第25話 会議の幕開け

 俺はゆっくりと女神を振り返って睨む。特に意味は無いのだが、なんだかすっごくものを言いたい気分だからね。


「──目をそらすな、女神?これは一体どういう事だ?」


 ダラダラと汗をかきながら女神は弁明する。


「ちょっとやりすぎたかな……アハハハ……あのですね天空の神様の力が強すぎたみたいですね!……あの?わ、私は悪くないからねっ!?」


 どう考えても出力ミスだろうが?とはさすがに俺も思ったが、しかしそれはそれとしてなかなかな力だと自らに付与された新たな力の感想を述べる。


「そ、そうだ!これからどうするの?──ギルドはあんな有様だけど?」


 俺は崩壊したギルド跡地を思い出す。おそらくだが復興という形で進めていくのだろうが、うーん……おや?……うむ?。妙だな……言葉がなめらかになっている……?変だな……。


「いや、ほかのギルド本部も大打撃受けたと思うからな……まあこの後のことは俺たちでは無くギルドマスターが決めることだ……しかし全く強いな、ギラは」


 ──あの後、片付けたことを報告されたギラは……その目……とっても辛そうな目だったけれどそれでもギルドマスターとして即座に指示を出していた。


 当然生き残った僅かな冒険者たちは、各自対応に追われてはいたけれど……まー何とかなったようで。


 今はすぐにほかのギルドとの連携のための準備、物資の確保などを最優先で進めつつ、非戦闘民の寝床などを疲れた体に鞭打って作っていた。

 ──別に俺が言えたことじゃないかもしれないけれど、冒険者達何か強くない?


 ドライ?違うな……なんというべきか分からなくてちょいともどかしいが……すっぱりとしていてとても冷静だと思う。


 ◇◇


「おー【天空】の力で物を浮かせられるの便利だな!……とりあえずこれで瓦礫の撤去が捗るぞ」


 新たに手に入れた【天空】の力で俺は塞がってしまった街道の瓦礫を撤去していた。

 魔力効率も桁外れによく、特にそのまま『壊れる前』に『帰還もどす』ことで持ち上げたものを即座に修復する。巻き戻しに近い神の御業。


 ──時の魔法はこんな感じなんだろうか?


 やがて圧倒的に山積みだった瓦礫は消え去り、そして人々の日常を取り戻す会議が始まった。


 ◇◇


 俺とギラは中央ギルド『クヴァラーク』に向かうための馬車に乗っていた。

 ただ道中はかなぁり悲惨な状況であり、ソレを直しながら進んでいたのである程度時間が経ってしまった。


 なので──。


「遅い!ギラ!……お主ら遅すぎるぞ!!10日待ったんだぞ?!」


 北部ギルド『リントヴルム』のギルドマスター、アックスが怒鳴る。


「はぁ全く、せめて嘘つくなら1日とかにしなさいな……見苦しいわよ?アックス」


 西部ギルド『ヤト』のギルドマスター『ナギ』がため息混じりの声でアックスを責める。


「まあいいじゃないか、ちゃんと揃ったんだからな……そうだろ?ギラ。しかし酒がないのが虚しさを加速させてきやがるなぁったくよ……」


 南部ギルド『ユルルングル』のマスター『ジョイス』が酒欲しそうな目で虚空を眺める。


 と、最後の一人が現れた。それは優しそうな女性。

 中央ギルド『グラヴァーク』の総括者『ワルツ』。


「──揃いましたね?まずは感謝を、生き残れた事……無事厄災をしのげた事を祝して…」


「そんな事よりもさっさと復興案を出そうぜ?──んでギラ、その小僧は誰だ?……迷子か?」


「迷子では無い、初めまして……俺はカルロン……ウロボロスの一人だ。今回は復興に俺の力を役立たせればいいと思ったのでな……おや?──俺の顔に何か付いているか?」


「ガキがめちゃくちゃ流暢に喋ってやがる?!……いや待て貴様の名前確か……まさかお前があの伝説のカルロンか!?」


「おいおいマジかよww本物?!……話は聞いてるぜ?冒険者たちの間で話題なんだぜ?……ちびっ子に危機を救われたって言ってな!──いやーすげぇマジで大人だなこの喋り方とか!」


「あら、ふふふ……いい人材を見つけてきたわねギラ。──美味しそうねぇ」


 ぞくりと何かが背筋を走る。──あのお姉さんちょっと視線が怖いです。


「コホン……成程彼の『帰還』だったか?その魔法を今回の復興作業に使うという事だな?ギラよ……本来であれば、貴族……そして子供に頼るなどしたくはないが……致し方無いな……なんせ今回は使どもは手を貸さないとの事だ……先程そう通達が来たのだ……」


 なるほどね。まああの父親達が冒険者に力を貸すようには思えなかったし、当然と言えば当然だよね。


「おいおいマジか……クソやつらめふざけ散らかしやがるなァ?!マジクソ野郎、外道じゃねえか!?」


「俺達が何人犠牲になっても気にしない、というわけか……全く、カルロン以外の貴族は本当にカスばかりだな」


「いずれこの恨み、千倍……いえ一億倍にして返すことにいたしますわ?……それはともかく、中央はどこがダメなんですの?」


「あ〜うん……まずはこの中央ギルドに現れたのは『七罪憤怒/ラース・ドラゴン』……アイツが暴れた結果八割の施設と冒険者が被害を受けた……幸いこちらは特殊な力を持った冒険者が揃っていたから何とか対処出来たが……」


「そっちは【憤怒】かよ……こっちは【嫉妬】だったぜ?……アックスの方はどうだった?」


「こっちは【怠惰】だったぞ……全く気力をガリガリと奪う厄介な奴だった……面倒だったが精神力でゴリ押せたのは良かったと言うべきかもな」


「俺達は【暴食】だ──はっきり言ってカルロンが居なければダメだった、それぐらいの絶望だった……八割が死んだしな……」


 言葉が徐々に重くなっていくギラの肩を叩いて、今は気にしているときでは無い。という意志を伝える。


「あら、私のところは【強欲】でしたわ!……まあ盛大にアイテムを奪い散らかしやがりまして……結局溜め込みきれずに爆散させましたの……まあ商人共にとって命とも言える大切なアイテムを軒並み使わされたのは致命的と言えますわね」


【憤怒】【暴食】【嫉妬】【強欲】【怠惰】か。


 ならばいつの日か残りの【色欲】と【傲慢】も来るのだろうか?


 ともかく彼らの話し合いはそうして幕を開けたのだ。











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