第28話 オズワルドVSカルロン

 怪盗紳士オズワルド・メギストスは優しく目の前の少年に対して微笑む。それは圧倒的な力を差を確信しているからなのか、それとも……?。


 カルロンは会話しながらも幾度となく攻撃のタイミングを伺っていた。しかし人は隙がありすぎるとどうにも攻めのタイミングを見失うようである。


 実際ここまでの間冒険者たちと戦いを共にしていたカルロンには癖として残っている。そしてそれがかなり邪魔をしていたのだった。


 参ったな。手に構えたハンティングナイフを構えては見るものの攻めのタイミングが分からない。


「──貴様は怪盗紳士と名乗っていたな?……その割にどちらかと言うと盗賊のような戦い方を好むようだな?俺が知っている怪盗紳士は優雅に、華麗に貴族達から大切なものを奪っているイメージなのだが?」


「くはははは!!貴方面白いことを言いますねぇ?ええ確かに、私は怪盗……つまりはことを趣味としておりますよ……ですが……嗚呼貴方は誤解なさっているのですね?」


「誤解?少なくともお前の今の行動を見るに、街を混乱に陥れようとして……そして命令にそ向いた男を殺しただけだろう?」


 鋭い目付きで返す。それに対し、ゆったりと片膝を曲げながら手に持った何かの術式札を眺めるオズワルド──やはり踏み込むタイミングをずらされている、そう俺は実感する。


「──だからワタクシはちゃんと、を奪っているではありませんか?──もしや貴方は人の最も大切なものがだと思っておりませんか?」


「普通はそうだろうが?────まさか貴様」


 恍惚な目を空に向けて、オズワルドはポケットからネズミを取り出す。

 そしてそれをゆっくりと握る。握りつぶそうとする。


「──これを見てください、必死に今を生きるネズミです……ええ可愛らしいでしょう?愛おしいでしょう?そしてこれを手に持ったものはただひたすらに愉悦を楽しめるでしょう?」


 そして言葉を遮りながら、ソレを地面に落として踏み潰す。


「簡単な話です、ワタクシは人々のを奪う怪盗なのです……貴方は知らないでしょう?人々は平和になると鮮度が落ちてしまうのです……腑抜けて、ぼーっと生きて……それでは美しくないではありませんか?!」


「平和を奪うこと……なるほど、貴様はそこら辺の悪党よりもタチの悪い輩ということだな?……」


「うふふふふふ、お褒めに預かり光栄!嗚呼しかし、しかし!!人々から平和を奪うのは至難の業!……であれば、手っ取り早い方法は……を引き起こすことです」


「──外道だな貴様、救いの余地がない」


 こんな会話に意味を俺は見いだせない。見出す必要が無い。

 だが攻めの姿勢を取るたびに殺気をかわされる。そしてその移動経路に何かしらの魔道具を配置される。

 厄介、ただ強いだけの輩じゃない。コイツは──。


「ですが、戦争……しかしそれは簡単に引き起こせるものではありません!……しかし幸いなことにこの世界には使等という格好の爆弾が眠っているではありませんか!……そういえば貴方は魔法使いなのでしょう!?」


「────お前まさか今回の七罪の出現、それに何か関係があるのか?」


「ない、とは言いきれませんねぇ?」


 俺は無言で構えを解き、そして。


「───そうか、人々から平和を奪う男……君のことを私は誤解していたようだ、そう───君は


 そういうなり、俺は足を踏み込み……一瞬でやつの懐に潜り込む。

 普通の冒険者、魔物であれば……この攻撃には対処不可能。何故ならば殺気も無く……そしてを描いて俺の体が移動するから。


 相手が人であれば、殺人になるかもしれない。しかしもはややつは人では無い。

 俺が僅かに感じたのはやつは魔物だ。


 そして俺のその攻撃は────。





「甘いですねぇ?全く……魔法を好み、使うのは人間の特権ではありませんよ──【幻覚魔法/咲き誇る魔導の花畑ブルーム・サイケデリックガーデン】」


「かわされたか、チッ!」


 まるで綺麗に懐に入るのを予想されていたかのように……そのまま魔法で回避される。さらに──。


 さらに?アレ……?なんだ、思考が……ていし……てい……て……い……し…………。


 頭に花びらが生える。気がつくと体のあちこちからたくさんの綺麗な花弁が芽吹く。

 それが増える度に、カルロンの肉体がどんどんと遅延されていく。思考も──反応速度も全部が全部……極端に遅くなっていく。


「──っ!カルロン!起きなさい!」


 全てが花で埋め尽くされる直前、ヘカテーの声が頭に響き……花を俺は即座に焼き払う。


「───へぇ?!驚きました、今の攻撃は実にしっかりとハマったと思ったのですが……ではこちらは如何でしょうかな?【爆裂魔法/毒爆人形の最期トキシックドールエンド】!!」


 ぽん、ぽん、ぽん。と三体ほどの人形が現れる。それは見た目は顔に「毒」と書かれただけの質素な人形で……されどそれの速度はまるでゴキブリ。


 あっという間に俺に近づくと、爆散する。


「───ッ!『魔力結晶弾マナクリスタルバレット』!!」


 より高出力の魔力弾を放つ。しかしそれですらそれらはなぎ払えない。

 ──無に帰すを使うべきか?いや……ここでこいつを仕留めるのは不可能な気がする。


 あれは。今までの奴は回避してこなかったから使ってもそこで仕留めていたから問題なかったが……しかしコイツは……。


「───動きが止まりましたねぇ?!【改造光魔法/溶ける光の槍メルティング・レーザーランス】!!!」


「ッ?!な、だとッ?!」


 五発の光の槍……もといがこちらを狙う。

 おかしいだろうが、普通人はひとつしか魔法を使えないんだぞ?


「──てめえさっきからなんだ?その無数の魔法の数々!……」


「──その割にそれら全てを避けたり防いだりされてはこちらも悲しいのですがな?」


「────だがな……そろそろお前の動きも理解してきたところだ……次で決める」


 俺は会話をするべきでは無い、こいつに振り回されるべきでは無い。と判断し──。


 ゆっくりと足に最大魔力を紡ぐ。俺の右手には一本の槍が握られている。


 ゆっくりと、確実に………………【狩猟神技】発動!


 そして槍が放たれる。


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