第36話 舞踏会/前々日〜

 重大な予言を受けて、8人の魔法使いの頂点が会議を行った。

 会議では魔法使いと冒険者達の提携について長時間の議論が行われたのだった。


 8人のうち5人はかなりの重症を負ってしまったが故に代理だったのだが。


 彼らは会議の中で魔導学院スカーナリアで冒険者と魔法使いの関係を築くことで同意し、魔導学院スカーナリアを『勇魔学院スカーナリア』へと変化させた。

 だがその場にいた誰もが、あの魔族たちを倒した後にすぐに元の形態に戻すつもりでいたわけだが。


 キエス=コキュルトはヨミナと会話しながら、会議室を出る。

 二人の心の中にあったのは、『預言者ラババンバラ』の言葉であった。

 ここ数年の間に14歳になる魔法使い。……その中に勿論あの忌々しい『カルロン』が含まれていたせいである。

 建前上とはいえ追放してしまった息子を、出来損ない、役立たずと貶した息子を再び魔法使い及び貴族の世界に引きずり込むのはさすがのコキュルトにとっても大問題だったからに他ならない。


「あなた、どうするつもりなの?……あの子カルロンが生きていることは知っているけど……でも……あの子は戦う力を持っていないはずなのよ?!」


「ええい分かっている!……しかしあの預言者ラババンバラ様の予言は絶対!……外れたことが無いのだから……全く仕方あるまい……」


 コキュルトは忌々しく思ったのか近くの椅子を蹴り飛ばす。

 カルロン。キエス=カルロン。彼が純魔の血を引いてしまっていることをこれほど恨んだことは無かった。

 もし彼があの預言者の存在、後に『魔皇』になる器だったとしたら……それを見抜けなかった我々の立つ瀬がなくなってしまう。


「だからこそ、見極める必要がある……のでは無いの?あなた……あの子がどんな風に成長したのか分からないでしょ?……でもさすがに無いわよ!……だって生まれて直ぐに魔法を使えないなんて言う子が……魔法使いの頂点になる訳がないわ!……多分他の兄妹がなるに決まっているわ!」


 半分狂気的にそう乱れながら叫ぶヨミナ。彼女からすれば、自分が必死に愛を伝えた他の兄妹を贔屓したくなってしまうのは必然なのだった。


「大丈夫だ、あいつが……カルロンが『魔皇』になるなどと言うありえない話の考えを持つな、やつは冒険者の世界でたるんでいるだろうからな……ふん、しかし権利として存在している以上はそれを使わないのは我々純魔の持つ理念に反する……全く忌々しい予言だ」


 二人は回廊を後にする。しかし知る由もないのだろう、キエス=カルロンという少年が……どれだけの化け物になっていたのかを。


 ◇◇◇◇





 カルロンはその日、お茶を飲みながらハンモックに腰掛けていた。

 もちろんただのハンモックでは無い。常に回転し続けると言う魔法がかかったハンモックだ。


 それを魔力で締め付けて固定し、その状態を維持する。これは【天空】の力の訓練の一環だった。


 すると家の周囲に展開していた魔力結界に見慣れない人物の魔力探知結果が入ってきたのだ。


「ん?……誰だ、この魔力……魔法使い?映像は……ふむ貴族のようだな」


 俺は周囲にいたヘカテーとシェファロを隠れさせると服装を割とまともそうな……まああくまで冒険者としてのまともな服で赴く事にした。


 ◇◇


「────キエス=カルロンとかいうやつはここにいるか!?出て来い、俺の時間を無駄にさせるんじゃないぞ?!」


 なんともふざけたやつだ。まあ魔法使いはだいたいこんな感じだから気にはしないが。


「こんにちは、僕に何か用事があるのでしょうか?」


 草むらからゆっくりと俺はそいつの前に姿を見せる。

 すると少し驚いたような表情の後、ソイツは。


「ふん、俺の時間を取らせたやつがこんな弱っちい雑魚とかふざけている!……まあいいオラ受け取れゴミ野郎!……てめぇ宛に手紙だとよ?ふん!まあお前見たいな雑魚がいったところで対して何も変わらんと思うがな?……ったく汚ぇ土地だ……まじでなんで俺様がこんなゴミ見たいな仕事を受けなきゃ行けねぇんだよ!」


 おうおう言いおるねぇ。なんと言うか典型的すぎる貴族にして魔法使いだね。

 俺は地面に落とされた手紙をとると中身を開く。


『─────カルロン貴様を舞踏会に参加させてやる。

 だが勘違いはするな、これは預言者ラババンバラ様の預言に貴様も含まれているから確かめるために過ぎない。

 しかし貴様もあの素晴らしい舞踏会に参加する権利をつけられているのだから精々ちゃんとした服装をして礼儀は最低限持ってこい。

 ふん──全くお前みたいなやつにわざわざ私が時間をかけてやっているのだ、一生感謝の心を持って私の前に顔を見せること、良いな?

 』


 なるほど、嫌な予感は的中したか。しかし舞踏会とは……。

 生憎俺は貴族としての服装など持ち合わせていない、それにこの手紙にはそもそもいつ何処で開催されるのかすら書かれていない。


「あの、いつ何処で開催されるのかとかはわかったりいたしませんか? 」


「ああ?そんなことぐらい、自分で考えろ!?……まあお前見たいなやつには無理だろうがな!」


 ふと手紙には何か消されたような跡が残っていることに俺は気がつく。

 魔力探知をかけてみると……。


「えっと明後日、王城にて……で御座いますか?……かしこまりました」


「?!なんでてめぇわかった!まあいい……ふん俺は仕事は終わらせた、じゃあな!ぺっ!」


 そういうと唾を吐いて『転移札』を起動してソイツは消えた。

 その表情の変化具合からして、多分だがコイツわざと手紙のあの表記を消しやがったな?


 まあこいつの魔力は覚えた。いつの日か俺の手で相応の報いをあげてやろう。




 それにしても明後日、急だな。しかしまあ問題は無いか。


 俺は早速魔力通信を起動してに電話をかける。


「もしもしワルツ様はいらっしゃいますか?──ええそうですカルロンでございます……出来たら……」



 忘れがちだが、王都はクヴァラークの上にある。

 言い換えれば中央ギルドからは直通で上に行けるのだ。

 まあ幸いな事に俺はつい先日までクヴァラークのワルツ殿と仕事を共にしていたのでな。

 さっさと服を作って、用意をして行くとするか。


 ◇◇


「カルロン様本当におひとりで行かれるおつもりですか?!……あ、危ないのでは無いでしょうか!」


「だが俺は魔皇になるつもりだからな、いずれはあの貴族どもを黙らせるためにも一度現在の魔法界を調べておく必要もあった、という訳だ……まあ暫くは一人で大丈夫か?……心配ならばギルドのメンツ……いやそこの女神様でもそばに置いておくが? 」


「ちょ!私をものみたいに使わないでよ!いいけど……」


 ◇◇


 まあそんなこんなで俺は二人と別れ、ギルドクヴァラークへと足を運ぶこととなった。






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