第27話 邪魔者2〜4、そして。

 何故だろう、言葉が上手く出てこない。


 女神と会話し、力を授かったあとから……あまり理論的に考えが及ばなくなっている?

 俺は移動しながらふと疑問に思った事を女神に確認する。


「──ヘカテー?ひとついいか、に弊害みたいなものはあったりするか?」


「──へ?あ〜あ〜、うん。あるよ……?フツーに考えたら【天空】を支配する神様の力なんて人間が持っていいわけないでしょ?それに……」


 それに?俺が尋ねると、ヘカテーは呆れたような顔をして。


「別に【天空神】の力って私との契約に含まれてないから、使えば当然毒だよ?……」


「─────それでどんな弊害が?」


「IQが下がる」


「──ソレを先に言え!!」


 冷静な話、たしかに【天空】の力を使ってからしばらく思考にロックがかかったかのような状態だったし……。

 成程、過ぎたりし力は悪影響とな?


「可愛かったわよ?普段の冷静な状態じゃないあんたも!」


「──そうか、たまには良いかもな」


 ◇◇◇◇


 二つ目の場所にたどり着いた俺たちの前にいたのは……。


「ここはどこじゃ?!ええいクソぅ!……ここは真っ暗すぎる!……ぉぉそこに誰かいるのか?ならばスマンが、火を貸してくれんか?」


「……えぇ……」


 暗闇、地下水路で彷徨うジジイが一人。俺は魔力探知で場所がわかるからいいが…ふと地面を見て……まあ納得した。


 地面に落ちていたのは魔道具の破片。ソレを俺が検索したところどうやら──灯りとしての機能を持つソレだった。

 この爺さんは爆弾で一緒にこのライトもどき諸共破壊してしまったのだろう。


 おかげで背中に装備していた毒をまく暇余裕がなかったのは、助かるところではあったか。


「──あ〜おう、爺さんや……悪いが捕まってくれないかな」


「──若いな、力の差を理解出来ぬとは愚か者としか言えないな……」


 そう言ってどこが分からぬ方角に喋りかけるジジイに何を警戒するべきというのだろうか?

 まあ逆に言えば、こいつが馬鹿で助かった。

 その背中にあった毒瓶を本当に水路に流されていれば……余計な手間が増えているところだった。


 とりあえず気絶させた後、俺は次の場所に向かう。まあ一言言うならば、今んとこ微妙に変な奴しかいないのだが?


 ◇◇◇



 そして三人目の場所にたどり着いたのだが……。


 そこは凄惨な血みどろの現場となっていた。


「おい!しっかりしろ!……死にたくないならさっさと立て!」


 仮面を破壊されて、それでも倒れたスキンヘッドに呼びかける男。

 しかし声には答えない。どうやら亡骸となっているようだ……。


 ふと風が吹く。それは妙な寒気を纏っていて俺も即座に武器を構えさせる程の嫌な気配を纏っていたのだ。


「──ヘカテー、【狩と月の神アルテミス】の準備を!……何かが来るぞ!?」





 ─────「おやおや?……子供がこんな場所に足を踏み入れてしまうとは……いいえ違いますね?わざと来たのですね……殊勝なことでございますなぁ」


 そこにはがいた。俺が知っている限りは、誇張された怪盗紳士でなければしないような見た目の服を纏い、そして静かに……俺を見下ろす。


「初めまして、少年。……私は……怪盗紳士と申します……以後、オズワルド……とお呼びくださいませ」


 隙だらけの表情で、ソイツは微笑む。──隙しかない……だからこそ、故に俺は動けない。


 まるで一歩でも踏み込めば、その瞬間に首を絶たれそうな程の存在が目の前にいたのだ。


 魔力は測定不可……しかしその性質はカゲロウのように揺らいでいて、気持ちが悪い。


「ふうむ、どうかなさいましたかな?もしやなのかと警戒なさっているのですかな?いやはや素晴らしい、実に優秀な使なのですねぇ?」


「──俺を魔法使いと見抜いたか、なかなか鋭い目をしているな貴様」


「嗚呼、当然で御座いますから。私の目は少々特殊でしてねぇ?……しかし貴方はどうやらお強いようですなぁ?……私が撒いた駒を見事に二人もこの短時間で討ち取って見せたのですから、さすがとしか──」


「お世辞はいい、貴様何が目的だ?……わざわざ貴様が撒いた駒を自分の手で殺めた?──理解ができんぞ」


「嗚呼そんな怖い目付きをしないでくださいませ?興奮してしまいますから!……彼らは私の指示に従わなかった……それだけなのですよ」


 指示に従わないだけで殺す?こいつは狂っているのか?


「狂ってなどおりませぬよ?むしろ私の指示に従わないのは素晴らしいこと……ですが体に刻んだ刻印が無駄になってしまうのは少々もったいないのでね……?まあ皮ごと剥いで使い回そうとしたわけですが……抵抗されてしまいまして」


 刻印?皮ごと?─こいつからはまるで一ミリも人に対する誠意が感じられない。そんなことがあるのか?


「故に拒むのならば、その身ごと……おっと言い間違えました……刻印を作り出してしまえばいい!と考えましてな……ソレを先程試していたところ、実に悲しいことに体が耐えきれ無かったようなのですな──」


「喋るな、貴様──これ以上は不愉快すぎて聞く気になれな」


「なんと!それは申し訳無いですな!嗚呼しかし、しかし!……この私の姿を見てしまったのですから……それはどうすれば良いと申すのでしょうかな?」


「………記憶から消せ。さもなくば即刻潰す」


「なんと!こんな子供にそんな言葉使いをされてしまうなど……しかし私は目的があるのです!……故にここは生きて帰るつもりなのですぞ?」


 その言葉が嘘か本当かは知らないが、先程からこいつの言葉には一変たりとも人間らしさが無かった。


「貴様は何が目的でこんな非人道的なことをしている?答えろ」


 悪魔が如く笑顔で。優しそうにソイツは答えた。


「────私は怪盗ですぞ?……なれば……奪う対象など……自由に決めていいはずで御座いましょう?」










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