第49話 レギオン・グレゴリとカサンドラ

「グレゴリ様!貴方様のお役に立てること、光栄でございます!!」


「うんうん、素晴らしいねぇじゃあ、死になさいな?」


「はいっ!…………失礼しました!」


 直後、ぐじゃっ、ごきっ……と言う人体の潰れる音がして肉塊が生まれる。それをレギオン・グレゴリは飴を舐めるように口に入れる。


「んんん〜いい味です、ですが少し物足りませんねぇ……はぁ全くスパイスが足りませんよ」


「スパイス?……全くグレゴリ、それはいいものでは無いぞ」


「知っていますよォ?……でもぉ?……ここに純魔の血と肉を添えればぁ?サイコォーのスパイスになると思わなぁい?」


「好きにしろ、必要経費は貰ったからな、俺は貴様のやり方に口は出さん……せいぜいあのお方に認められるように精進することだな」


「ハァイ!……んふふふ楽しみねぇ?……」


 ノックの音がして誰かがグレゴリのいる校長室に入ってくる。

 それは優魔生徒会長『レギオン・カサンドラ』。姿はまるで優しく、誰からも愛されるであろう美しい女性。

 対するグレゴリは一言でいうと『オカマ』である。


「お父様、試験の内容をお持ちしました、……しかしこれでいいのですか?あまりにも死者が多数出そうな試験内容ですが……?」


「カ・サ・ン・ド・ラ?ー〜?そもそもこの試験の目的は覚えているかしらァ?」


 睨みつけるように言われたカサンドラは少し俯いたまま、それでもきびすを返して答える。


「……純魔と魔法使いに恥をかかせること……です」


「だァい正解!……んふふふ、そう、この試験であのかつて私を無下にした純魔共に恥をかかせる!それこそが私の目的っ!……そのために何人犠牲者が出ようが構わない、そうでしょう?」


「ですが……今回は冒険者も多数……来ています……それらを間違いなく敵に回しかねない試験内容です!……どうかもう一度お考え直を!……あの第二試験……あれは……本当に屍の山を築くおつもり……ひっ!」


「黙りなさい?愚鈍な娘?……全く、私をこれ以上失望させないでちょうだい?──知ってるでしょう?私よ?……」


「す、すみませんでした……失礼しました!」


 そう言って慌てて出て行くカサンドラ。その様子を眺めていたグレゴリは椅子を回転させて窓の外を眺める。


「──そう、今回の試験はあの方にとって不利益を被るかもしれない試験……だからこそ、私は今回のこの機会に……全ての純魔の地位を地の底までたたき落とす……捻り潰すつもり……だから邪魔しないでちょうだいね?──愛するカサンドラ?」


 その笑みは不敵で、そして覚悟を決めた人の姿をしていた。


 その後、ゆっくりと校長室を出て行くグレゴリの様子を水晶で投影しながらソイツらは愉しそうに笑う。


「──さてさて、あのグレゴリ君は果たしてどこまであの子、くんのポテンシャルを引き出してくれるのかなぁ?!……楽しみが増えるってのはやっぱりいいね!だろう?─『ドミネウス』」


「ふん、貴様が知っているかは知らんがな?─とある当方の国には『敵に塩を送る』ということわざがあるんだがな?……オルフェウス、お前はそれに近いことをやっているのだぞ?──まあ貴様の事だ、何かしらの意図を見出したのだろう……ならば俺が何か言うことはあるまいて」


「そりゃそう、まあしかし──いい感じに憎しみを持った奴をトップに添えれたねぇ……さぁさぁ!どこまで血みどろの戦いを繰り広げてくれるのかっ!……ワクワクが止まらなすぎるよ!」


 そう言うと魔王『オルフェウス』は愉しそうにワインの入ったグラスを掲げるのであった。


 ◇◇◇


「──私はこのままでいいんだろうか」


 女性は独り悩みながら廊下を歩く。すると前から貴族たちが歩いてきた、一瞬体が強ばる。しかし。


「御機嫌よう、皆様……こんな時間に何をしていらっしゃるのですか?」


「ふん、いい気になるなよ貴族にもなれなかった奴が」


 思わず拳を握って魔法を使いかけるが、それを何とか自制して愛想笑いで返すカサンドラ。


「ちっ気味悪い笑顔ね……性根からねじ曲がって気持ち悪い」

「ほんとほんと!」「行きましょうお姉様」


「─────っ……」


 彼女らの姿が完全に見えなくなった後、カサンドラは独り壁を殴る。

 痛みが拳を伝わって来るが、その痛みに対してカサンドラは──。


『【痛みはすぐに無くなる】と【予約】します』


 魔法を唱えた。途端光り輝いた後痛みが嘘のように消える。


「…………結局、立場が上になってもバカにされっぱなし……っ!……」


 結局のところ彼女は下民だったことを未だにバカにされているのだ。貴族の中でも没落した結果地下生活を余儀なくされて……それでも何とか学園に入って惨めな生活を送る。


 そんな中で遂に手にした立場、この立場になれば貴族も魔法使いもみんなしたがってくれると勝手に思っていた。──甘かった。


 誰も私を尊敬などしてくれない、内心ではみんなバカにしているんだ。──余計なことを考えるな私!


 カサンドラは中途半端に優しい子だ。故に今回の父親の行っていることがどうにも許せなかった。


 試験こそは平等であるべき、だと言うのに…………。

 それでも自分は父親にも逆らえず、貴族にも強く出れないから…………。


 そんな悶々としたことを考えながら、教室に戻るための道を歩く。

 そんな時、窓の外に……一瞬だけ見えた青年。その姿が何故かカサンドラの目に嫌に焼き付いて離れなかったのは……?


 ──運命、とでも云うのだろうか?





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