第39話 舞踏会/当日そして暗殺者との邂逅
──舞踏会当日。
カルロンは真っ先に現地に入ることにした。
後入りするより、先に入っておいた方が状況に対応しやすい。それだけだ。
「結局ワルツさんの家族とやらには会えなかったな……まあ騎士団長という仕事だから忙しいのだろうな」
ため息が零れる。全く……貴族とやらはここまで面倒だったものか、と。
俺は先程父親達に自分がいる事を伝えに行ったのだが……まあ当然ながら兄妹にも散々バカにされた。気にはしていないが、彼らの価値観や魔力探知能力が進歩していないのはとても残念だと思う。
◇◇
数刻前のこと──
「キエス=カルロンでございます……お久しぶりです、父上殿」
俺は挨拶をコキュルトに行う。その言葉にコキュルトは嫌そうに反応しながら。
「なんだ、カルロンか?まだ生きていたとはな、心底根性だけはある様だな……フン、ゴミ世界に馴染んだようで何より……そのまま魔物にでも食われてくたばればいいものを……それで?私に謝罪は無いのか?──生きてしまっていてすみませんでした。ぐらいは言えないのか?」
こいつの口の中に水を流し込んで殺してやろうか?とも一瞬考えたが、そんなことをする必要は無いな。と冷静さを取り戻した俺は。
「いやしかし、父上殿もよく私などというゴミ野郎の言葉を耳に入れてくれましたねぇ?……次に会うのはてっきり地獄辺りだと思っていましたよ……いやぁ私も運が良いのですね!」
そんな言葉を言ってその場を離れる。ちょうど別の家の重役が近くに来ていたので反応できなかったようで……コキュルトは目を見開いてはいたが。
会場の中に入るまでしばらく時間がある。その間に何かできることは……と俺が考えていたその時。
「お!ゴミカルロン!……ほらお手、お手!……」
「あ!出来損ないがいる!クククここに来ても餌は無いぞぉ?」
「ちょっと、道端の石ころに話しかけるなんて馬鹿みたいだからやめなさい!」
ふむ、3兄妹が来たか。口だけは達者になったようで何より。
俺は彼らを見る。魔力の質、出力、属性との親和性。
回路の有無などをしっかりと確かめたあと、俺はため息を内心でこぼす。
「(がっかりだよ……まさかここまで弱いとは)」
彼らの魔力は確かに多かった。それは間違いなく血筋によるものだろう……だがそれ以外が致命的な程に適当で乱雑で、ハッキリ言おう──俺の小指にも満たない。何なら……シェファロの方が多分強い。
「それより今日、俺たちの将来のパートナーが見つかるかもしれないと思うとさ……ワクワクが止まらなかったぜ?……」
「それだよね!……僕らに相応しい女性をみつけなきゃね!」
「私は白馬の王子様がいいなぁ!んふふふ楽しみ!楽しみよ!」
俺など眼中に無いような表情で彼らはそそくさと歩いていった。
参ったな、俺はアイツらとこの後の学校で仲良くやれる自信が無いぞ?
少なくとも兄弟達との軋轢は避けようがないな。
◇◇
そんなことを考えていたところ……ついに舞踏会の為の入場が始まったようだ。
「皆様がた!順番に!順番に!」
必死に声を荒らげ騎士が呼びかけているが、聞く耳など持たない貴族や魔法使いたちは次々と我先にと入場していく。
やがて全ての人間がごった返して押し合いながら門をくぐって進んでいくのを俺は眺めた後、先程まで叫んでいた騎士のそばに駆け寄り……。
「もし良かったらこちらをどうぞ……喉に効く薬ですよ」
「え、えっ?!あ、ありがとうございます?!……確かあなたは……キエス=カルロン様ですか?……優しいのですね」
「人の努力は報われるべき……ですからね、頑張ってください!」
俺はそう言うとゆっくりと門をくぐる。
◇◇
俺は一番最後に入場したのだ、当然ながら既に舞踏会は幕を開けていた。
てっきり最初は自己紹介などを兼ねて挨拶をするのかと思っていたのだが、どうやらそんなことはしないようだ。
と言うかセキュリティどうなっているのだろうか。
俺はむしろそっちが心配になった。もしこの場を何者かが襲撃でもすれば一網打尽じゃないかと。
俺は即座に周囲に魔力探知を限界まで張り巡らせる。怪しい人物は居ない……いやいるにはいるが……さすがに魔力の高い奴らが多すぎて魔力探知が鈍くなっている。
──故に俺は天井にいた暗殺者の姿を捉えることはできなかった。
◇◇
始まりは一発のナイフだった。
眼前に迫り来る一振の刀身、それが一番離れた俺目掛けて上から降ってきたのだ。
即座に俺は反応して外に飛び出す。もちろん雑踏や嘲笑に紛れて、俺を見ているものなど一人もいなかったのだが。
俺は外に飛び出し、魔力を遮断して近くの木陰に隠れる。
しかしその場を目掛けて的確に追撃が飛んできたのだ、当然ながら俺はそれを理解すると即座により遠く……即ち王城の方へと駆け出した。
屋根から屋根をつたい、俺は走る。
魔力探知には人影が映し出されてはいたが、その動きはダミーのようにすら感じる奇妙な写り方だった。
「ちっ、手練か」
三時の方向、六時の方向、九時の方向から即座にナイフが跳弾して襲い来る。
よく見るとナイフには黒い影が引っ付いているではないか。
俺は王城の廊下を走り抜け、回転回避を決め込む。
直後俺の先程いた場所に十数本のナイフが刺さっていた。
そして刺さった場所からはもうもうと煙が立ち込めている。
「──ほお、さすがにこれを全て避けられたのは生まれて初めてですなぁ……流石は先生が警戒する御仁でございますな……」
目の前に黒い影が現れる。それは真っ黒なローブを羽織り、闇夜でありながら赤く煌めく瞳をこちらに見せる。
その様はまるで猛禽のような印象。揺らめく影は陽炎の如し。
俺は即座に魔力弾を解き放つ。しかしそれは相手の影に当たった途端、力を失ったように黒く淀み……朽ちていく。
「(魔法の……内核を破壊されたか……さてはコイツの魔法……なかなかに厄介だな?……それにコイツ……デコイ……いや)」
「お前、ダミー人形だな?……なるほど影魔法……影で生み出した擬似的実体による攻撃か……考えたな──『
人間には早すぎる『
「──チッ、やはり影か……しかしなぜ俺を狙ってきた?……分からないが、会場を離れるのはシンプルに面倒事に巻き込まれる予兆になりかねない……とりあえず戻るか」
ここで騎士たちに伝えても良かったが、それをすればよりたくさんの人間が死ぬなと判断した俺は……ひとまず会場に戻りながらこの攻撃の主を倒す方法を探ることにしたのであった。
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