第40話 舞踏会は未来の同級生と共に

 戻る途中、四度攻撃を受けた。


 その全てがからの攻撃だったことで相手の魔法が完全に影魔法である事を理解した俺は、なるべく影が少ない場所に移動する。

 そしてどうやら相手は俺だけを狙っていることから……あえて人が多数存在する場所に移動して相手の動きを制限するのもひとつの作戦だな、と考え俺は舞踏会の会場を移動する。


 ダンスパーティーははっきりいって子供同士のものであり、それに付き添う大人は離れた場所で何か会合を開いていた。

 音楽魔法と、ピアノ……この世界にもピアノがある事に少し驚きつつも俺はそのリズムに合わせて踊っている人達の近くを通る。


 ──すると。


「あら、あなた踊る相手がいないの?……ふーん、いい顔じゃない。……どうかしら?わたくしとひと踊りするのは?」


 不味いな、俺は即座に断ろうとしたのだが……手を掴まれてしまった。

 よく見ると何人かの視線がこちらを捉えている、そちらにはほかのキエスがいたことも相まって俺はなるべく奴らから離れるべきだと判断し、その女性に従うことにした。


「こんな僕でも良ければ……僕の名前は『キエス=カルロン』と申します」


「あら!あなたがあの噂のキエスの!……ふーん聞いていたよりとてもいい目をしてるわね!……私は……『ウィンディ・ブリーゼ』……貴方と同じく純魔よ……うんいい風が吹きそうね貴方」


 そう言って笑う女性。翡翠色の髪色は天井のシャンデリアの光で煌めいていた。

 俺は手を取り、ゆっくりとワルツを踊り始める。


 もちろんワルツなど前世で踊った試しは無いが、ここ2日かけてみっちり覚えたのでな。特に不都合は無いはずだ。……むしろ、この間に襲い来るであろう敵襲をどやって目の前の彼女にバレないようにしながら交わすかを考えるべきだろう。


 ちょうど曲が切り替わったのか、ゆったりとしたピアノがより鮮明にホールに響く。壁にはおそらく音響系の魔法がかけられているのか、軽やかなリズムを人々に提供してくれていたのだが。


「あら、案外踊れるのね?……見た目からは気が付かない程度に力もある、良いわね貴方……いずれ貴方もスカーナリアに来るでしょう?……ぜひよろしくお願いしますわ?」


「それは何よりだ、僕もまた風のように人々を平等に駆け抜けるあなたと競い合える仲になれることを信じているよ!!」


 そう言いながら俺は人が天井のシャンデリアに重なった瞬間に飛んでくる影のナイフを次々と無音で『無に帰し』ていた。

 自分の体を回転させて目の前のブリーゼの視線がそれた瞬間に、予め周囲に張り巡らせた『帰還』の魔力を用いてナイフを『灰燼に帰すイグニス』により焼き消す。

 汗が体を伝う。──ほかの人に悟られない程度に魔力を出して、それを予め来るであろう位置に配置。

 それを襲撃と同時に高速で『灰燼に帰す』に変換させて、そのうえでダンスをこなしながら不自然じゃないように見せながら、放つ。


 魔力探知、魔力操作、隠蔽。全ての持てる技術を用いた他愛のないダンスタイム。

 死角から放たれる影の攻撃を俺は的確に捌き、その上で目の前のブリーゼの会話にすら的確に答える必要があると……さすがの俺ですらギリギリの事だ。


「──あらそろそろ曲が終わりますわ……ふふふ楽しかったわ?案外力も強いのね……気に入ったわ、いずれまたお会いしましょね?」


 そう言って彼女はゆったりと去っていった。

 既に体のあちこちからは汗がダラダラと噴き出していたが、拭く暇すら与えずに次のダンス相手が現れてしまった。


「ふ、ふん!勘違いしないでよね!……ブリーゼが踊ってるのを見て、ちょっとだけ興味が湧いたから来てやったのよ!……感謝しなさい?」


 癖の強そうなやつが来た。──不味いないろいろと。


「それはありがとうございます、僕はキエス=カルロン……貴方様のお名前はなんとおっしゃいますか?」


 真紅の髪の毛、赤く燃え盛る炎の如くその姿はおそらくだが。


「フン!私は『フラム=フィアンマ』よ!……感謝なさいな?私が誰かと踊ることなどないのですからね!」


 そう言って強引に手を取られる。フィアンマと名乗る女性は先程の軽やかなブリーゼとは異なり、強引かつ大胆な動きで曲を駆け巡る。


 時々こちらを見ては目を逸らして、ツンとした態度を見せるのはおそらく彼女がそういう性格だからだろうか。

 ───っと。


「おっと失礼、すみませんちょっと人にぶつかりそうになってしまったので……強引にこちらに引き寄せてしまって……すみませんすぐに離れます」


 危なかった。燕尾服の下から来るとは。危うくフィアンマを巻き添えにしてしまうところだった、それを踏まえるとちょっと失礼をしてしまった気がするが。


「───ふ、ふーん!?あ、案外力強いのね?!え、えぇ……び、ビックリさせないでよね!?……ありがと……フン……私を驚かせるなんてアンタやるじゃない?……いいわ今のは許してあげる!」


 彼女と踊り始めて既に10回近く飛んでくるナイフ。真面目に会話する余裕すらないが、仕方がない。


 ──さすがにこの状況で人に気づかいなどする余裕がなくなってしまっているのは少し気が引けるが。


「あら、終わってしまったわ……はあまあいいわ、ほかのキエスの奴よりよっぽどアンタの方が私の気を惹き付けれてるわよ?……じゃ!」


 そう言って去っていった。良かった……などという考えを持った瞬間、さらなる追撃が飛び交う。


 相手の魔法のレベルが高いのか、偽装能力が高すぎるのかは分からないが、少なくともこの場に俺以外でそれに気がついている人は──。


「ごきげんよう、ふふふ……私は『ミナモ・スイナ』……貴方とても面白い動きをしていたわね…?ええ、私の目にはとても美しく映りましたのよ……?ぜひ一曲、踊ってくださるかしら?」


 水色、そして驚く程に美しい瞳の色をした長髪の少しだけおしとやかな女性が俺の思考に水を差す。


「ええ勿論、僕等という存在でよろしければ…僕は『キエス=カルロン』……ぜひ」


 そう言いながら、彼女が俺の動きに気がついていたことに俺は割と動揺を隠せなかった。

 まさか焦りから偽装ができなくなっているのか?


「ちなみにどのような部分が面白く感じたのでしょうか?……」


「うーんとですね、をやっているような、場違いな感じでしょうか?」


 場違いか。確かにな?──っと。


「踊りましょう、ぜひ!……おや?不思議な動きですね……それはミナモ家の特有な動きなのでしょうか?」


 俺は強引に彼女が色々と気がつく前に踊り始める。


「ええこちらは、わたしが幼き頃より教わっている特殊な踊りでございます、……やはり少しズレているのでしょうか?先程から誰もこの踊りに合わせて下さらなくて」


 まあ確かにこの踊りは普通の踊りでは無い。どちらかと言うととかと呼ばれる類のそれだろう。


「──こんな感じでよろしいですか?……一応貴方様に合わせて見たのですが」


 俺はこの時割と焦っていたせいで、失念していた。


「!!すごいです、私のこの踊りに的確に合わせてくださるなんて!……ええでは、一舞、踊らせていただきましょうか」


 ───少なくとも、この踊りはを。


 タンゴ、ワルツ。それらは形こそ違えど……基本的な行為は同じだ。

 しかし分類が異なるのだ。


「────楽しかったです……それにしても、?」


「何となく、ですね──誰かが踊ってたのを見たのかな?」


 そう言って別れた。

 ちなみにその踊りはに近しいものだったのだと伝えておこう。


 こうしてダンスタイムも終盤にさしかかろうとしていたその時、さらに誰かに話しかけられる。


「あ、あの〜……あの、はいそうです貴方です……もし、もし良かったら踊りませんか……?あ、私……私ですか?あの『アビサス=フォンセ』です……その、今回はちょっと恥ずかしくって端っこの方で踊りませんか……?」


 漆黒の女性に話しかけられた。ジト目に見つめられて俺は一瞬深淵を覗きかけた気がしたが……それは気のせいだろうか。


 終盤ということもあってか、曲は先程までよりも一段と激しいものとなっていたが、それに対しこのフォンセという女性はとてもこじんまりとした踊り方をしていたので。


「──こういうの苦手なんですか?……あ、僕は『キエス=カルロン』です…………」


 そうして踊りが始まる。ちなみにここまで既に攻撃を食らった回数は全部で300程。


 既に汗だっくだくな俺は、傍から見れば異常なほどの疲れ方をしていた事だろう。


「それにしても、さっきから……不思議なこともあるんですね……?」


「──気のせいじゃないですか?……僕はそういうのは見えていませんから……それよりも踊る時はもう少し足を開いた方がよろしいかと……」


 多分彼女が闇魔法の使い手だからだろう、そういったことに気がついてしまったのだろう。

 しかしそれを知って相手がこの場で殺しにくる可能性もなくは無かったので慌てて誤魔化す。


「え、あ、そうなんですか?……ちょっと恥ずかしいですねやっぱり……あははは……は……その、最後に踊るのがこんな人ですみません……もっと派手な人と踊りたかったです……よね……」


 そういえばこれで最後か。確かこのあとは食事会があって……それで……王女様が踊る相手を選ぶやつがあるんだっけ?

 それである程度次の魔皇候補が絞られるとか何とか……?


 ひとまずこの踊りが終わったあとはすぐにこの場を離れて遠くで控えるようにしよう。

 そう俺は考えながら、ダンスタイムがゆっくりと幕を閉じる。


「あ、あっと……えっと……楽しかったです……その、優しく教えてくださってありがとうごさいます……その、多分スカーナリアで一緒に学ぶと思うので……その時はぜひ、友達になってください!……ぅぅ……」


 そう言ってフォンセはかけて行った。


 ちなみにこのフォンセと踊っている最中に攻撃は実に28回。フォンセが闇系列の魔法使いだからか、他の人より影が濃いせいもあってかなり攻撃が飛んできた。


 ─────既に満身創痍なカルロン。しかしこの後、さらなるかれつな攻撃が襲い来るとは……その時のカルロンはあんまり、いやほんの少し?


 ───うん普通に理解していたし、備えていたのであった。





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