第30話 邂逅と別れ。そして──。
オルフェウス、と名乗った男。そもそもヤツはなぜ俺の名前……それもフルネームを完全に知っているのだ?
俺は即座に鎖を破壊してその場から離脱し、武器を構え直す。
カルロンの脳内には疑問、疑念が押し寄せる。それはカルロンがかなり焦っている事の証明であった。
「キエス=カルロン……君は私を知っている、そして私もまた知っているのさ……まあ君に見せていた顔はこっちだったかもしれないけどね」
ゆっくりと髪の毛を下ろす。たったそれだけの行為にもかかわらず、俺は即座に相手が誰だったかを思い出した。
「お前、お前まさか……先生?!」
「えぇそうですね、あの時……あなたをハズレ……呼ばわりした男ですよ?カルロンくん?」
思い出した。ああそういえばこいつの顔、今になってじっくり見ると本当にあの当時……俺をバカにした野郎と瓜二つじゃないか。
「まあ今は、オルフェウスと名乗っておりますが……いずれは全ての魔族の王として君臨するつもりなのですよ?……」
魔族の王……?魔族、魔族だって?
魔族と言えば……あれ?魔族って何だ。
「この世界では魔族など言う言葉、聞いたことがないが?」
異世界人だからその言葉にある程度理解は示せるが……少なくとも俺はこの世界に来てから一度たりとも魔族などという存在のことは聞いたことがなかった。
するとオルフェウスはにっこりと微笑み俺の疑念に答えるべく口を開く。
「そうです、聞いた事は無いはずです……なんせコレは異世界の知識ですからね?つまりこの言葉に即座に反応した貴方は……異世界人ということですね……納得です、あなたの強さ……実に納得が行きます」
「ブラフ……いや、俺の考えを誘導したのか貴様……だからどうだと言う話だがな?──俺は今すぐにでも貴様らを倒せるぞ?」
嘘だ。嘘である。──先程の【狩猟戦技】を使った反動か体が痺れている……それにあの鎖を破壊したあとから妙な事に足の感覚がかなり狂っている。
「(女神、聞こえているか……おい、ヘカテー?!)」
「──聞こえているわよ?まあ心配しなくていいわ、どうせあなたを倒すつもりでは無いらしいし」
女神はまるでどうでもよさげに話す。
「──さて、我々と宿敵の感動的な再会はここら辺までにしまして……そろそろおいとまいたしますね?ああでも、せっかくなので皆さんの自己紹介……なんてのはどうでしょうか?」
「ふざけているのか?貴様」
「えぇ?折角の怨敵、対敵、これからおそらく何度も死闘を繰り広げる予定のもの達の名前を覚えていかないのですか?!……せっかく私は自己紹介用のゼッケンを持ってきたというのに!」
「待てコラオルフェウス?まさかそのクソダサいゼッケンを私に被せるつもりじゃないだろうな?」
隣で静観していた確か『ドミネウス』と呼ばれていた武器商人のような男があきれ声で囁く。
「嫌かい?折角作ったのになぁ?ホラホラ!着ないと無理やり被せちゃうぞぉ?」
「クソ!全くお前のセンスだけは俺は許せないんだよ……はぁいいさ…………コホン、カルロンと言ったな?俺は『ドミネウス=シーザー』……まあ【
そう言うとドミネウスと名乗った男は指をパチン、とならして何かのゲートを開き……そこに入っていった。
「さぁ!次は……おやぶんどらないでくれ?アークトゥルス?……せっかく振り分けてあげようと思ったのに」
「全く、余計な事しかしでかさないな貴様は……そもそも私は鎧を来ているのだからゼッケンなど入るわけがないだろう?」
騎士がため息を吐き戻して、ゼッケンを奪い取る。
「大丈夫!このゼッケン、『神獣フェネクス』の皮で作ってるから……伸縮じざ」
「バカか貴様!?あの貴重な素材、こんなくだらないものに使ったのか!?…………お前はそう言う男だったな……はー……ンン。……すまんな私は『アークトゥルス=アリギエリ』……【
そう言うとアリギエリと呼ばれた騎士は空間を叩き斬り、どこかに去っていった。
「んでお次は……オズワルドはもう挨拶したもんね、なら〜おっと!」
「ちっ!時間が無いのに無駄なことしやがって!いいからよこせそのゼッケン!ダサいのには目を瞑ってやるから、ほら!」
そう言うと看守みたいな服装の女はそれを肩にかけると……。
「あーアタシは『サリエル=グリモア』だ。まあ【
そう言うと彼女もまたどこかに歩いていった。オズワルドを足を持って引きずりながら。
「──彼ら面白いでしょう?元々彼らは魔物だったのですよ?……おや、そんなに驚かなくてもいいではありませんか?…………ではそろそろおいとま致しましょう!……いつの日か、あなたが私達の最高の敵として現れるのを楽しみにしておりますよ?……」
そう言うとオルフェウスも闇の中に消えていった。
消える直前、指をパチンと鳴らしたことで……後ろで何かが爆発した気がしたが……俺は目が離せなかったせいで……気がつけなかった。
◇◇◇◇
後ろを見ると、先程捕まえた輩……名前も知らない爆発魔と毒を撒くつもりだったおじいさんが爆散していた。
なるほど、今の一瞬で完全に証拠を消されたか。
俺は何故か冷静だった。おそらくだがあまりにも理解が追いつかないことが多すぎてしまったせいだろうか?
その後騒ぎを聞いて駆けつけたほかのギルドマスター達に事情を説明し、そのうえで俺は改めて会議の内容を実行することになった。
ちなみに内容は……割と拷問に近いことかもしれない。
◇◇
「くははははははっ!どうだった?オズワルド!今まで傷一つ負わなかった君がここまでボロボロに負けた気分は!」
オルフェウスの言葉にオズワルドは苦笑いしつつ──。
「最悪だぞ全く、だが良いのか?やつをあの場で始末しておかなくて……いずれあいつは俺たちを殺すぞ?」
「だからこそ、だよ!……あの性格、あの強さの人間が……トップに立たないわけが無いだろう?いやぁワクワクするだろ?種族の頂点同士の大決戦!!私が異世界からの知識でみた本によると……こういうのが人間にとって最も心躍る展開なんだってさ!」
そう言って笑うオルフェウス。
呆れた声で隣からドミネウスが言葉を入れる。
「それでこの後はどうするつもりだ?──魔物にある程度の知識と武装をばらまくのは成功しているが、何処をまず攻め落とす?」
するとオルフェウスは楽しそうに──。
「いやぁ?決まっているだろう?……まずは舐め腐っている貴族と魔法使いの本拠地……つまりは……王都さ!!」
人間達は今はまだ知らない。彼ら【魔王】と【四天王】達による空前絶後の大災害。
魔法使い達が近接戦闘を学ぶ必要性に気がつくその出来事、そして──学園『スカーナリア』が魔導以外を教えることになるその出来事。
──この時の出会いは、世界を変えたのだ。
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