第48話 第ゼロの試験

 王都ゼディウスの西区にある転移門、それは王都のさらに西にあるユディナ盆地とヴィリデス樹林地帯の中間にあるスカーナリアに直通している。


 転移門の前ではスタッフとして呼び出されたであろう魔法使いと、学院の教師達が受験者を確認してた。

 数が多い為か少々疲れた目をしていた。


「──次の人……はぁまた貴方ですか……毎年懲りませんねぇ……」


「名前は?『ギーラ』ですか……ふむちゃんとした手続きをしていませんね?──出直してきてください」


「君可愛いねぇ……!」「死にさらせゴミ風情が」


「次の人、……次の人!ーーー」


 やがて順番が回ってきた。ちなみにシェファロとクゥは影の中に居てもらっている。理由はシンプル安全だからである。


「──はぁ……次の方……えっとあなたの名前は……!?……き、キエス?!し、失礼しました!……あ、あのキエスの……」


 俺は落ち着け。と言いながらそこまで騒がなくてもいいと伝える、しかし。


「いえいえ!ま、まさか純魔の方とお会い出来るとは……し、しかしなぜこちらの一般受験を?……貴方様であれば貴族枠で受けれるのでは無いのですか?」


「マジかよ!あのキエス家の……アイツが確かあのって奴か!」「聞いた聞いた!アイツ確か魔法が使えないらしいぜ?!」「だから一般受験!?……それならそこまで驚く必要ないか!」


「ふむ、早めにここを立ち去りたいのだが……よろしいかな?……後々皆様の負担になりそうなのでね」


「か、かしこまりました!──どうぞ!カルロン様!」


 俺は騒ぎが大きくなる前にさっさと転移門をくぐる。改めてこの世界に根付く貴族の……純魔優位の世界観を肌身で感じた。


「(カルロン様……良かったの?……あんな風に言われてさ!?……アンタのこと何も知らない人達にこんなふうに言われてるの、あたし許せないけどッ!)」


 途中から穏やかな普段の喋り方を忘れた感じでシェファロが云うが、俺は。


「まあ好きに言わせておくべきだろう、別に俺に実害があるわけじゃ無いからね。──それにそれを変えてやるのもまた一興だろう?」


 実際俺は他者からの評価など微塵も気にしていない。そもそも気にしていたら俺は自分の実力をさっさと父親に見せて安定ルートに入っていただろうが。


「コイツやっぱ変なやつよね……」


 女神に言われるのは少々不愉快ではあるが。


 ◇◇


 転移門の先は盆地であった。──などと言う簡素な言葉で表すのは流石に不躾ではあるか。


 勇魔学院スカーナリア。──盆地と森の境にある巨大な湖の真ん中に途方もなく大きな学舎があった。

 その大きさはかなりのサイズである。

 だがどうでもいいという具合にカルロンはそちらを見るのではなく、むしろ地下を見ていた。


 ◇◇


「──なるほど、試験会場はあそこか……しかしこの学舎のある場所はどうにも不安定な要素が多いな……一応今回は『無』の魔法を使うのはやめておこう……それから二人とも、試験が終わるまでは中から出てこない方がいい」


 辺りには既に試験を受けるための人間で溢れていた。彼らの首からは試験を受けるという証明書の代わりの魔道具がぶら下げられていた。


「一般受験の方はこちらに!……はいこちらで受付してください!……こちらです!!」


 その言葉に従い、カルロンはゆっくりと今回使う武器を腰からぶら下げて歩いていく。今回使うのは『鉄の剣』だ。

 何の変哲もない鉄の剣、しかしその実態は『エルドラド』で作り出された鉄の剣である。


「まもなく試験が始まります!……それでは皆様位置に着いてください!!」


 カルロンが到着してから、数時間後そのアナウンスが魔法により表示された。


 ◇◇◇


「貴様らが新たな試験者か!……よくぞ参った、などと言う甘い言葉は会えては言わぬ!…………貴様らの力がいかほどなのか、我らに見せるが良い!!!それでは、第ゼロの試験……開幕!!!」


 誰だろうか。多分試験監督の立場の奴なのか?おそらくだがそんな奴なのだろうが……まあ試験内容も、何もかも教えられていないのはあれか?


「──貴族をより多く合格させるためにわざと一般受験のヤツらには教えていない感じか」


 カルロンのその考えは当たっていたようである。


 周囲に集まっていた冒険者達の焦りようを見て離れた場所にいる貴族や、一般受験の枠にいる魔法使い達がバカにするような目でこちらを見てきている。

 そして次々と何かの言葉を唱えて目の前に石像を呼び出してそれを試験監督に持って行っていた。


「──ふむ?……あぁ成程あれは基礎ステータスの表示という訳か……まあおそらくだがこの魔法だろうな」


 俺は適当に近くにいた合格者の口元の魔力の流れを模倣してそれを作り上げる。


「──こんなものか、しかし面白いな……確かにこの魔法を知らなければ合格以前に試験の始まりから落とされてしまうとは……実に魔法使いらしいねじ曲がってひねくれた事だ」


「この魔法を使えぬ方はこちらで購入してください!!……繰り返しますが、これを使わないとそもそも試験を受けれません!!」


 何だ救済措置があったのか。しかしあれは──。


 数が限られていた。それに沢山の冒険者達が慌てて駆け寄るが、その様子は非常に醜かった。

 まあそれをする為にわざとやっているのだろうがな。


 こうして、次々と冒険者達が醜い争いをしているのを横目に俺は次の試験……と言うか今のは試験なのか?とすら思ったが、次の試験へと歩いて行くことになった。


 ◇◇◇


「ん?──アイツなんで合格してんだ?……なあ誰かやつに教えたか?」


「ほんと、アイツなんで合格してんの?─まじ謎なんだけど」


「まあやつの事だ、何か卑怯な手を冒険者から学んで来たんだろう……哀れなことだよね」


 その様子を遠くから眺めているのは、キエスの他の人。つまりは兄弟たちであった。


 1番上以外は全員受けることになったのだが、当然貴族枠の彼らは最終試験だけを受ければ合格となるはずだったので、こうやって上から目線で眺めていられたのだ。



 ──だが忘れるなかれ。


 この学院の校長は『レギオン』の1人だと言うこと、そして……レギオンは一つの信念を持っているということ─それは。


 。である。

 言い換えれば、こうやって上から目線で余裕ぶっている純魔達のプライドや、自信を打ち砕くことを……しない訳が無いだろう?


「ふふふふふ、今はまだ上位者として余裕ぶっている奴らの焦り、いい味がすると思わないかしらァ?」


「君は相変わらずいやらしい考えを持つね、まあこのレギオンに所属する奴らは大体こんな感じだけどねェ……」


 この試験、即ちを潰す為の試験が幕を開ける。









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