第29話 相手が悪い

 放たれた槍は愚直にオズワルドを狙う。しかしオズワルドの方が上手だったようで、いとも簡単にかわされてしまった。


「おやおや?狙いが外れた様ですねぇ?しかし今の一振は当たっていれば私を倒すに事足りていたと言うのに」


「──チッ!外れた!?ええぃせっかくの俺の必殺の一撃だったのにっ!……等という茶番はしなくても良いか」


 俺は茶番をする顔を捨てて改めて相手を眺める。


 突然冷静になられたことでさすがのオズワルドも困惑の表情を隠せていない。

 さらに俺はやつの心を揺さぶる言葉を投げかける。最もそれは相手の隙を完全なものにする為……でもあるのだが。


「──オズワルドだったか?お前は知らないだろう?を」


「くははははははっ!効果、ええ効果ですか!どんな効果があれ当たらなければどうということはないのが分からないのですかな?」


 その言葉に俺はその通りだ。と伝えるとゆっくりと狩猟用のナイフを構えながら──。


「知らないだろうから教えてやろう、今の槍の名前はな?【ゲイボルグ】と言うのさ」


「ゲイボルグ?ふむ知らない武具の名前でございますな?……それで一体どのような効果があるとでも言うのですかな?」


「この槍はな、本来は絶対に相手に当たるという槍なんだ……だが俺はどうやら慣れていなかったようでな……狙いを外してしまったのだよ……」


 俺は悔しそうにつぶやく。対するオズワルドはその表情に哀れみを浮かべながら……それでも片時も隙を作ることをやめない。


「──まあつまりは不発だったのだがな……おっとまだ少し話させてくれよ?……実はな?あの槍はで作られていてな……そして何と」


「時間稼ぎのつもりでございましょうがそろそろ私も決着をつける必要がありそうなので、さっさと話を切り上げさせて……」


「だから待てと言っているだろう?──この槍はな?……投げた後30に分裂するのだと俺は投げる直前に知ったのだよ…………では一つ、?」


 その言葉を紡ぐか否かの合間に、シュルリ。と音がして何かがオズワルド目掛けて飛んでいく。


「──ッ?!まさか!」


 オズワルドは瞬間的に周囲に魔力を張り巡らせて探知をする。そして高速で飛来する30発の槍を認識すると同時にその場を離れようと飛び上がる。


 ──しかし。


「隙が本物に変わったな?」


 目の前にいつの間にか相対していた少年がいた。それも鉈のようなそれを構えてこちらに突撃をしてくる。

 反対側の手には高出力の魔力の予兆がしている。これは不味い!

 直感でオズワルドは自分のミスを悟る。


 オズワルドは自分の意識を一瞬ずらして辺りを確認してしまった。故にその僅かな完全なる隙を利用したカルロンの隠蔽に引っかかってしまったのだ。


 咄嗟の爆発魔法を唱えて離脱しようと考えるも、その思考が到達する前に──。


「【狩猟戦技】『加速刺突撃アクセルスラスト』!!」


 狩の女神の力を利用した、一時的な身体強化に加えて……元々持ち合わせていた魔力がよく馴染んだ肉体から繰り出される刺突攻撃は───避けれない!


 それでも、何とか致命打を免れて横に避けているのは……さすがとしか言い表せないだろう。


 ピッ、という音が閑散とした街の一角に響く。

 カルロンは鉈から血を払い、振り向く。


「──チッ、今のですら回避してくるか……さすがに化け物にも程があるだろうが」


「はァ……はァ……どっちがでしょうなぁ……」


 血を拭いながら立ち上がろうとして、フラついた体のまま壁にもたれ掛かるオズワルド。


 内心では既に今の一撃の致命性を理解していた。


「──まだやるか?なら……【狩猟戦技】『慟哭致命撃ヴォーパルストライク』!!」


 カルロンは明確な殺意を持ってその鉈を振るう。先程までのナイフの時とは比べ物にならない確実な殺意。

 赤と黒のオーラを纏った鉈が倒れかけているオズワルドにトドメを刺し……………………。


「オズワルド、遅いと思ったら子供と戯れていたのか?──全く貴様は懲りないな」


 カルロンの振り下ろした斬撃を一人の男が受け止めていた。

 片手でそれを防がれているという状況に、即座にこいつが新手であること……そしてこの目の前にいるオズワルドよりもさらに強敵と判断して距離を取ろうとした……その瞬間。


「【銃魔法】『千銃一夜噺バルカン・ファイア』」


 千発のがカルロンを狙う。そして弾丸の雨をカルロンは即座に防御魔法で防ぐ、しかし──。


「おや?今のを即座に防御しましたか……なるほどオズワルドが苦戦する訳ですね」


 千発中九割は防いだ。それでも体のあちこちから鈍痛が響く。

 今のは銃?この世界にはそんなものは無いはず……まさか……。


「お前転生者か……転移者なのか?!!」


「はて?君が言っていることは知らないが……コレは拾った力だからな」


 そう言うと黒服の……どちらかと言うと軍師?のような見た目のそいつはオズワルドを抱き抱える。


「嗚呼しかし君は強い、今の攻撃を防いだだけでもかなりの手練だと分かった……故に残念だ」


 その言葉の真意を確かめようと動くその前に、後ろから斬撃がカルロンを襲う。


「──────ッ?!いつの間に?!……俺も少しは探知に自信があったのだがな、自信を無くすぞ?」


 まるでハエがいつの間にか肩に止まっていた時のように自然な形で隣に剣があった。

 肩を少しばかり斬られたが、それでも何とか避けた俺を見て……斬撃の主は。


「ふうむ、わたしの攻撃を回避するとは……素晴らしいですねぜひ弟子にしてあげたいですが、まあそれは無理な話なのでしょうね?もったいない」


 ──騎士。フルフェイスで分からないが、女性と思わしき騎士だった。黒く……青く澄み渡る空のような防具に身を包んだそれが悲しそうに剣をこちらに向ける。


 少なくともここまで出てきたヤツら一人一人があの『ベルゼビュート・スライム』と同じかそれ以上の強さだ。間違いない……コイツらはヤバい!


「──ッ?!足が……?!」


 そして俺の僅かな思考の隙を縫うように……足に鎖が巻き付く。ありえないと言いたかった。


 鎖だぞ?鎖。それを巻き付けた主は俺の肩をぽんぽんと叩いて……。


「君の強さはよくわかった、故にその回避を制限させてもらうぞ──悪く思うなよ」


 軍服。いや──看守?のような見た目の女性だった。

 頭からは角が生えており……間違いなくコイツは人では無いことだけはわかった。


 というか冷静に不味いぞ?こんな化け物立ちに囲まれていては……さすがの俺でも生きて帰れるか……。


「そこまでですよ、オズワルド、ドミネウス、アークトゥルス、サリエル……君たちの役目は終わりましたので……撤退の時間でございます」


 突然現れたソイツは…………なんだコイツは。


 先程までの奴らはどうにか頑張れば、勝てる。そんなところだったのに……コイツには勝てない。そのイメージしか頭に流れてこない、どうなっている?!


「初めまして、殿?私はここにいるモノたちの長をやらせていただいております……と申します……以後、お見知り置きを」


 そう言ってにこやかに微笑む男。


 それはのちのち、カルロンと幾度となく死闘を繰り広げるその人……いや、その魔物そのものである。



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