第38話 舞踏会/前日『宝石姫』レイン

 黒の燕尾服に装飾は控えめ、靴は革靴にそれ以外の装備品は無し。

 傍から見れば俺は少なくとも目立つことはあまりないだろう。最も、地味すぎて逆に目立つ可能性はあるが。


 そう言えば俺は武器も持っていかないことにしたのだ。

 襲われてしまうのではないか?とシェファロが心配そうに聞いてくれたが、一応俺は素手でも問題無く戦えるからな。「無問題」だ。

 そう伝えたのだが、しどろもどろな言葉でやっぱり武装しておいた方が……、とシェファロが呟いていたその時。


 扉が誰かの手で開けられる。入ってきたのは実に煌びやかな服装の女性だった。


 金髪は本物の金と見間違うほどの光沢と圧力を誇り、目の中にはまるで宝石のように煌めく緑色の瞳が。

 カールのかかった髪は彼女の喋り方をある程度知らない人にすら予見させるほどのソレを有していた。

 おそらくだが同年代、にもかかわらず彼女は堂々とした出で立ちで……。


「こちらにいらっしゃるのがあのカルロン様でございますかぁ?!おーっほっほっほ!!すーばらしいオーラを有しているじゃあーりませんの!……いいですわ、いいですわ!!」


「お、おう……?君は誰だ?」


 俺ですら若干彼女の放つ気配に圧倒されかけたが、一応尋ねる。

 尋ねている途中で、彼女の見た目がとある人にそっくりなことに俺は気がついた。


「あらあら、ワタクシとした事が!良いでございましょう!ワタクシの名前は、『ジュリオール・レインザッハ』……以後レインと名乗らせていただきます、わ!!!」


 あーそういう事か。俺は彼女の名前と言うかジュリオールの名前にふと聞き覚えがあったのだ。

 確か西冒険者ギルド『ヤト』のギルドマスターの名前が・ナギルニーフと言うはずだ。つまりは───。


「あの『ヤト』のギルドマスターのご家族というわけか……なるほど確か彼女も自分には妹が居るとか言っていたが……君のことだったのか」


「ええ!!私にとって愛すべき姉上様、ワタクシにとって最も尊敬すべきお方ですわ!……ふふふナギ様から何度もお聞きしましたのよ?──「冒険者ギルドに最高の味方が加わってくれた」って何度も手紙を添えて!!……ワタクシずっとずーっと楽しみに待っていたのですわ!……にしてもいささか地味すぎやしませんこと?」


「ああ、わざとだ……俺が目立つのは極力避けるべきだと判断したからな」


「もーったいあーりませんの!!ワタクシの目に狂いが無ければカルロン様は、有り得ないほどに価値が高いお方ですわ!……そんな世界に知らしめるべき原石がこうも磨かれた状態でゴミ箱に捨てられているのは……ワタクシ許せませんわ!?」


「済まないな、だが俺は今回なるべく波風を立てないように過ごしたいと思っていてな……何俺の強さはいずれ奴らに知らしめるつもりだ……だからこそ今はそのときでは無い……そういうことだ」


 話していると後ろからもう1人入ってきた。それは少し年老いた姿の……しかし非常に品のある男性。


「──レイン、あまりお客人殿を困らせるでないぞ?……全くお前はいつも変わらないな」


「お、お父様……わ、わかりましたわ……ですがせめて……」


「レイン」


「わ、ワタクシ少し喉が乾きましたのよ、そこのお嬢様……それからワルツ様……ぜひお茶を飲みませんこと?」


 そういうとそそくさとあっけに取られていた二人を連れて外に出ていった。


「──済まないな、あの子は悪気はないんだ……ただ昔から少々張り切りがちでな……ああ私はジュリオール家当主、『ジュリオール・クラウド』……よろしく頼むよ?キエス=カルロン殿」


「ああ理解した、改めてキエス=カルロンだ。それにしてもこの度はなぜ俺の元にわざわざ当主殿自ら足を運んでくださったのだ?」


 にこやかに挨拶を交わしつつ、本題であるについて軽く確かめることにした。


 しかし当然ながら、ジュリオールも又かなりの手練である。元はただの魔法使いの家系ながら僅か一代で富と財で城を築き上げ、大魔法使いとして八人の純魔の次に権力を携えた存在。


 そんなやつがわざわざ俺の元に来るなど何かかなりの裏事情があるに違いない、俺はそう考えていたのだが。


「私の愛する娘のひとりがな、熱心に手紙をよこすのだがな?……いつの時からか『カルロン』と言う少年の話しか送ってこなくなってしまったのだ。全く私は当然興味が湧いてな、人脈を使って彼のことを調べあげてやろうと思ったわけだ……。しかし分かったのは『キエス』の人間である事だけ……それ以外には何も情報が入ってこなかった…………そんな折に君が舞踏会に参加するために冒険者世界から魔法界に来ると言うでは無いか……そんなチャンスを逃すわけが無いだろう?」


 そうしてカルロンの瞳をじっくりとまるで何かを鑑定するかのようにじっくりと、じっくりと眺めた後ジュリオールは首を横に振り……ため息をこぼす。


「ダメだ……何度も君の事を鑑定しようとしたのだが、悉く弾かれてしまうな……全く素晴らしいとしか言いようのない魔力、そして精神防御練度だ……この年でそこまでの実力を持つもの……ふむやはりいつの日か君のことをじっくりと丸裸にして確かめてやりたいがな……まあ今回はここまでにしておこう」


 そういうと、ジュリオールはゆっくりと近くの椅子に腰掛け……そして。


「……カルロン殿、私はね……怖いのだ……この国……今の魔皇様の言葉を全く聞く耳がない純魔の姿が…………君はこの後魔法界、それももっとも見苦しい場所を見るだろう……それでもを見捨てないでいられるかな?」


「──愚問だな、ジュリオール殿。俺が見捨ててしまったら本当に救いがなくなってしまうだろ?」


 そういうと俺はドアをガチャリと開けて隣で開けれているであろうお茶会に参加しに行った。


 彼の姿が見えなくなったあと、ジュリオールは一人つぶやく。


「……彼は人間なのか……?私の鑑定に狂いがなければ…………彼は、と同質の魔力だが……?…………やはりレインを通じて彼を監視せねばな……はてさてこの賽の目は、どちらに転ぶのであろうな」


 ◇◇◇◇




 ───ここは会場。


 現『魔皇』ゼディウス・ケラノスの居城にして王都『ゼディウス』の中心。

 明日行われる舞踏会のために必死にたくさんの兵士が、衛兵が、そして騎士たちが走り回っていた。


 そんな状況、当然ながらが立入ることなど造作もない訳で。


 こっそりと王城の天井の梁に潜伏した黒服の、少しだけ老けた男性が誰かと会話をしている。


「──配置に着いたぜ?『先生』。……それで今回のターゲットは本当にコイツで良いんだな?」


 男は写実魔法で撮ったその写真の主をまじまじと眺める。


「─まあ多分抵抗されるだろうからさ、頑張ってね?……一応近くに『死霊術師』は待機させておくからさ……頑張ってね『暗殺者』」


 男は写真の主をナイフでさして、天井の木できた柱に釘さす。


「この男、先生がそこまで警戒する必要がある……と?クフフフならばこそ、我の新たな力を試すにはうってつけな訳だな……そうだろう?『キエス=カルロン』とやら……精々あっけなく死んでくれるなよ?」


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