使いなんだろう?……いやぁ強そうだなぁ……あはは……羨ましい」


「ぬぅむ、君たちがワシのパーティ仲間ということになるのか?……ふむ、しかしなかなか強そうではあるな」


 もう一人の仲間は誰もが予想する魔法使いのイメージどおりの魔法使い。だがその歳はおそらく60を超えているのであろうな。


 こんな不思議なやつらによるヘンテコパーティ。そして後に友として幾重にも重なる戦いを生き残ることになる親友との出会いは、ここから始まったのである。


 二人の名前は魔術師『リンシア』、魔法使い『ローン』。

 カルロンが記憶する中で、最も頼りになる二人の仲間である。


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