第47話 スカーナリアへの転移門

 変わったのは俺だけでなかった。その話をカルロンはシェファロからたっぷりと聞かされる事となった訳だが──?


「カルロン様が居なくなったあと冒険者ギルドの方に貴族たちが来まして……」


 シェファロの話によると純魔『火』の家である『フラム』の人が来たのだとか。

 そして冒険者に無理難題を簡単に押し付けようとしたのだが、それをギルドマスターに阻止されてブチ切れて帰って行ったとの話。


「──ただ、魔法使い達の戦力増強の為に貴族たちはかなりのいい待遇で冒険者を引き抜いていきました……その結果その待遇をされた人とされてない人で揉め始めて……」


 なるほど。


「それで最終的にギルドから離反したものたちが新たな下部組織『トレーサー』と呼ばれる集団を形成したのです」


 何だろうか、とても誰かの差し金のように思えるのは俺だけか?


「そして魔法使いの世界にもかなりの変革が訪れました……」


「ちょっと待て、魔物だ──クゥ、ご飯だぞ」


 俺はシェファロの言葉を遮り、辺りを警戒しながら即座に防御術式を貼る。


「ま、魔物ですか!?……私もさっさと戦いを……」


 その直後、上空から翼の生えた魔物……確か『グリフォン』の亜種のような奴か無数にこちらに向かって飛んでくるのが確認できた。


「シェファロにはぜひ見てほしいんだ……あの子、クゥの戦い方をね……」


 俺は飛び出そうとするシェファロをたしなめながらクゥの戦いを見守る。


 ◇◇


「あ〜起きて早々魔物と戦いとか面倒くさすぎるよ〜〜ふぁ〜あ……ま、いっか。サクッと消し炭にして寝よーっと」


 そう言うとクゥ=ベルノートは白銀の髪の毛をかき分けて目を見開き、口の中に超高熱の光の弾を生成する。


「────『圧縮熱量放射ヘリオスファイア』」


 クゥの口から放たれた光の束。それは瞬時に上空から飛来していた『グリフォン』を消し飛ばす。

 その余波により、周囲にものすごい高熱が拡散し、その結果周囲から一瞬水分が消失したかのような錯覚をシェファロは覚えた。


「ムフ〜〜〜いい感じ、やっぱ私天才でしょ」


「──天災の間違いだろうが!!……やりすぎ、やりすぎ!もっと出力を抑えてっ!」


 コイツずっとこんな感じなのだ。機嫌が悪くなると地団駄(地震)を引き起こし、楽しくなるとあのビームを連射し出すし。

 それでいて褒めろ、褒めろ!と俺に迫ってくる。何なの竜の見た目ならまだ分かるけど人間と寸分変わらない見た目……ああその話もしておくべきだったな。


 竜は人の姿をとる。それは単純に人間の形が一番楽しいからという事らしい。

 よく分からないが竜はそうやって人間にばけれる……と言うか人間を模倣出来るのだ。

 人間の文化、人間の生活を楽しんでいるのが竜なのだ。

 ──曰く「下等生物にしては案外楽しませてくれるから、真似してやろうと思ってな」

 が竜の謳い文句だった。


 だからこそコイツの扱いに困るというか、まあコイツは別に悪い奴ではないからなぁ……。


「──クゥ、よくやったと言いたいが……餌を吹き飛ばしてどうするつもりだ?──まさかなんにも考えていなかったとかないよな?」


「エ?あ、えっと……ほんとだ……うんわかった我慢する、我慢するから!」


 そう言うと再び影の中に潜り始める。


「───ええぃ!無理やり入ってくるでない!……あ〜狭い!」


 女神ヘカテーは心底迷惑そうにそう嘆いた。


 ◇◇


「それで魔法使いの世界で何が起きたかの話ですが……」


 シェファロは再び話始める。今度は魔物の襲撃なども無かったので春風香る草原をゆっくりと進みながら俺は耳を傾ける。


 ──俺が『エルドラド』に拉致られた後、すぐに魔法使いたちの中に新たな魔法属性に目覚めるものたちが現れたのだとか。

無属性ユニーク』と呼ばれるそれらは、圧倒的な力を持っていたのだ。無属性魔法使い達はその上自分たちで協力して新たな貴族の名家を生み出した。それこそが『レギオン』と呼ばれるものだ。


 この『レギオン』家は無属性魔法使い達を全て支配する巨大な組織となり、その権力は瞬く間に膨れ上がり……結果純魔たちですら歯が立たないほどの力を手に入れたのだと。

 この『レギオン』の長である『レギオン・グレゴリ』は瞬く間に勇魔学院スカーナリアの校長となり、新たな組織『優魔生徒会』と呼ばれる組織を組み込んだのだ。

 それは今まで横暴に振舞ってこれた全ての純魔を一瞬で戦慄させるほどの強さと支配力を見せ、そしてその様子により貴族、特に純魔の権力が大分衰えたのだとさ。


「──ふーん?なんかきな臭いな、少なくとも俺は魔族が何かしら絡んでいると予想するぞ」


 何となくだが、とてつもなく嫌な予感がするのだ。それはめんどくさいという一番嫌な感覚なのだが。


「で、その後にですね……冒険者にもチャンスを与えると言うことで新たな試験方式『平等なる試練』が決まったのだそうです……そこでは魔法と武術の両方の観点からスカーナリアに入れるか否かを決めるのだそうです……まあカルロン様は心配する必要は無さそうですが」


 ……何を考えているのだろうか。俺は改めてこの『レギオン』について深く調べる必要があると判断する。

 なんというか今までの歴史を簡単にここまで破壊して、その上冒険者を落とし込むと言うその手腕が俺は心底気に入らない。

 なんというか俺がやろうとしていたこと全てを先取りされている感覚、まあ焦ることは無いか。


 そうこうしていると、遂に中央ギルドにカルロン達を載せた馬車が到着するのであった。


 ◇◇◇


「久しぶりですカルロン殿!……逞しくなられましたね……いやはやこの歳の子供はどうにも成長が早いようで……ふふ、失礼ギルドマスター『ワルツ』……君を上まで連れていく係をさせてもらうよ?──まあ気楽に座っていてくれ」


 俺とシェファロはゆっくりとゴンドラ(エレベーター)で世界樹を登って行く。

 世界樹はいつにも増して煌びやかな葉を落として、生命を見るもの全てに与えているようにすら思えた。


「──そう言えばカルロン殿、あの元々住んでおられた家は我々が自由に使ってよろしいのですかな?」


「構わない、まああんまり広い家では無いからな……シェファロとの思い出の品などは既にシェファロの手で王城に運ばれているらしいからな……」


 なんで?何故かシェファロは王族と親しくなっていたようで、荷物を全て預けることを許可されたのだとか。──訳が分からない。


 そもそも俺の学費などを全て王がになってくれるという話すらされたのでな?話によると暗殺者と戦ったあとその優しさに触れた騎士団長がその事を王様に報告して、その結果恩赦を与えるという名目でそれをしてもらったのだ。


 まあいい変えれば、俺は絶対に合格しなければならない訳だが。不合格になればそれはシンプルに王族に泥を塗る羽目になるからな?あとが怖いこう言うのは。


 ◇◇


 スカーナリアは王都の端っこ、気高い丘の上から行くことが出来る。

 最もそれを通ることで遥遠くにあるスカーナリアにたどり着くといういわば転送型のシステムな訳だ。


 さすがに王都近郊に作ってしまうと邪魔だということで当時の『転移』魔法の使い手が頑張って永久的に使える転移門を作ったのだとか──無茶苦茶な気がするけど気のせいだろう。


 服装を着替えた俺とシェファロは転移門の前の広場に並ぶ。多分これから試験会場に赴く人達で賑わっている中を俺はゆっくりと眺める。


 今年から冒険者でも試験を受けれるようになったので魔法使いから冒険者と様々な姿の人間がいたのだが、やはり未だ確執があるのかあまりいい雰囲気ではなさそうである。


 俺は王様に貰った移動用のパスポートを片手に抱え、のんびりと待つことにした。


 春の暖かな陽気、ふと爽やかな風が俺たちの足元を流れる。



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